現在、私は東京に事務所を構え、建築の設計活動をしている。ある日、とある横浜の工務店の専務に鳥取の智頭杉のことを話したら、彼も国産材のことに興味を持っており、とりあえず、坂本さんに会ってみようということになった。ちょうどその頃、その工務店が施工予定の住宅を杉並区で計画をしていた。そのクライアントのお母さんが岡山県出身で、鳥取県境近くのまちの生まれだったので、中国山地の杉材を使ってみないかと相談を持ち かけたところ、即座に快諾を頂き、トントンと智頭杉ハウスが東京に誕生することとなっ た。そのころ、ちょうど萩原修さんといっしょに仕事をしていた。打ち合わせの中で智頭杉のことを話したら、なんと彼がスギダラ東京支部長であるということを知る。ならば、一度智頭に行かねばということになり、今年の3月に、杉に興味のある変なメンバー、総勢6 人の鳥取行脚が決行されたのである。
その鳥取行きの目的は、物見遊山ではなく、具体的に、智頭杉を建材としてどう使うか、どんなプロダクトやおみやげをつくることができるか、を考え、ものごとをリアルに実行するためのものであった。帰京してから、早速製品化のコンセプトづくりをはじめている。
●農林生産品と食品は、なるべく取れた地域の近くで消費する
食品の原産地明記が義務化され、かなりのものが外国から輸入されていること、さらに遠 いところから輸送されて来ていることが分かるようになった。とくに、鳥取のスーパーマーケットに入ったときに、あれだけ海産物が豊富に水揚げされるところなのに、南米産の魚がおいてあるのを見たときには、理不尽だと思った。安い労働力で取れるところで取り、 高く売れるところまで運び多く売る。経済システムからいうとこうなるのは当然のことと頭では分かる。でも、鳥取で南米産の魚は食べたくない。グローバルに見ると、やはり、 輸送にかかる無駄なエネルギーが偏った使い方をされている。地場で取れたそこでしか味わえないものをしっかり食べる。もし、食べたいものがその場所になければ、それがある場所まで出向いて食べる。売れるか売れないか分からないものを、輸送コストをかけて遠くから運んでくるのはやはりおかしい。
建材に使う木材についても同じことがいえる。地域で取れた材料を、気候風土の合ったその地域で消費する。ごく当たり前のことのようだが、経済システムはそうはさせてくれない。安い外国産材が無制限に輸入され続ける。経済原理でどうしようもないことはどうしようもないかもしれないが、少しでも意識ある人には国産材を使うことを勧めてみるということを地道にやっていくしかない。
智頭杉と因州和紙を、建材やプロダクトとして使うというプロジェクトを進めている動機はここにある。また、鳥取県産の建材をふんだんに使った鳥取の家「ジゲ・ハウス」というプロジェクトも鳥取の工務店と協力して、同時に進めようと考えている。(「ジゲ」とは、 「地場」という意味の鳥取弁である。)
●智頭杉の性質
智頭杉は、ほかの地域の杉とは異なる性質を持っている。早いうちから枝打ちをするので無節の材が多く取れること、杉としては驚異の粘りがあることの2点があげられる。柔らかいが丈夫、という特質を生かせば、建材やプロダクトの開発の可能性が広がる。そのひとつに、もうすでに「サカモト」で開発した高さ3m(幅90mm、厚さ6mm)もある縦型ルーバーがある。狂いも少なく、加工工程で破損することが少ないという。かなり薄い材料も加工可能であるというのが、製品開発のポイントとなるだろう。 |