特集北海道

 
こんな「ベンチ」も素晴らしい。
文/ 川上元美
 
 

 
 

丹波篠山に疎開した子供の頃、杉鉄砲でよく遊んだことを印象深く思い出す。時を経て、デザインの見地から杉と対峙したのは、長野県の試験所だったと記憶するが、学童机、椅子の試作品でいろいろ意見を交わしたが、当時は残念ながら未だ広がりがなかった。その後、松本空港の待ち合いベンチシートのデザイン依頼をうけたとき、地場のもので作ろうと考えたが、結果は松の間伐材を集成して、うづくり仕上げにしたダンゴのような形状のベースを作ったくらいで、まともには間伐材と付き合ってはこなかった。
先日、札幌のデザイナーウイークに出席し、内田洋行のショールームのリニューアル・オープニングで、スギダラ三兄弟と共演する機会を得た。スギダラ倶楽部の活動は色々と見聞きはしていたが、直接、当事者のレクチャーを聞き、想像以上のパワーで日本中に杉ダラ教を蔓延させつつあるさまに改めて驚いた。いや、感銘を受けてしまった。おまけに最後はスギダラ音頭で踊らされて、益々驚いた。
当日は、札幌高専の学生達をはじめとして、多くの若者も加わり、その後も場を変えながら明け方まで語り合った(飲み明かした)。
皆でデザインした屋台を海道の松の間伐材で作り、雪祭りに参加しようと盛り上がったものだ。ちなみに其の名は、「ゆきずりの屋台」。
個人的には、旭川の家具産業に古くから関わり、ミズナラ、カバ、ブナ、ヤチダモ等の落葉広葉樹と付き合ってきたが、今やこれらを含めて殆どの用材が輸入材であり様々な問題を抱えているといった現状である。
北海道は南部の一部に杉が群生するが、実は、カラ松、エド松、トド松等の間伐材が、同じようなテーマを我々に突きつけている。
最近、その松の間伐材を使った単版積層材(LVL)に注目し、これを使用した色々なプロジェクトもはじまってはいるのだが。
間伐材をどのように使い、また長く生かすか、一方で、プログラムされた広葉樹の植林の推進など、自分はどのようなかたちでこれらに立ち向かえるかと思いを巡らす、今日この頃である。
ご存知の方も多いと思うが、あらためて大変興味深いプロジェクトである、「グリーンベンチ工法」の土留めを紹介したい。
斜面に森を再生させるために、コンクリートの擁壁で覆うのではなく、この工法は棚田のように、多段状の平面を設けて、肥沃な土壌の流失をふせぐのであるが、その土圧を押さえる為に石垣でもアンカー工受圧盤でもなく、垂直面を金網と間伐材を用いた受圧盤の段を作る。そして樹木を植林して斜面を安定させるのである。時と共に自然は再生し、使用した材料は土へ還る、また雨水はゆっくりと地中に導かれることで、U字溝を設けずにすみ、小動物等にも安全な環境が構築される、優れたデザインである。
グリーンベンチ研究会が主導するこの工法は自然再生の考え方、取り組みが評価されて、2003年のGマーク金賞を得ている。

 


 

「グリーンベンチ工法」写真提供:(財)日本産業デザイン振興会)
 




  ●<かわかみ・もとみ> デザイナー
1966年東京芸術大学大学院修了。
アンジェロ・マンジャロッティ建築事務所(ミラノ)勤務を経て、1971年カワカミデザインルーム設立。
クラフト、プロダクト、家具、空間、環境デザインなど幅広い領域でデザイン活動を行っている。
毎日デザイン賞、Gマーク金賞をはじめ受賞多数。

 
 
   
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