月刊杉WEB版の重みとスギダラ
文/南雲勝志
 
 

 

読者の皆さんは時々、WEB上で読むのが辛く、時間がなくて後でゆっくり読もうとプリントしされる方も少なくないと思う。ところがいったんプリントをやり出すと、その量に驚き、ため息をつき、ある程度のところで断念する。そんな方が多いのではないだろうか。
ボクもその一人である。ただ一度は全部プリントをしてみたかった。そこで先日行われた「全国都市再生まちづくり会議」の出展を期にとにかく全部プリントしてみたのが写真である。こうなるとその時点で月刊杉紙版となるのだが。

 

鉄結

 

ついに姿を現した月刊杉紙版。1〜23号(写真上) 積み上げるとこんなに厚い。(写真下)   撮影:山田聖士

 

今回のタイトルを見て、「はは〜ん」と思った方もいるかも知れない。そうWEB版というのは重みや厚みといった概念がない。バックナンバーの一覧を見てもピントこない。
そこでとりあえず物理的な数値を知りたかったのだ。23号までの総重量はなんと4800g、重ねたときの厚みは115mm。1号あたりの平均で換算すると重さは207g、厚み5mm。それが月刊杉の実体だった。

 
 

WEB版は簡単に日本中に伝えられる力を持っている反面、極めて実体のわからない媒体ともいえるのだ。それを目に見える形で月刊杉web版をまとめスギ本にしたいなぁという思いを書いたのが、20号「スギ本をつくろう!」である。
先ほどのボリュームを見てもわかるように、1年間で一冊のスギ本をつくる事は夢ではないのである。もっとも未だに本にしたいという出版社は現れていない。ただ本当にそうなったら困るな〜という本音がある、実際に本にするとなると企画から始まって編集のやり直し、写真の整理、その他のいっぱいの面倒な出来事が増えてきて、それはいったい誰がやるんだろうと思う 。
ね、長町さん。やっぱり大変だ。と腰が引ける。

さて、そんな月刊杉WEB版は、2年前スギダラ(日本全国スギダラケ倶楽部)の広報誌的な位置づけで発刊された。

スギダラは金も名誉もない。(先日大賞をひとつもらったけど…)責任感や使命感もない。はっきりいって大した戦略もない。あるのは未来を語り合える楽しい仲間達、スギを通して社会を良くしようという高い志、そしてもう一つデザイン力。この3つが柱になっている。もっと言えばこの三つがあれば日本は良くなると信じている集団だ。(楽しい仲間達の幅の広さが実はとても重要)
そして、特定の地域にこだわらず、日本全体を見渡して世直しをする。いわばスーパーマンか必殺仕置き人、そんな正義の味方のようなやり方に憧れる単純で純粋なチームだ。(一応3兄弟を基準にしているので自分は違う、という方は許して下さい。)
そして面倒な事を極端に嫌う性質がある。スギダラもそろそろNPOかな、と誰かが言っても全然乗らない。それは面倒くさいからである。実は仕事はとても面倒くさい。調整、整理、また調整、会議会議また会議。そしてお金を考えながらまた調整。段階ごとに資料をつくり、ステップを組み立てていく。(まったく当たり前の事だが)
いわばその面倒くさい事と正反対のやり方で社会を良くする事が出来れば、これほど楽しい事はないんじゃないか、そんな背景がある。楽しくしようとするために、みんな難しい顔をして、苦しむっておかしいんじゃないかと。(笑)
それはカッコよく言うと、どんな力にも縛られず自由な活動を行う集団。カッコ悪くいうと涙に弱い人情集団とでもいうか。およそデザイナーとかまちづくり関係者とかにとけ込まない、一見奇妙なスタイルをつくっている。 そんなスギダラの本質を理解してくれる人はまだまだ少ないと思う。だいたい、そんなに上手く行ったらみんなそうするよ、そんな簡単じゃないよ、と思われる。しかしながら行政であれ、企業であれ、ありがたいことにどちらかというと精神的な支援を受けながらやってこられた。結局みんなだんだんわかってきたんだ。そして人好き、そこが多くの賛同者や応援してくれる人の多さをつくっているのだろう。
とは言っても、そろそろそれをもう少し理論立てていこう、やっている事はきちんと文章で伝えよう。そもそも活動としては良いこともやっているのだし、思想だって良く聞いてみるとなるほどいう事も時々言う。デザインだって結構頑張っている。もっと見てもらいたい。
月刊杉WEB版がある意味それを可能にしてきた。文とビジュアルでスギダラの活動内容と思想をストックし始めたのである。面倒くさがりやが、よくこんな面倒くさい事を2年もやって来た、と自分でも思う。ひたすら執念、執念で二執念、いや二周年。

それはなぜか?

今までとまったく違う楽しいやり方で成立する事があることを証明したい。そんな気持ちの現れなのだ。気をつけないと大きな流れや力に飲み込まれる。”向こう側”に行くのは簡単だが、その一線を超えてしまうと一気に崩れる弱さがスギダラにはある。そうならないための力が必要なのだ。月刊杉もその一つ。我々のささやかな主張なのだ。少しは踏ん張らナイト。(ミヤダラ風)

月刊杉WEB版発刊から2年間協力していただいた方々、そして支えてくださったすべての方々に改めてお礼を申し上げると共に、ますます楽しいやり方を実行することに昼夜奮闘する、我らがスギダラ、我らが月刊杉web版をどうぞよろしくお願いします。

   


 
  ●<なぐも・かつし>デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部

 
   
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