特集 祝! ウッドデザイン賞2015受賞
  WooD INFIL(ウッドインフィル)〜社会的価値への一歩として〜

文 /写真  寺田幸弘

  写真/大野 勲男(WooD INFILL)
  写真/白石修務(まちなか交流プラザ)
   
 
 
 

 2015年が暮れようとしている頃、栃木県鹿沼市にある鹿沼まちなか交流プラザCHATが生まれ変わりました。皆さんの街でも見かけるようなよくある交流プラザ。それが、スギぇ〜空間に変貌を遂げたのです。

   
 
 
カフェ   駄菓子屋
   
 
 
市民サークル展示スペース   鹿沼の組子細工
   
 

 スギの集成材を柱や梁に流用し、面材や棚そして金具類で強度を担保したWooD INFILL(ウッドインフィル)は、既存の建築物に傷をつけることなく、部屋の中に使いやすく仕切られた部屋を構築するシステムです。部屋の中に部屋をつくるBOX in BOX という考え方は、壁や天井の工事を不要とすることで様々な機器を手軽に実装でき、また模様替えにも柔軟に対応できます。

 そもそもスギでBOX in BOX を構築しようというアイデアは7年程前に遡ります。当時は、企画が通らず日の目を見るに至れませんでした。ところが、2013年の春、鹿沼商工会議所から、スギでBOX in BOX の製品を作ろうジャマイカ!という熱いレゲェなラブコールが舞い込んだのです。捨てる神あれば拾う神あり、障子に目有り。障子といえば、この商品化に一役も二役も買ってくれたのが、白石さんたち鹿沼建具商工組合の皆さん。それに、金子さんたち鹿沼機械金属工業協同組合の皆さんでした。
 約400年前、日光東照宮の大造替が行われた際、江戸はもちろん大阪、京都など全国から腕に覚えのある職人さん達が集められました。日光に最も近い平野部にその職人キャンプ場が造営されたのが職人の街鹿沼の始まりとされています。その技と心は、日光東照宮のみでなく、鹿沼のぶっつけ祭で街中を勇壮に駆け回る屋台、そして白石さんや金子さんたち鹿沼の職人達に受け継がれています。デザインは、テラダデザイン一級建築士事務所の平手さんにお願いしました。若杉組に彼ら個性的なメンバーが参加し、強烈スギるチームが出来上がりました。

   
 
 
鹿沼ぶっつけ祭の屋台   お祭りギャルに囲まれる平手さん
   
 

 実は、私がこのチームに参加したのは、プロジェクトが始動して約1年後の2014年夏。それまで、社内のコンサルティングチームで某グローバル企業の人事コンサルをやっていたのですが、そのプロジェクトの終了とともにお払い箱になってしまっていました。そんな私に若杉氏が「お前やることねぇだろ?一緒にやろうぜ」と声をかけてくれたのがきっかけでした。こんなところにも捨てる神あれば拾う神あり、クロード・チアリですね。クロード・チアリといえば前座にビートルズを起用したこともあるほどのミュージシャンですが、何人もの個性的なプロフェッショナルが奏でるWooD INFILLは、2014年12月11日エコプロダクツ展において、最優秀賞を受賞するという華々しいデビューを飾ることになりました。

   
 
  エコプロ展で初披露
   
 
  受賞に湧く仲間たち
   
 

 これで商品化に向けて一気に加速するに違いない、そう安心していた私を待っていたのは、社内の軋轢でした。様々な部署から呼び出されては叱られるという有難迷惑な日々が続きましたが、徐々に応援してくれる仲間も増えて、2015年10月発売することが出来ました。
  発売から3ヶ月が経過しましたが、すでに数十セットのWooD INFILLが納入を終えています。そして、12月、生まれ故郷の鹿沼にも錦を飾ることが出来ました。鹿沼市民の自慢の空間になることを願っています。

 WooD INFILLには、これといった決まったパッケージがありません。お客様のご要望を聞きながら、一つ一つ最初からプランニングしていく。要望はわがままな方がいい。その方が私たちも燃えるし、新しい形に進化していくことが出来ると考えているからです。WooD INFILLは、骨組みでありインフラなのです。ここにどんな味付けをすれば、そのお客様のオリジナルな製品に仕上がるか、どんなハッピーが見たいのか、そんなことを考えながら成長していく製品であると考えています。
  また、鹿沼で生まれたWooD INFILLですが、国内それぞれの地域のスギを活用して構築することも可能です。
  高度経済成長期に私たちは様々なモノ・コトを得ましたが、引き換えにいくつかの大事なモノ・コトを失った気がします。大量生産・大量消費の時代はとっくに終焉を迎えています。なのに、多くの人の価値観はその変化に付いて行けずにいます。そこにあるものを使い、メンテナンスを行ないながら大事に使い、寿命が尽きたら違うモノに生まれ変わって行く。多くの製品は生まれたときからゴミへのカウントダウンが始まります。ゴミで終わらせてはいけない。使用した木材は違う製品に生まれ変わることが可能だし、最後は燃料にもなる。スギが伐採された山には、また新たな苗木が育つ。そんな循環型社会の良さを取り戻したい気持ちもWooD INFILLには込められています。これも一つの捨てる神あれば拾う神ありの精神なのかもしれません。
  WooD INFILLは、まだ動き出したばかり。多くの仲間に支えられ、ここまでやってこれました。そしてこれからも、さらに多くの仲間に支えられながら頑張っていきたいと思います。
  ウッドデザイン賞も受賞したWooD INFILLですが、今までの価値観では販売も難しい製品です。今まで私たちが販売してきたお客様には、メンテナンスが面倒だとか社会的価値よりもコスト重視だとかの理由で、敬遠されがちです。だからこそ、WooD INFILLが欲しいと思ってくださるお客様を大切に、この輪を拡げていけたらと思います。これからもWooD INFILLをよろしくお願い致しまスギ。

   
   
   
   
  ●<てらだ・ゆきひろ> 株式会社内田洋行 商品企画部
   
 
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