特集日向

 
日本一の駅舎完成に向けた我が想い
日向市建設部長 黒木正一
 
 
   
  ●はじめに
 
 

 日向市は宮崎県北に位置し、重要港湾細島港をもつ、奥日向圏域2町5村(平成の合併前)を含めた経済、産業、文化、観光等の中核都市である。
 特に日向市駅周辺については、日向圏域の生活・文化交流拠点として、「人・物・情報の集発散の場」として賑わい空間の役割を担ってきたところであった。
しかし、郊外型の大型店進出や、中心市街地の大型店撤退等により人の通りが年々減少し、都市機能の衰退と併せて空き店舗率が28%となり、全国の地方都市における中心市街地同様、まちなか再生による回遊性の高い「生活交流拠点」づくりが喫緊の課題であった。
 そこで、平成8年度より市施行による土地区画整理事業を基幹事業として、県施行の鉄道高架化事業、地元商業者による商業集積整備事業など、まさに三位一体の「日向市オリジナル都市空間づくり」に取り組んだところである。


●恵まれた出会いと人のつながり
 私は平成8年度、日向市駅をセンターコアとするまちづくり政策の中で、都市行政と商業・観光行政を一体的に取り組む、市街地開発課の初代課長を拝命する。これまでの約20年間の都市行政の経験とはいえ、中心市街地の大改造については、一抹の不安があったことから、地元宮崎大学の出口近士助教授を紹介していただいたことが最初の恵まれた出会いである。
 私なりの進め方を述べ、先生の意見をお聞きしたところ、このまちづくりは「日向圏域の顔づくり・玄関口づくり」を基本的なコンセプトにしたらどうかとの提案を受けた。併せて「専門家と公民協働のまちづくり」の助言を受けたことが起点である。その後に「日向市街なか魅力都市デザイン」の策定に取り組んだことが、景観デザインや建築の権威である東京大学大学院 篠原修教授、内藤廣教授、構造学者 川口衛先生をはじめ、さまざまな英知の「産・学・官」と「土木・建築」のコラボレーションにつながり、「まちの駅」である中心市街地のまちづくり基盤が旭日昇天の勢いで構築されたのである。その協働の力は国・県・JR九州・コンサルタントによる予想をはるかに超えるものだった。
 今、振り返ると、これだけの専門集団の協力を得て、鉄道高架や地元産材の杉を使いこなしての日本一の駅舎づくりに取り組めたことに対して、感謝の気持ちでいっぱいである。地方行政マンとして、多くの方々と恵まれた出会いの中で、自らの人生の豊かさと価値観を高め、全国へ木の技術、使い方、価値観等の情報発信となるまちづくりに参画できたことに感慨無量である。


●地元杉材を活用したまちづくり
 「まちの駅」を実現するために、新駅舎を核とした約11haを「交流拠点重点地域」として、日向圏域住民の価値ある共有財産づくりを積極的に取り組むこととした。ここで、私は初めて杉材の価値観に対して真正面から向かい合う議論に目覚めたのである。本県の杉素材生産高が15年連続全国一位であり、なかでも日向圏域が大きなシェアを占めている市の課長として「えぇ・・・地元杉材を使った駅舎ができるの?」という感動と胸の高ぶりが昨日のように思いだされる
杉材を活用したまちづくりを実現するために、トータルデザインを篠原修先生として、新駅舎については建築デザインを内藤廣先生、構造デザインを川口衛先生が監修された。また、新構造体の木材強度実験には宮崎県木材利用技術センターの積極的な支援を受けての、世界初の鉄と木とのハイブリット構造の木の香りが漂う、新駅舎が12月の供用開始に向けて着々と進められている。6月20日には日向市長の黒木健二を現場に案内したところ「平成の宝物」として大賞賛を受けたところである。特に、ふるさとに帰省する皆さんはこの駅舎に立ったとき、ふるさとの味わいと我まちの元気を実感し土産話になるものと確信している。誰もが足を運ぶたびに杉材の価値観が実感できる新駅舎であると思う。このことが、圏域の皆さんがまちを愛し、郷土に誇りや自慢できる日を心待ちしている。
また、駅前広場や交流広場においては、プロダクトデザイナーの南雲勝志氏と都市設計家小野寺康氏との連携の下に施設設計が完了し一部事業に着手したところである。南雲氏の卓越した景観デザインからストリートファニチャー(照明灯・ボラード)等に杉材を積極的に活用しており、杉材の王国日向市らしさのまちづくりを情報発信する日も間近である。


●終わりに
 まちづくりの起爆剤として、誰もが認める鉄道高架化事業におけるデザイン性の高い高架橋と駅舎建築の道のりは決して順風ではなかった。時として崖ふちに立たされるなど常に不安が隣り合わせた紆余曲折の中で今日を迎えている。これも、いいものを創ろうよという強い意志と美しい国土づくりを目指す、篠原・内藤両先生の熱意および宮崎県の関係職員の積極的な取り組みを基盤として、国土交通省やJR九州など多くの皆さんのご理解とご支援の賜物であり、ここに深甚なる敬意を表するものである。また、市街地開発課の職員の以心伝心のまちづくり思想とたゆまぬ努力や日向木の芽会、市民の皆さんのご理解とご協力によってまちづくりが円滑に進められているところである。
今後も、自信をもって次世代に贈る木の香る中心市街地のまちづくりに全力投球で取り組むことが、これまでご指導ご支援をいただいた皆様に対する恩返しと思っているところである。
完成の暁には、これまでの苦労を良き思い出として、感動の涙してお世話になった方々と硬い握手する日が待ち遠しいところである。

 


  <くろぎ・しょういち>宮崎県日向市建設部長  
 
 
 


 
   
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