特集 100号目前、これまでを振り返る
  創刊から9年目、98号を振り返って
文/ 内田みえ
 
 
   先月、9年振りに吉野を訪れた。しかも7歳の娘を連れて。なんとも感慨深かった。吉野はこの月刊『杉』が生まれるきっかけとなった地だ。2005年4月に吉野杉ツアーがあり、その夜のスギダラ恒例の自己紹介で、「いつか杉専門の雑誌を出したい。誌名は月刊『杉』」と酔いにまかせて語った。当然、実現の算段などまったくあるわけもなく。(その時のツアーの様子や月刊『杉』が生まれたところなど、出口近士先生が書いてくれている。24号(2006年7月号)「吉野が月刊杉を生んだ・・・」
   
   ところが翌日、東京へ戻る新幹線の中で南雲さんと話すうちにwebでの展開が浮上、その7月には創刊となったのだった。そんな瓢箪から駒のように生まれた月刊『杉』だが、つくりたいと思った背景から振り返ってみたいと思う。まずは、私自身の杉歴と月刊『杉』での投稿をたどりながら。
   
 
   
  ●自身を振り返る。
   
   現在、フリーランスの編集者である私は、以前、インテリア・マガジン『CONFORT』編集部に在籍し、そこでの仕事を通じて、日本全国スギダラケ倶楽部の核となる面々と出会った。2003年にフリーとなったのだが、奇しくもその頃、スギダラ発足につながる動きが大きくなっていた。南雲さん、若杉さんの取り組みを見ながら、杉に開眼。そして、2004年スギダラ設立以来その活動に参加し、フリーランスという立場で、2005年4月号『コンフォルト』特集「杉とゆく懐かしい未来」を編集したのだった。
   杉の特集はコンフォルトでも初めての試みで、当時、周囲の反応は「えっ、なんで杉?」とちょっと冷ややかなものだったように思う。10年前、杉はまだまだ厄介者扱いだったのだ。
   しかし、私にとってこの一冊は一編集者としての原点ともなった。日本各地にある杉をさまざまな切り口で見てみたら、日本という国の良さや豊かさが再発見できた。さらに現代の日本が抱えている問題の根っこのようなものも見えてきたように思った。行き詰まっている現代日本。どうすればもっと豊かに暮らせるのか? その答えが、杉問題の解決とつながっていると思った。そして、もっともっと杉を取り巻くさまざまな人や事柄を掘り起こしたいと思った。それが月刊『杉』のベースとなったのだ。
   
  創刊号(2005年7月号)「杉の未来」
なんともえらそうなタイトルだが、コンフォルトの「杉とゆく懐かしい未来」からの思いの続きだった。今、読むと、だいぶ恥ずかしいが、所信表明のようなものだったと思う。
   
  06号(2005年12月)「創刊半年を振り返って」
創刊当初は、現在のような特集主義ではなく、杉にまつわる話しをさまざまな方に書いていただいた。読み物的な素敵な文章もあり、数は少ないが、読み応えがあったと思う。そして、連載もスギダラらしさが。チェンソーを巧みに操る山いき・梶谷哲也さんの「間違いだらけのチェンソー選び」、石田紀佳さんの「杉暦」などは、月刊『杉』ならではのコンテンツだったと思う。
   
 

09号/2006年4月号「スギダラオフィス」
私自身が実践した杉活動。お金も無いのに事務所を杉でつくりたいという私のわがままを内田洋行のみなさんが、かなえてくれた(改めて感謝!)。杉空間の心地よさを肌で実感できた。残念ながら大家さんの都合でこの空間は無くなってしまったのだが、住まいを兼ねた4年間はここで子育ても。娘は今でも覚えていて、「杉の床、よかったね」と度々言う。杉育も実践できて、ありがたい空間だった。また、つくりたい!

   
  14号/2005年9月「楽しくなければスギダラじゃない」
スギダラについて書かせてもらった。というのも、スギダラがどんな団体なのか、やはり外から見るとわかりにくいのだなーと当時感じたからだ。森林への関心や環境問題への理解度は上がっているが、杉への理解はまだまだだった(今もそれほど変わっていないのかもしれないが)。改めて読み返してみて、すべて今も同じく思っていることだ。スギダラは杉に留まらず、ますます活動は広がり、もはや杉はソウルと化している(by若杉浩一)。
   
  36号/2008年7月号「親も子も、杉に育まれて」
杉育実践編。すでに娘は7歳。昨年は杉の机と椅子を揃えた。杉コレを見に行ったり、この3月には杉ツアーに初参加。もうちょっと大きくなったら、山にも連れて行きたいものだ(が、しかし、私自身が山歩き出来るのか?)。
   
