連載
  杉が日本を救う/第7回 「今年の初夢、妄想?」
文/ 高桑 進
   
 
 
  平安時代前期の貞観11年(869年)5月26日(グレゴリオ暦では7月13日)に陸奥国の東方沖海底を震源域とした貞観地震が発生した。その規模はマグニチュード8.3以上であったとされるが、平成21年(2011年)3月11日に発生した東日本大地震はマグニチュード 9.0といわれる巨大な地震でした。
   
  千年に一度という巨大な地震により大津波が発生。40年前に建設された古い古い福島第一原子力発電所を襲い、全電源喪失状態になりました。原子炉の冷却装置が停止。厚さ30cmもの鋼鉄製の原子炉圧力容器が、2800度にもなったと思われるウランの崩壊熱でメルトダウンした。まさに想像を絶する恐るべき大事故である。
   
  この事故で、私たちは毎日の生活エネルギーは、長崎に落とされた原爆と同じ核反応から発生していることを思い知らされた。原子炉の制御は、信じられないほど複雑で微妙なシステムが必要であり、その複雑微妙なシステムは自然災害で簡単に壊れてしまうことを思い知らされた訳です。
   
  それから3年たちました。東京電力福島第一原発事故以来、原発から供給されていた電力がゼロとなり、外国からみれば当然日本の経済活動は大きなダメージを受けるだろうと予想されたでしょう。ところが、どうですか。天然ガスを使った火力発電所を再稼働させて、生活に必要なエネルギーを作り出したのです。まったく凄い国だ、と思わずにはいられない日本人の底力が世界に向かって発せられたのです。
   
  この3・11を境に、私たちは快適な生活を送るための電力エネルギーを地上の全てのいのちを傷つける放射性物質を利用するシステムには依存しないほうがいいと悟った訳です。つまり、安全で安心出来るシステムである再生可能エネルギーを利用する文明に転換すべきです。
   
  エイモリー・ロビンスは、「日本は化石燃料の資源が乏しい国だが、自然ネネルギーの資源は工業国の中でも豊富だ。面積あたりでドイツの9倍にもなる。しかし、自然エネルギーによる電力の導入量はドイツの9分の1だ。—————— 日本はドイツに比べて国土も広く,人口も多い。太陽光発電に必要な日照の条件も良い。そんな日本の太陽光発電の導入量がドイツの4分の1にとどまり、風力発電に至ってはほとんど増やせていない。」と述べていることを読むと、我が国の底力はまだまだ十分には発揮されていないことがわかります。
   
  さらに1月18日の朝日新聞の私の視点ではこうも述べている。
「2012年にドイツは電力の23%を自然エネルギーでまかない、デンマークでは41%。スペインは13年前半で48%、ポルトガルは05年比で17%増の70%という数字が出てきている。独占市場を保護してきた日本では12年でも、たったの3%以下にとどまる(昔ながらの水力発電を除く)。」
この記事を読むと、日本の自然エネルギー利用が日本より緯度が高いヨーロッパに比べてもいかに低いかがわかります。
そしてなんと、「08年以降、世界の新規発電容量の半分を自然エネルギーがしめている。昨年でみると、欧州で69%、中国も原発より水力以外の自然エネルギーの発電が多くなっている。日本は逆の方向へ進んでいるのだ。」とも述べている。まさに「日本の常識は世界の非常識、日本の非常識は世界の常識」だということです。
   
  前置きが長過ぎましたが,私が進める自然エネルギー利用はバイオマス資源です。最近話題となっている「里山資本主義」に書かれているような、薪ストーブ、ペレットストーブではありません。
その先を行く、二酸化炭素の削減を見える化した「新炭革命」です。
薪やペレットのようなバイオマスは大気中の二酸化炭素が固定されたものですから燃焼してももともとの二酸化炭素に戻るだけなので、カーボンニュートラルです。しかし、炭にすればバイオマスに含まれる炭素の約半分が固体の炭になります。炭は炭素ですから安全、安心な物質です。100年たっても腐りません。
   
  炭は60年前には国内で300万トンも生産されていましたが,今では国内では6万2千トンしか生産されていません。平成22年で,中国から5万8千トン、マレーシアから1万9千トン、インドネシアから2万4千トンです。合計10万トンです。
   
  炭は、薪とは違い煙が出ませんし、土壌改良、水質保全、消臭、湿度の調整、アクセサリー、食品、その他に多目的に使えます。仮に、現在未利用な林地残材を全て炭にすることができれば、二酸化炭素の削減はかなりの量になるはずです。
   
  そこでわたしの初夢は、これから石油や天然ガスが高騰しても森林飽和した我が国のバイオマスから炭を生産すれば大丈夫なのではないかということです。
   
  その夢を実現する最初の糸口として、誰でもどこでも出来る簡単な炭焼き法を広めて行きたいと考えています。詳しい炭焼き法は次回にご紹介します。
   
   
   
   
   
   
  ●<たかくわ・すすむ> 京都女子大学名誉教授
31年勤めた京都女子大学を2013年3月に退職し、4月から同大学で非常勤してます。9月から同志社女子大学、大阪大谷大学でも非常勤の予定。たった一人の妻と同じ家で生活してます(笑)。
1948年富山高岡市生まれ。名古屋大学大学院博士課程修了し、理学博士号を取得。米国ミズーリ州立大学でポストドクを2年やり、京都女子大に勤務。全てのいのちを大切にする「生命環境教育」を、京都市左京区大原にある25ヘクタールの自然林「京女の森」で、1990年から実践中。専門は環境教育、微生物学。フェイスブックとLINEしてますよ。現在、杉文化研究所所長。
著書:「京都北山 京女の森」ナカニシヤ出版。
趣味:フロシキと手ぬぐいの収集。渓流釣り、自然観察等。
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved