特集日光

 
僕は日光スギに囲まれた神社の狛犬です
文/写真 謎の公務員T.T.
 
 
   
 僕は日光市大室高?(たかお)神社の狛犬です。僕が住んでいるのは、日光市の南部、宇都宮市の中心から車で30分ほどの大室という集落です。のどかな田園地帯の中にポコリと盛り上がった大山(おおやま)というスギダラケの里山があり、その裾野に僕の神社があります。
 そんなある日、ご主人様は神社近くのスギ林の手入れに来ていた斉藤文明さんと運命的な出会いをします。

大室狛犬.

 
 
 

例大祭

 
 
斉藤さんは、この大山の南斜面のほとんどを所有する地元の山持ちさんで、県の指導林業士もしているりっぱな若手林業経営者です。二人は年がさほど離れていなかったことや林業という共通話題があったことから意気投合し、神社そして地域振興の夢を語り合いました。そして神社周辺のスギ林を鎮守の森として整備しよう。その前にとりあえずは、今の時代何をするにも車が必要なので、社務所の脇に車が止められるようにしようとの計画に至ります。
 ただ、ひなびた神社に駐車場整備のための資金はありません。斉藤さんとて、いくら地域のためとはいえ、貯金を全部使ってしまったら愛する奥様に泣かれてしまいます。さて、どうする・・・ 誰からも好かれる性格の斉藤さんは、地域の名士であったお父様に、人とのつながりを大切にするよう教えられ、それを実践してきました。そして以前にも地域の若手農業者をまとめ、営農集団を組織したことがあります。駐車場整備のために、斉藤さんがとった行動は、まず趣旨に賛同する仲間を募ることでした。
 すると地域には斉藤さんを慕う仲間が多く、無給奉仕だというのに、10名近い精鋭たちが笑顔で集結したのです。集まった仲間は、電気屋から石積みのプロ、重機の操縦に長ける土建屋、腐葉土製造業、はたまたすぐに宴会を始めたがるムードメーカーなど、全く異業種の人々でした。そして、神社を中心とした里山を核に、地域全体を良くしたいという思いのもと、その精鋭たちは数々の手腕を発揮し、砂利や玉石、土などの資材、そしてそれらを動かす重機などをただ同然で瞬く間に調達しました。資材と技術、そしてやる気が整えば、駐車場などもうできたようなものです。この異業種軍団は、平日の夕方と土日を使って、約1ヶ月で20台程の駐車スペースを造り上げてしまいました。平成15年夏のことです。この成功をきっかけに、この軍団は定期的に会合を持ち、次なる計画を練るようになります。そして県の林業普及員の助言により、林業グループを設立することになり、平成16年夏には、電気屋安西三千夫さんを代表に据え総勢9名で「大室の森林(もり)をつなぐ会」として新たな一歩を踏み出しました。

 
  森林ボラとの搬出作業

 
    
 会の平成16年度の主な活動は、神社周辺の間伐不足林分を整備し、うっそうとしたイメージを払拭すること。そしてスギ林の中に、誰もが気軽にくつろぐことのできる四阿を造ることでした。斉藤さんの林分は、県の育林コンクールに出品されるほど手入れが行き届いているのですが、近隣には森林整備には消極的な所有者もたくさんいます。そこで、斉藤さんが中心となり会員とともに、そんな所有者の家に出向き、会が間伐をすることの了解を取り付け、また間伐材の一部を提供いただくことを承諾してもらいました。これで森林整備がすすみ、四阿の材料を手に入れることもできます。四阿の敷地は斉藤さんが提供することになり、会の趣旨に理解を示してくれる大工さんや屋根屋さん、製材屋さんも見つかりました。さらに、県の協力により県内外の森林ボランティアの皆さんにも集まっていただきました。このように多くの皆さんのご協力により、神社周辺の山林は見違えるほど明るくなりました。また、銅葺き屋根のりっぱな四阿も完成し、来訪者の憩いの場そして地元の子供たちの遊び場になったのです。
 
 
森林と小学生

 
 
四阿と地元小学生




 
  神社脇のスギ林

 
 
 平成17年には、後継者育成のために県内の林業コース高校生に間伐や薪割りなどを体験させたり、児童の安全確保のために地元小学校の通学路沿い林分の枝打ちの実施、そして参拝者への心配りとして四阿付近の林床へのあじさいや百合の植え込みなどを行いました。さらに15年に1度という大室のシンボルである現役水車の大改修もやってのけました。この作業はNHKテレビの「小さな旅」を始め、新聞や雑誌等に取り上げられたことから、会の活動は地元だけでなく県外にまで知られることとなったのです。そして、嬉しいことに地域住民からは会の活動を誇り思うとの言葉もいただけるようになりました。
 さらに今年は、腐葉土製造を行っている会員の発案により、カブトムシの幼虫を駐車場脇に置いたコンテナ内で大量に成虫にまで育ててから、市内の保育園児等にプレゼントしました。そして多くの人が神社を訪れるようになったことから、僕のご主人様は、社務所にて雅楽やお琴の無料教室を始めるなどの新たな試みも行い始めました。また定例化した例祭も、年々りっぱなものになり、先日行われた奥宮大祭(夏祭り)では、200人以上の参拝者が地域内外から訪れてくれました。そして僕の前を何人もの浴衣姿の若い女性が通ったのです。5年前の暗い神社の時からはとても想像できなかった出来事でした。
 僕の神社には、市の天然記念物であるコウヨウザンの大木があります。ムササビが留まるスギの木があります。これまで涸れたことのないおいしい湧き水もあります。春には野鳥がさえずり、鳥居脇の水路からホタルが飛んできます。夏には百合やあじさいが咲き乱れます。秋にはスギ林内に残したモミジがきれいに紅葉します。雅楽やお琴の調べを聞くこともできます。冬の水車小屋はとても風情があります。ここにはみんなで整備した森林があります。やる気のある林業グループ「大室の森林をつなぐ会」のメンバーがいます。そして、江戸時代中期の明和7年から神社や地域の人々を見守ってきた、今年で236歳になるイケメン狛犬(僕のことです)もいます。日光にお出での際には、ぜひお立ち寄りください。
連絡先:日光市大室1619 たかお神社 電話0288−26−6240

※ T.T:狛犬と話ができる謎の男。地方公務員との噂もあるが定かではない。

 

   
  <なぞのこうむいん・ティー.ティー>栃木の林業と山村振興のために野山と人々の間を駆け回る熱血県庁マン。
 
   
 
   
   
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