  54号/2010年2月号「日南飫肥杉大作戦を見て。そしてこれからのスギダラへ」
スギダラにとって、一つのターニングポイントともなったイベント。杉コレと共に、宮崎支部渾身のイベントが数々開催。日南obisugi designの誕生もエポックだった。
   
  65号/2011年2月「地方と都市と、強さと弱さと、そしてスギダラとデザインの生きる道」
またまた、たいそうなタイトルで申し訳ないが、読み返して、当時、いかに閉塞感を感じていたかが思い出された。日本はどこに向かって走っているのか? このままでほんとうにいいのか? 漠然とした大きな不安を感じていたように思う。そして、その閉塞感を打ち破るには、地域の活性化しかないのではないかと。そんなことを書いた2ヶ月後に、あの東日本大震災が起こった。あれから早3年・・・。ますます、地域の活性化がカギだと感じている。
   
 
   
  ●地域の動きを振り返る。  

では、その地域は、この9年でどのように変わってきたのだろうか。スギダラ各支部の動きと変化を、ざっと特集で遡ってみたい。
   
  ★宮崎
  スギダラ発足のきっかけとなった日本一の杉材産地・宮崎。 やはりその原点は、日向駅舎を中心としたまちづくりにあるだろう。 数々の困難を乗り越えて完成した日向市駅づくりの背景を、脚本仕立てで収録した『新・日向市駅』。その発刊を記念した特集も組まれた。
   
  12号/2006年7月 日向特集
18号/2007年1月 宮崎特集
45号/2009年5月 日向市駅本特集
   
  そして、宮崎と言えば、杉コレクション。月刊『杉』では、第3回からレポートをはじめている。2011年日向での杉コレでは、東日本大震災で身内を失った子どもたちへの思いから生まれた「だっこのいす」が被災地・野田村へ送られ、それ以降、野田村との交流が続くなどの広がりも見せている。
   
  30号/2008年1月 杉コレ2007 in都城@
31号/2008年2月 杉コレ2007 in都城A
40号/2008年12月 杉コレ2008 in日向
52号/2009年12月 杉コレ2009 in日南&飫肥杉大作戦
64号/2010年12月 杉コレ 2010 in 西都
75号/2012年1月 杉コレ 2011 in 日向
77号/2012年3月 「だっこいす」プロジェクト
85号/2013年1月 杉コレ 2012 in 宮崎
94号/2014年1月 杉コレ 2013 in 延岡
   
  さらに、宮崎には新しい動きも生まれた。飫肥杉を活用した地域活性化を目指す日南のプロジェクトだ。躍進著しいその活動は、obisugi designというプロダクトを生み、今年はニューヨーク出展を予定している。
   
  15号/2006年10月 飫肥杉特集
27号/2007年10月 油津特集@
28号/2007年11月 油津特集A
43号/2009年3月 日南特集
52号/2009年12月 杉コレ2009 in日南&飫肥杉大作戦
62号/2010年10月 祝obisugi design
98号/2013年4月 obisugi design発信!
   
  ★北部九州
  同じく九州、福岡、大分を中心としたエリアでもスギダラツアーや趣向を凝らしたイベントが開催されてきた。また、オフィスの木質化や他の活動とのコラボレーションなども生まれ、多彩的な展開を見せている。
   
 

37号/2008年8月 スギダラ北部九州特集
41号/2009年1月 杉モノ・デザイン展
63号/2010年10月 杉と温泉ぐるぐる計画特集
79号/2012年5月 JR九州大分支社 地場産木造オフィス作戦
86号/2013年2月 ティンバライズ九州展
97号/2014年2月 スギダラ大分ツアー

   
  ★秋田
  銘木、秋田杉の産地。2005年10月のスギダラ秋田ツアーをきっかけに、ブランド産地に新しい風が流れ込んでいったように思う。過疎化によって存続が危ぶまれる窓山地区の再生案を募ったコンペから、実際に窓山でワークショップ&デザイン会議が行われ、そこから秋田のまちを活性化しようという杉恋プロジェクトへ発展。さらにそのイベントから秋田駅西口のバスターミナルの杉化へとつながっていく。秋田杉の活用とまちづくりと地域の活性化を実践真っ最中の秋田だ。
   
  6号/2005年12月 秋田特集
20号/2007年3月 窓山デザインコンテスト
39号/2008年11月 窓山再生WS&デザイン会議
80号/2012年6月 秋田杉恋プロジェクト
95号/2013年11月 秋田駅西口バスターミナル
   
