連載
  杉が日本を救う/第8回 「わりばし1膳の革命〜炭から炭までエコライフ〜」
文/ 高桑 進
   
 
 3月29日は全国スギダラケ倶楽部のメンバーがなんと全国津々浦々から100名前後も吉野神宮駅前に集結した。当日は吉野町貯木場で「吉野貯木まちあるき」が開かれお祭り騒ぎとなった。できたてのちょぼくマップを片手に、いつもはなかなか見学できない40箇所近い製材所、木工所、銘木店、〇〇商店、○◯林業を見学させて頂けた大変貴重な一日となった。若杉さんを始め、南雲さんなどスギダラケ倶楽部のかたがと久しぶりに元気な顔を確かめ合った次第である。その様子は、またどなたかが報告されると思うので、ここではしばらく連載をサボっていたことを反省して今までとは違う視点で杉の役割を考えてみたい。
   
   実は、今年の1月末に次の3つの目標を達成することを目的としたNPO法人「木づかい倶楽部」なるものを立ち上げました。
 まず第一、に国産の間伐材のわりばし使用率を現在の5%から向こう10年以内に50%以上に引き上げること2番目には、炭焼きマイスター制度を普及させ二酸化炭素の削減に寄与すること。3番目は、日本の里山の生物多様性を生かした「森林環境教育」、エコツーリズムの普及活動です。  
 この3つは、実は私が過去二十数年間展開して来た森林環境教育の内容を相互に連関させた内容なのです。
  まず、「わりばし一膳の革命」と銘打った環境教育プログラム(私の命名ですが)では、現在国内で使用されている中国産の環境破壊型わりばしを止めて純正な安全安心できる国産の杉や桧のわりばしに換えていこうとしている運動です。
  すでに5年以上前から、京都路女子大学の学食で使用されていた中国産のわりばしを 食卓エンターという仕組みをつかい、国産間伐材で作られたわりばしに換えて来ました。 この食卓エンターという仕組みは、1膳2円50銭以上する国産のわりばしを1円前後の安い中国産わりばしに対抗して使わせる素晴らしいやり方です。
  簡単に説明しますと、まず自社やイベントの宣伝を効率よくしたいと考えている組織、団体に広告入りはし袋に入れた国産割り箸セットを1膳10円で購入してもらいます。そして飲食店やレストランでは中国産と同じ1円で使用してもらう訳です。使う側には経費の負担はかかりませんから、使いたいというお店が増える訳です。たとえば、京都府が統一地方選挙の際に若者の投票率を上げるために、箸袋に投票を呼びかけ、どうしても当日行けない場合は期日前投票ができますよ、という情報を記載して使いました。また、京都市は全国3R(Reduce, Reuse, Recycle)推進会議が京都市で開催されたときにこのシステムを活用しました。郡上八幡市での食に関するイベントの宣伝にしとうされました。とくに、学食で運転免許を取りたい女子学生の勧誘に運転免許場の 宣伝を入れて2カ所の学生食堂においた所、今までの売り上げが2倍になったという素晴らしい効用が実証されました。消費者に届けたい情報を的確に食事時間に伝えることができた訳です。
  いままで、学生食堂ではナイフとフォーク、中国産の裸わりばし、塗り箸がおいてありました。潔癖な学生は使い回しの使用した食器を使うことにためらいを感じながら、食事をしていたようです。また裸のわりばしも衛生的でないと感じていたようです。
   
   言うまでもなく、国産のスギやヒノキの間伐材から作られる割箸は、1本の丸太から柱や梁をとった後の端材から柾目で伐り出されます。これに対して、中国産のわりばしは、白樺やアスペンといった広葉樹を桂剥きして板目で作られています。したがって、時々箸がきちんと割れないで斜めに割れて使いづらい場合がでます。柾目で生産された国産のわりばしでは、そのようなことはおこりません。針葉樹の食器には、防腐剤や防カビ材はひつようありませんから未使用です。
  このように針葉樹である桧や杉から生産された国産わりばしと、落葉広葉樹から作られた中国産わりばしでは材質が全く異なります。しかし、大抵の人は食事の際に、それが国産か中国産かをほとんど気にしないでしょう。簡単に見分けるには、わりばしの断面をみるといいでしょう。柾目取りした国産わりばしには年輪が入っていますが、板目取りした外国産(ほとんどは中国産ですが)には年輪はありません。 この国産わり箸の普及活動を進めている中で、使用済のわりばしを回収して再利用できないかと考えたわけです。昔から京都市内の伝統的な飲食店では市内から出てくるわりばしを頂いて、オクドさんでお湯を沸かす時の焚き付けに使っています。さすが京都ですね。ムダに箸を廃棄物として捨てる前に、もうひと働きさせる訳です。昔は、出て来た灰までが染色用の商品として回収されていました。
   
