特集 祝! ウッドデザイン賞2015受賞
  「ケロリン木桶」誕生秘話

文 / 写真 笹山敬輔

   
 
 
 

 ウッドデザイン賞2015表彰式当日、私は他の仕事で会場には行けませんでしたが、スギダラケ倶楽部の打ち上げに呼んでいただきました。長野県のイベントで若杉さんに一度お会いしただけの私は、こぢんまりとした飲み会を想像して、指定された居酒屋に向かいました。しかし、店の中に入ってみると、たくさんの人々の熱気と喧騒に瞬く間にのみこまれてしまいました。
 立場も会社も地域も異なる人たちが、日本をスギダラケにしようと何やら密談を交わしている。その光景は、私の目に、まるで「秘密結社」のように映りました。
 そこで、はたと気がつきました。あの日、弊社を訪ねてきた長野県林務部のお二人は、スギダラケ倶楽部から放たれた「刺客」だったのではないか。目的は、日本全国の桶を「プラスチック桶」から「木桶」に戻すための……。

 ここで、ケロリン桶の歴史を説明しておきましょう。ケロリン桶が生まれたのは、1963年、今から53年前のことです。ケロリンは内外薬品の解熱鎮痛薬の名称で、1925年から販売しており、さらなる拡販を目指して、新しい広告手法を模索している頃でした。そんなときに、ある企画会社から、桶に商品名を入れて宣伝するという企画が持ち込まれたのです。新しもの好きだった当時の社長は、即決でゴーサイン。そして、水にぬれてもロゴマークが落ちないようにするため、「キクプリント」という特許技術を使ったプラスチック桶――「ケロリン桶」が誕生しました。

   
 
   
 

 当時、銭湯はどこも「木桶」を使用していましたが、耐久性や衛生面に問題を抱えているという状況でした。そこに頑丈で長持ちする「プラスチック桶」が、初めて登場してきたのです。しかも、弊社がコマーシャル料として原価の一部を負担しているため、銭湯は安く手に入れることができます。東京駅八重洲にあった東京温泉からスタートした「ケロリン桶」は一気に広まり、銭湯の「木桶」は「ケロリン桶」に次々と変わっていきました。
 そうです、弊社は、スギダラケ倶楽部と真逆のことをしてきたのです。

 そんな仇敵?の内外薬品に、長野県林務部の千代さんと岩間さんが来社されたのは、2014年秋のことでした。お二人は、長野県産材で「ケロリン木桶」を作ってほしいと、熱く語られました。「秘密結社」の存在を知らない私は、話題になればと思い、話を進めることにしました。材料にはサワラを使用し、底の部分に「ケロリン桶」と同じロゴデザインの焼印を押しました。2015年3月、北陸新幹線の開業に合わせて、長野県知事会見で「ケロリン木桶」のお披露目をしていただき、ゴールデンウィークには長野駅でのイベントに参加しました。そして、是非チャレンジしてみましょうと言われて応募したウッドデザイン賞では、奨励賞を受賞。気が付いたら、あの熱気あふれるスギダラケ倶楽部の打ち上げ会場に座っていたのです。
  私は、スギダラケ倶楽部の「策略」にまんまとハマってしまったのでしょうか。

 でも、おかげさまで、私は普段接することのない異業種のみなさんとお話する機会を得ることができました。それは、とても刺激的で楽しい時間でした。千代さんと岩間さんには、スギダラケ倶楽部のみなさんとの出会いを作っていただいたことを心から感謝しています。こうなったら、内外薬品も微力ながら「秘密結社」の一員となって、「ケロリン木桶」を広めていきたいと思っています。

   
 
   
   
  ●<ささやま・けいすけ> 内外薬品株式会社 取締役営業本部長
内外薬品HP:http://www.naigai-ph.co.jp/
ケロリファン倶楽部:http://www.kerorin.com/
   
 
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