  ★吉野
  冒頭でも語ったが、月刊『杉』が生まれたきっかけとなった吉野スギダラツアーは2005年4月のこと(その様子は千代田さんのレポートで)。そこから発足した吉野を中心とする「スギダラ関西」は、2006年には「スギやねん!関西」と改称(その顛末はこちらを参照)。若い世代が積極的にアクションを起こしている。これまで、言わずと知れたブランド産地だからこその堅い殻に覆われていた感もあるが、吉野という産地の原点を見つめ直したことで突破口を開き、おもしろいことをやっていこう、という機運が高まったようだ。やっ樽(タル)で〜!桶(オッケ)ー! このダジャレがスギ関のすべてを物語っている。
   
 

19号/2007年2月 吉野特集
38号/2008年10月 スギ関特集
51号/2009年11月 スギ関動く
53号/2010年1月 吉野特集
68号/2011年5月 銘木と銘酒の町フォーラム
78号/2012年4月 吉野を盛り上げる杉関包囲網
84号/2012年11月 吉野材を使った暮らしの道具デザインコンペ
93号/2013年9月 ガンガンノリノリツアー in 吉野 1
00号2014年5月 吉野貯木まちあるき&スギダラ全国大会を予定

   
  以上、主な支部を紹介したが新しい支部も増えている。天竜支部には、次号100号から連載を担当していただくので、乞うご期待!
   
  56号/2010年4月 静岡・天竜
63号/2010年11月 岡山・西粟倉村
   
  また、他の杉の産地を訪ねた特集も数々あるので再読いただけたらうれしい。
   
  13号/2006年8月 日光
21号/2007年4月 智頭
33号/2008年4月 北山杉
74号/2011年11月 鹿沼
83号/2012年10月 徳島
   
  杉以外では、杉同様の悩みを抱えるマツの産地、北海道の特集も興味深かった。
   
  16号/2006年11月 北海道特集
81号/2012年8月 針葉組合結成
   
  産地ではない、モノづくりや文化によった特集テーマもいくつか。こういう特集を増やしていきたいとも思っている。
   
  22号/2007年5月 杉と酒
25号/2007年8月 杉道具
87号/2013年3月 杉を活用したエコファニチャー
   
 
   
  ●単行本で再び。  単行本目次

月刊『杉』は、多彩な連載も自負するところ。その連載は、再び読み物として読んでもらえるように単行本というカタチで編集しなおしている。 この節目で、ぜひ読んで欲しいお勧めを以下に紹介したい。絞りきれないので、あえて10本だけ。

とにかく抱腹絶倒、これが熱い男の生きざまだ。
若杉浩一さんの『スギダラな一生』

杉を通して感じる、美しい日本の暮らし。
長町美和子さんの『つれづれ杉話』

季節ごとに移りゆく、杉の豊かな表情。
石田紀佳さんの『杉暦』

里山の風景を届ける、秋田便り。
菅原香織さんの『あきた杉歳時記』

スギダラ宣伝部長の熱い交友録。
千代田健一さんの『スギダラな人々探訪』

木と日本人の関わりが見えてくる。
岩井淳治さんの『いろいろな樹木とその利用』

屋根付き杉橋づくり奮戦記。
小野寺 康さんの『油津木橋記』

そこには仙人がいた・・・。
南雲勝志さんの『かみざき物語り』

鉱山遺跡の広場ができるまで。
崎谷浩一郎さんの『佐渡の話』

木を使う。高知・中村駅リノベーションの背景。
川西泰之さんの『領域を超えて』
   
 
   
  ●思いを載せる。  

長くなってしまったが、それでもこの9年を語るにはまだまだ足りない(とりあげられなかった記事についてはとても心苦しい)。今回、この原稿を書くために98号分を改めて見てみたら、とんでもない時間がかかってしまった。いや、ぼやきではない。うれしい悲鳴なのだ。目次を見るとついつい記事を読み返して、当時に思いを馳せたりとどんどん時間ばかりが過ぎてしまったのだ。書いてくれたみなさんの思いが、再びどーっと押し寄せてきて、またまた胸が熱くなった。とにかく、ただ「スギ〜」の一言。ご協力いただいたみなさんには感謝の一言に尽きる。  これからも月刊『杉』は、ただの情報ではなく、人々の思いを伝えていきたい。「思えば叶う」の通り、真の心の声はきっと響いていくと信じている。  
   
  それでは、100号からまた新たな歩みを共に!
   
   
   
   
  ●<うちだ・みえ> 編集者
インテリア雑誌の編集に携わり、03年フリーランスの編集者に。建築からインテリア、プロダクトまでさまざまな分野のデザイン、ものづくりに興味を持ち、編集・ライティングを手がけている。 
月刊杉web単行本『杉の未来』:http://www.m-sugi.com/books/books_uchida.htm
   
 
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