連載

 
新・つれづれ杉話 第13回 「そーじゃないんだ!」
文/写真 長町美和子
杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
  今月の一枚

※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。

春、ウチダラ編集長の杉姫に会いに行った時、ノリスケさんが筍と山椒を持ってきてくれたのですが、その山椒の残りをコップの水に挿してちびちび使ってい たら根っこが出てきて、土に植え替えたらちゃんと若葉が出てきました! やったー。これからは木の芽をたっぷり使えそうです。

山椒の若葉
 

 

 
 
 
    「そーじゃないんだ!」
 

少し前のことですが、NHK「クローズアップ現代」で「国産材の需要がアップしている」という内容の番組をやっていました。簡単に説明すると、今、経済成長著しい中国に建材が集中して日本に十分な材木が入ってこない、輸入材の値も上がっている、それで国産材の需要が高まっている、そんな話です。

それだけ聞くと、よかったよかった、やっと国内の林業も上向きに転じるか、というところなんですけど、番組の途中くらいからどうも、なんだかねぇという気分になってきたのでした。

というのは、今まで国産材が敬遠されてきた理由として、「乾燥がしっかりされていないため、材木問屋としても自信を持って扱えないほど、割れや反りが多い」という現場で働く人の生の声が映像と一緒に流れ、それを受けて、「今の住宅建築はプレカット主流ですから、そういう現場で使いやすい材というのを研究して供給しないと売れないのは当然ですよ」みたいな意見を解説者が述べるという、苛立たしい展開になったからです。

番組の後半では、「売れやすい材・求められる材を供給する手段」として、国が乾燥機の設置に補助金を出すことになったことが(いかにも国の対応が素晴らしいみたいに)リポートされ、スギダラツアーでも見学した群馬の県産材センターの大規模乾燥システムが大きく映って、「国産材も乾燥がきちんとできるようになれば需要がもっと高まり、プレカット材が大量に流通するようになるでしょう」「日本の林業の未来も明るいですね!」しゃんしゃん。という感じで終わったわけです。

なんか違う。そーじゃないだろう? それだけじゃないだろう?

日本の建築やモノづくりの文化の良さというのは、身の回りにある材の特性を生かして、その材の持つ力を人間が見極めて、工夫しながら使いこなしていく、というところにあると思うのです。強制的に人工乾燥させるよりも、自然乾燥の方が木材にとっては絶対にいいわけで、そもそも、1軒の家を何代にもわたって住み継いで、すこしずつメンテナンスしてきたからこそ、じっくり乾燥させるだけの時間の余裕があったわけです。それでも大工の棟梁は、割れたり反ったりすることを頭に入れて、「適材適所」を見極め、状態のいい木を見える部分に、やや劣る木は見えない部分に、力のかかる方向によって使う場所を配分し、無駄なく材を使ってきたのです。その地域に育った木材が、その地域で生かされることで、風土に合ったモノができ、長く世に残っていく、ということでもあります。 

そりゃ、世の中の求めるものを知って売る努力をする、というのは資本主義社会では大切なことでしょう。でも、ただ便利に早く安くできればいい、ってもんじゃない。温暖化の叫ばれる時代に、大量の熱を放出させて人工的に木を乾燥し、即席ラーメンのごとくあっという間に家を立ち上げるのではなく、「もう少しゆっくりじっくり、いいものをつくって長く使っていきましょうよ」と、消費のリズムを見直すことを国は推し進めてもいいのではないでしょうか。乾燥に補助金を出してお茶を濁すのではなく、もっと林業振興、山の保全のために根本的な対策を練れよ、と言いたい。

 自然を生かし、よりよいものをつくるために培われてきた人間の知恵や工夫が、経済・スピード重視の中で少しずつ、当たり前のように失われていくのは非常に寂しいです。


   
 
 
  <ながまち・みわこ>ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり

   
   
   
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