連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第44回
文/写真 田原 賢
  N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 後編3
 
 
*第42回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 後編1
 
*第43回 N値計算法の中の『L』の原理となった柱カウンターウェイト検証実験 後編2
   
   
  2.実験概要
   
  2−3.実験方法
   
   
  2−3−1.加力スケジュール
  載荷はジャッキにより3構面を単調載荷(変位制御で押し→引き→終了)。
載荷スピード約0.5(mm/sec)で最大変位1/30(rad)で折り返しとした(最大変位時に2分間のHOLD)。
   
   
  2−3−2.実験データの測定
  測定値は以下に示すとおり。また、チャンネルNo.を下表に示す。
   
 
@ジャッキ部荷重、水平変位  
A鉄骨架台ひずみ 土台の取り付いた鉄骨架台のひずみからその真上の構面にかかっている荷重を算定する。
B金物(CPT)ひずみ 柱頭金物のひずみから金物に生じている引張荷重を算定する。
C土台水平変位 載荷時の土台自体のずれを計測する。
D梁継手変位 増築部分との境界部の梁継手の軸方向変位および鉛直方向変位を計測。
E床ねじれ変位 2階床のねじれ変位の計測
F梁水平変位 梁レベルの建物の水平変位(X、Y方向)
G柱頭ロードセル 耐力壁柱頭部分の圧縮軸力を測定する。
H土台-梁間変位 土台と梁の変位量から梁の浮き上がりを測定する。
I鉄骨架台鉛直変位 鉄骨架台のたわみを計測する。
   
 
  表3:チャンネルNo一覧
   
   
   
  3.実験結果
   
  3−1.実験データの処理
   
  3−1−1.水平荷重値(ジャッキ荷重値と鉄骨架台反力値)
  今回の試験体は剛床であるので、ジャッキ部の水平荷重は、他の構面からの抵抗の影響受けていた。このため、土台下の鉄骨架台のひずみから架台部の反力を計算し、それをその上部の構面が負担している水平荷重とした。(各試験体における水平荷重(ジャッキ部及び架台反力)の推移グラフは別記参照。
また、ジャッキ部(写真2)には、載荷の際に試験体とジャッキの接点に摩擦が生じ、柱ロードセルで計測される値がカウンターウェイトより、若干大きくなる恐れがある。そこで接点をクレーンで持ち上げた時のジャッキ部の荷重値から摩擦抵抗がどれほど生じているかを測定する簡単な試験を行った。
その結果、載荷されている水平荷重にかかわらず約40kg前後程度の摩擦抵抗が確認された。
ジャッキとの節点部に取り付ける鉄骨部材自体の荷重が50kg前後あることも含めると100(kg)以上の押さえ込み力が生じている可能性があることに注意する必要がある。
(しかし、押し引きで試験体水平耐力の違うことやロードセル荷重値の計測値の傾向から、ジャッキ部の抵抗は、載荷状況により増減している可能性がある。)
   
   
  3−1−2.柱頭金物ひずみゲージ
  柱頭金物単体の引張試験の荷重-ひずみ関係から金物に生じている引張荷重を算定した(弾性域)。
塑性域は、引張試験の荷重-変位関係の弾性直線から得られる荷重と実際の荷重の比率を求め、載荷実験時の金物荷重を推定した(下図参照)。
   
 
このグラフはカウンターウェイト実験を行う前に実施した柱頭金物の引張試験結果である。
上図中の直線は弾性域のグラフをのばしたものである。
カウンターウェイト実験において、柱頭金物の荷重値は、ひずみ測定値と引張試験による弾性係数から計算されたものであるため、塑性域において荷重値が過大に算出される。
そこで、上図の弾性直線による荷重と引張実験による実荷重の関係を下図のようにモデル化し、カウンターウェイト実験時の柱頭金物の塑性域における荷重を推測した。
   
  また、直交壁の金物による梁の押さえ込み力の計算は、下図のようにモーメントの釣り合いから求めた。
 
  図19
   
   
   
  3−1−3.梁継ぎ手変位
  軸方向についてはほとんど変化はみられなかった。
鉛直方向は、梁継手オス側のみが浮き上がる場合最大30mm程度のほぞの浮き上がりが見られた(写真27・28・30など)
しかし、試験体No.4-2の押し載荷の場合に、メス側も押し上げられる現象が見られた(写真23)
   
   
  3−1−4.柱頭ロードセル値
  柱頭ロードセル→柱のみの状態から、上棟後、積載荷重載荷後までの圧縮軸力の推移を見たところ、柱によっては荷重が載った後の方が軸力の小さいものがあった(別項参照 表3)
柱の施工精度によって、柱への軸力の負担がばらつくことがあることが確認できた。
また、今回の実験において柱ロードセル値はグラフの状態や計測値から見て、正確に計測値が出ているかどうか疑わしい場合が多々あり、その都度判断し、補正を行った(別項参照 図20〜22)
最大変位時に達する前にロードセル値が下がりだしたものは、変位増加やめり込みによるロードセルの接触不良が考えられる(柱頭ロードセル計測部→写真5)
接触の加減などで正しく計測されていないものがあったり、ジャッキの抵抗などがロードセル値に含まれている可能性があるので、今回の実験では実カウンターウェイトを考える場合、ロードセルの計測値は参考程度にし、梁浮き上がり範囲から推定したカウンターウェイトを実験値とすることにした。
   
   
  3−1−5.梁-土台間変位量(浮き上がり値)
  床浮き上がりからカウンターウェイト値を計算するとき、変位計値をそのまま用いると、浮き上がり範囲が過大に算出されるおそれがあり、また変位計の位置から柱が回転するだけで変位計値が若干増えることから、変位計で5、6mm以上値が出ているものを浮き上がりと判断してカウンターウェイト値を計算した。
変位計は土台部に固定しワイヤーで梁とつないで計測している(写真4、5)
変位量測定位置および測定器位置による補正計算法は別項参照図11に示す(後に図面で示す梁浮き上がり量はこの補正をしていない値である)。
   
   
  3−1−6.その他の測定値
  土台水平変位→ほとんど変化はなく、1mm弱の変位しかみられなかった(写真4)
床ねじれ変位→今回は変位制御載荷としたため、床のねじれは見られなかった(写真6)
梁水平変位→変位制御のため、載荷方向と垂直方向の大きな変位は見られなかった。
鉄骨架台鉛直変位→鉄骨架台のたわみは1mm未満であることが確認された。
   
  柱軸力値(柱のみの時の柱頭ロードセル値を0としたとき)
 
  表4
 
  表5
   
  土台−梁間変位量計測位置と測定値補正計算表
 
  図20
   
   
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 構造設計家
「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
大阪工業大学大学院 建築学科 客員教授
月刊杉web単行本『杉という木材の建築構造への技術活用』 http://www.m-sugi.com/books/books_tahara.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved