特集智頭 

 
鳥取出身の建築家が語る智頭杉の未来
文/ 岡村泰之
 
 
 

●いま、鳥取がおもしろい

私は、鳥取の片田舎の温泉町で生まれ、進学のため上京するまでの18 年間鳥取で過ごした。つい最近まで、日本海側→山陰→冬の日本海→暗い→おそらくそこに住む人は暗い、という連想に基づき、鳥取の人はまじめで暗いと思い込んでいた。最近、脳天気で明るく独創的な鳥取人と出会うことが多く、いままで誤解していたことに気付いた。固定観念というものはほんとにおそろしいものだ。

10 年前くらいだろうか。生まれ育った東郷町(現:湯梨浜町)というまちの商工会から、温泉町の活性化について相談され、地元の人たちと話し合う機会があった。また、すぐ近くの、はわい温泉からも、土産物屋を営んでいる高校の同級生を通して活性化の相談を受けた。そして、その土産物屋さんの改装を手がけ、それがきっかけとなって、智頭杉加工の「サカモト」の坂本さんや因州和紙「中原商店」の中原さんという魅力的な活動を展開されている方々出会うことができた。彼らも、ほんとに脳天気で明るくおもしろい人たちだ。

   
 
 
智頭杉加工「サカモト」の製材所にて。ここで緻密な製品が つくられている。
 

現在、私は東京に事務所を構え、建築の設計活動をしている。ある日、とある横浜の工務店の専務に鳥取の智頭杉のことを話したら、彼も国産材のことに興味を持っており、とりあえず、坂本さんに会ってみようということになった。ちょうどその頃、その工務店が施工予定の住宅を杉並区で計画をしていた。そのクライアントのお母さんが岡山県出身で、鳥取県境近くのまちの生まれだったので、中国山地の杉材を使ってみないかと相談を持ち かけたところ、即座に快諾を頂き、トントンと智頭杉ハウスが東京に誕生することとなっ た。そのころ、ちょうど萩原修さんといっしょに仕事をしていた。打ち合わせの中で智頭杉のことを話したら、なんと彼がスギダラ東京支部長であるということを知る。ならば、一度智頭に行かねばということになり、今年の3月に、杉に興味のある変なメンバー、総勢6 人の鳥取行脚が決行されたのである。

その鳥取行きの目的は、物見遊山ではなく、具体的に、智頭杉を建材としてどう使うか、どんなプロダクトやおみやげをつくることができるか、を考え、ものごとをリアルに実行するためのものであった。帰京してから、早速製品化のコンセプトづくりをはじめている。

 

●農林生産品と食品は、なるべく取れた地域の近くで消費する

食品の原産地明記が義務化され、かなりのものが外国から輸入されていること、さらに遠 いところから輸送されて来ていることが分かるようになった。とくに、鳥取のスーパーマーケットに入ったときに、あれだけ海産物が豊富に水揚げされるところなのに、南米産の魚がおいてあるのを見たときには、理不尽だと思った。安い労働力で取れるところで取り、 高く売れるところまで運び多く売る。経済システムからいうとこうなるのは当然のことと頭では分かる。でも、鳥取で南米産の魚は食べたくない。グローバルに見ると、やはり、 輸送にかかる無駄なエネルギーが偏った使い方をされている。地場で取れたそこでしか味わえないものをしっかり食べる。もし、食べたいものがその場所になければ、それがある場所まで出向いて食べる。売れるか売れないか分からないものを、輸送コストをかけて遠くから運んでくるのはやはりおかしい。

建材に使う木材についても同じことがいえる。地域で取れた材料を、気候風土の合ったその地域で消費する。ごく当たり前のことのようだが、経済システムはそうはさせてくれない。安い外国産材が無制限に輸入され続ける。経済原理でどうしようもないことはどうしようもないかもしれないが、少しでも意識ある人には国産材を使うことを勧めてみるということを地道にやっていくしかない。

智頭杉と因州和紙を、建材やプロダクトとして使うというプロジェクトを進めている動機はここにある。また、鳥取県産の建材をふんだんに使った鳥取の家「ジゲ・ハウス」というプロジェクトも鳥取の工務店と協力して、同時に進めようと考えている。(「ジゲ」とは、 「地場」という意味の鳥取弁である。)

 

●智頭杉の性質

智頭杉は、ほかの地域の杉とは異なる性質を持っている。早いうちから枝打ちをするので無節の材が多く取れること、杉としては驚異の粘りがあることの2点があげられる。柔らかいが丈夫、という特質を生かせば、建材やプロダクトの開発の可能性が広がる。そのひとつに、もうすでに「サカモト」で開発した高さ3m(幅90mm、厚さ6mm)もある縦型ルーバーがある。狂いも少なく、加工工程で破損することが少ないという。かなり薄い材料も加工可能であるというのが、製品開発のポイントとなるだろう。

   
     
  「サカモト」の智頭杉タテ型ブラインド。事務所に、落ち着きと柔らかい 雰囲気をつくりだしている。   因州和紙「中原商店」の和紙照明。光が、和紙を透過することにより、 人に近いづいてくる。
 

これらの性質を生かした製品を現在検討中である。どんなものが出来るかご期待いただきたい。

 

●智頭杉、そして鳥取の未来

「地産地消」は、目先の経済原理にはマッチしないものである。遠い将来、広い世界を見つめることで、はじめてそのアイデアが浮かび上がってくる。鳥取県の人口は、東京の世田谷区の人口60 万人とほぼ同じである。全国の人口比からすると、かなりの弱小県である。 逆を言えば他県の人は、鳥取人に出会う確率がかなり低いということだ。つまり、ことばを変えれば、鳥取人は「選ばれた」人々ということも出来る。マイナーな地域から、いいものをつくり、地元で消費する「地産地消」を地道に実行していく。そのことによって、地味ではあるが、その壮大な意味を静かに伝えていく。これこそが、鳥取人が出来ることであり、智頭杉の普及によってこそ伝えていくことが出来るような気がする。

   
   
   
 
 
  ●<おかむら やすゆき> 岡村泰之建築設計事務所 http://www.amy.hi-ho.ne.jp/okmr/
   
   
   
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