特集 2周年 ウチダラ編集長特別メッセージ

 
2年を振り返って
文/ 内田みえ
 
 
   
   
 

 あっと言う間の2年。まずは、よくぞ続いたと思う。素晴らしい! 自画自賛に聞こえるかもしれないが、この月刊『杉』、そして母体の日本全国スギダラケ倶楽部はなんのしばりもない個人の集まりで、そういう任意の団体がたった2年でも、遅れながらも毎月刊行できたこと、それは素晴らしいことだと私は思っている。この継続自体が関わっている人たちの熱意の表れだからだ。連載陣のみなさん、特集の呼びかけに応じてくれたみなさん、本当にどうもありがとうございます。

月刊『杉』の主旨・目的は、杉についての語り場である。日本全国までにはまだ及ばないが、この2年間で各地のその土地ならではの杉の取り組みと人々の思いが紹介されてきた。回を追っていくと、その取り組みが少しずつも着実になんらかのカタチとなってきていることがわかる。杉を取り巻く環境がほんの少しではあるが、よい方へと変わってきているように感じられる。でも、それでもまだ世の大半の人々の意識では杉は相変わらず悪者だ。そういう人たちが常識として杉問題をきちんと理解し、現代なりの方法で杉を暮らしに取り入れていけるよう、杉のさまざまなことを伝えていくには、この月刊『杉』の可能性はまだまだこれから。これまでの地方特集だけでなく、杉を語るにはさまざまな方法がある。そういった多角的な切り口にこれからチャレンジしていく必要もあるだろう。長い目で見れば、この2年は初めの一歩にすぎないのかもしれない。 

  最近、思っていることがある。それは「当たり前のすごいこと」の数々。私事で恐縮だが、この3月に初めて子どもを出産した。出産、子育ては私がここで言うまでもなく、人類が延々と繰り返していく当たり前のことであるけれど、それを初めて経験して、その当たり前のことがどれだけたいへんで素晴らしいことか、どれだけすごいことだったのかを心の底から実感したのだった。そして、「杉」もそれと同じことなのだなー、とつくづく思った。杉が日本に植生したこと、杉を道具に使うことを発見・発明したこと、杉を人の手で育て始めたこと、杉を使ってさらに暮らしを向上させてきたこと、などなど。そういったことは当たり前のように思えるが、例えば、前号の樽や桶など、杉でまかなわれてきた道具ひとつにしても高い技術を要する豊かで理にかなったすごいもので、それを先人達は日々の営みの中でたんたんとやってきたのだ。現代の日本を見渡してみると、そういう当たり前のすごいことが実はたくさんあって、杉はその代表格のようなものではないだろうか。今、気づかなければ失ってしまうかもしれない当たり前のすごいこと。杉を通して、そういうことに気づいていくきっかけの場として、この月刊『杉』が役立っていくことを願い、これからも続けていけたらと、思っている。

 

   
   
   
 
 
  ●<うちだ・みえ>編集者
インテリア雑誌の編集に携わり、03年フリーランスの編集者に。建築からインテリア、プロダクトまでさまざまな分野のデザイン、ものづくりに興味を持ち、編集・ライティングを手がけている。
   
   
   
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