   私の場合は、数年前から授業をとった女子大生に二人一組で学食から出てくる使用済みわりばしを回収させています。それを、龍谷大学の瀬田キャンパスの一角で数年前から炭焼きしていました。炭焼きを喜んでしたがる女子大生は、炭焼きガールと呼んでいました! 後日、学生から先生、電車に乗っても、洗濯しても衣類から炭焼きの匂いがしました。と聞いたので、まさに、女子大生の薫製ができた、と喜んでいた次第です。
   
   この時に使っていた炭窯は、簡単スミヤケールという市販の炭窯です。これは岡山の総合農業研究所の方が考案された、誰でもどこでも簡単に炭が焼ける装置です。岡山にある タケダファインテクノ(株)という会社から購入できます。
   
 
 

この装置は、簡単にいえば ステンレスでできた底のない箱のような形をしています。ピンで組み立てたあと、その内部に炭にしたい材料をいれます。写真では、使用済みのわりばしを入れています。

     
 
  その後、上蓋をして、手前に20センチ程度の焚き口を掘ります。ステンレスの箱の後ろには細長い煙突が装置からでています。
     
 
  焚き口から火をつけて、炭焼きを始めると白い煙が後部の煙突から出て来ます。この状態で6時間以上炭焼きをしてから、夕方に焚き口と円とる開口部を閉じて一晩かけてさまします。
     
 
  翌日窯をあけると、写真のようにきれいな炭が出来上がります。炭の材料には、コナラ、竹、スギ、ヒノキなど何でも炭になります。わりばし炭は芸術的に仕上がりました。
     
   このやり方は、本体が薄いステンレスですから軽くて移動が簡単にできることが一番の特長です。 従来の炭窯は、まず設置する場所はどこでもできる訳ではなく選ばなくてはならず、製作には専門的な技術が求められ、完成すると1回に2トンもの材料を確保しなければならず、 火をつけると3日3晩は目が話せません。冷却に2日はかかるので1回の炭焼きに1週間を要する訳です。したがって、炭焼きを生業にするならいざ知らず、なかなか素人にはできない作業となります。
   
   それがこの簡単スミヤケール装置のおかげで2日間で炭が焼ける訳です。この装置で4年間、延べにして10数名の炭焼きガールを育てて来ました。 できた炭は、畑に入れて土壌改良材として使えますし、下駄箱や冷蔵庫、トイレの消臭材として利用しました。その他、汚染された河川水の浄化にも使えます。薪やペレットストーブがいまはやっていますが、燃焼するとすべて炭素は二酸化炭素となります。
   
 
  楽しそうに作業をする炭焼きガールたち
   
   もともと大気中の二酸化炭素がバイオマスとなったので、これはカーボンニュートラルといわれます。ところが、炭焼きをして炭にすればバイオマス材料の含有する炭素の半分が炭となりますから、二酸化炭素の削減になります。環境教育としての炭焼きを木づかい倶楽部では普及させる計画です。もちろん、いざという時の防災用燃料としても炭がつかえます。
   
   ところが、昨年の夏にわずか2時間で炭焼きが終了するという画期的な炭窯に出会いました。その炭窯を開発したのは、1級建築士でヨットマンの松村賢治さんです。 昨年12月14日に、ワークショップを開いて製作した2連の松村式改良型ドラム缶炭窯です。このドラム缶炭窯で3月までに9回、炭焼きをしました。詳しい話は次回にしますね。
   
 
  松村式改良型ドラム缶炭窯の前で記念撮影
   
  (続く)
   
   
   
   
  ●<たかくわ・すすむ> 京都女子大学名誉教授
31年勤めた京都女子大学を2013年3月に退職し、4月から同大学で非常勤してます。9月から同志社女子大学、大阪大谷大学でも非常勤の予定。たった一人の妻と同じ家で生活してます(笑)。
1948年富山高岡市生まれ。名古屋大学大学院博士課程修了し、理学博士号を取得。米国ミズーリ州立大学でポストドクを2年やり、京都女子大に勤務。全てのいのちを大切にする「生命環境教育」を、京都市左京区大原にある25ヘクタールの自然林「京女の森」で、1990年から実践中。専門は環境教育、微生物学。フェイスブックとLINEしてますよ。現在、杉文化研究所所長。
著書:「京都北山 京女の森」ナカニシヤ出版。
趣味:フロシキと手ぬぐいの収集。渓流釣り、自然観察等。
   
 
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