特集 徳島・木頭杉ツアー

  スギダラツアー、そこから見えてくるコト、暮らし方、そして"人"
文/写真 辻 喜彦
 
 
  2012年8月4日夕刻
   
  日頃の不摂生と体力の衰えを南雲さんと共に感じつつ、小雨の中の「杉の一本乗り」を終えて、久しぶりに全身の筋肉を使った心地良い疲れの中、今晩の宿「さくらぎ旅館」へ入った。
早々に宿を抜け出し、「筏師の昔語り(徳島大学地域再生塾公開講座)」が始まるまでの時間に、雰囲気が気になっていた町並み探訪へ出かけてみた。かつては、どれ程の賑わい華やかさだったことだろう。町並みのそこかしこに、そんな時代の面影が残されている。
那賀町は、石積みの美しい町でもある。長い時間をかけて、住人が積み上げてきた石積みには、暮らしの痕跡がしっかりと残されている。しかし「鉄砲堰」も「筏流し」も「賑わいぶり」も往時を知る人はごく僅かとなってしまった。
   
   
  那賀町平谷の町並み
   
  通り裏の急な坂路を入った時、地元のかわいいお婆さんに声を掛けられた。
「どこから来られた?」「東京からです・・・」
「あらぁ〜・・・」「ちょっと散歩しようと思って・・・」
「何にも無いけど、この坂を上ると良い眺めだよ」「ありがとうございます」
小坂を上りだして、ふと振り返ると、そのお婆さんは急坂の途中の一軒家へと消えていった。
きっと毎日、この急坂を上り下りしながら暮らしているのだろう・・・。
子どもたちは家と町を出て、もう何年も独り暮らしを続けているのだろう・・・。
誘われるように上った坂上から平谷の町が一望できた。
ヒグラシが鳴いている。平谷の町は、静かに暮れようとしていた。懐かしい夏の夕暮れ。
限界集落に近づいている地域の姿がここにもあった。
   
 
   
  「筏師の昔語り(徳島大学地域再生塾公開講座)」
   
  語り部となった筏師の方のお話しからは、当時の生活ぶりが目に浮かぶようだった。山と川が暮らしを支え、筏師という生業があり、育まれた技術があり、活気と野心に満ち溢れていた。
しかし道路ができ、車が通るようになり、ダムが出来ると、その暮らし方のシステムまでも大きく変わってしまい、人々は町を出て、山が荒れだし、技術は忘れかけられ、町が静かになってしまった・・・。
   
 
  那賀川の筏師たち旧姿
   
  これまでも杉と暮らしてきた町・集落には、スギダラツアーを通じていくつも出逢ってきた。
秋元、吉野、上崎、群馬、窓山、飫肥、天草、鹿沼・・・各々の地域でも状況は大変だが、どの地粋でも頑張って支えている"人"が見えていた。「杉の一本乗り」と聞いた時、そんな"人"にも出逢えることを楽しみに今回もスギダラツアーに参加したつもりだった。
地元の方々はとても親切に地域を案内してくださったが、那賀町平谷は、驚くほど静寂で、今にも消えてしまいそうな集落に思えた。
   
 
   
  2012年8月4日深夜
   
  全くの異邦人である我々を歓迎してくださった地元のみなさんとの楽しい宴も終わり、恒例の自己紹介とスギ談義が始まった。
「この地域はどうなるのか・・・?」
「我々、スギダラは何が出来るのか・・・?」
「何のために、そこまでするのか・・・?」
スギダラツアーで毎回語ってきたテーマでもある。
苦しくても地域のために自分たちが出来るコト。せずにはいられないコト。
未だに答えは見つかっていないが、その基本的なコトを思い出させ、考えさせられるのがスギダラツアーである。
   
 
  地元の方々との"宴"
   
 
   
  2012年8月5日朝・小雨
   
  翌朝、コーディネートに苦労された真田さんには申し訳ないが、杉の一本乗りの疲れと二日酔いでどんよりした体に、朝一番の山登りツアーが中止になったとの"朗報"が入った。もう少し眠れる・・・
宿を出ると、地元の方から
「"さくらぎ旅館"からあんなに笑い声が聴こえたのは何年ぶりだろう・・・嬉しかった!」
というお話しを伺った。重い言葉だった・・・。
昨日から、ずっと気持の底辺に流れているこの重さは何なのだろう?
重すぎるのだが、真摯に向き合わずにはいられない何かがある。
地域の歴史文化、暮らしや技術は、生業の仕組みが変わってしまえば、このまま消え去ってしまうものなのだろうか・・・? それで良いのだろうか・・・?
いやいや、消え去って良いはずがない! そんな想いを背負って宿を出た。
   
 
   
  2012年8月5日・橋本林業にて
   
  昨日の筏一本乗りの疲れと二日酔いで重い体を引きずり、橋本林業の山を見学させて戴いた。橋本さんの山は、見事に考えられ、知恵を尽くして造られ、育てられていた。
山の知識がたいして無いボクは、本当に驚いた!
家族でこんなに山のことを考え、愛しみ、実践されている"人"がいた。
   
  「辛く大変な時だから、逆にチャンスなのです!」
 
  • 妨げとなるものを取り除く(一利を興すより、一害を取り除く)
  • 調和を図る
  • 変わらぬものを求め(良いものは守り、改善すべきものはする)流行はあまり追わない
  • 仕方ではなく、仕組みを変える
  • 改善・・・今までのやり方を自然に無価値にする
  • 自然に学び、自然の力を借りる「自然は知恵の宝庫」
                              「橋本林業・経営理念」より
   
  橋本さんの語る言葉は、昨夜のスギ談義のテーマ、スギダラが模索している道と同じだと思った。自分自身の日々の状況とも照らしみても、救われた気がした。
   
 
  橋本さんの手入れされた山
   
 
   
  2012年8月5日・昼 「かきまぜ」
   
  思いがけず気持の良い汗をかき、二日酔いが抜けた胃袋に、地元のご婦人方が作ってくださった「かきまぜ」は、優しくとても美味しかった。
一泊二日のスギダラツアーにとって、杉が大事なことはもちろんだが、やはり"人"との出逢いなのだ。
"人"が見えてくると、地域の風景までも違って見えてくる。
そうすると、次の機会には「こんなコトが出来そう・・・あんなコトも楽しい・・・」そんな豊かな気持になってくる。
まちづくりを生業にしているボクにとって、スギダラツアーは、日常の延長線上ではあるが、日常の"お仕事"とは切り離れた場所での様々な出逢いから、いつもとても大切な熱いモノを戴いている気がしている。
そしてそのツアーに参加する吉野の中井さんたちや日南の河野健一さんたちのような交流がもっともっと生まれてくると、実は消え入りそうな町や集落に違う"仕組み"が創れそうな元気が出てくる。那賀町木頭には、まして徳島大の真田さんたちの強力なサポートもある。
また、ここでも新しく楽しい何かが生まれそうな予感がしてきた。
遠い地ではあるけれど、また是非、参加してみたい! 今回もそんな素敵なツアーだった。
   
   
   
   
  ●<つじ・よしひこ> まちづくりプランナー
アトリエT-Plus建築・地域計画工房 代表。 東京都生まれ。
過去8箇所のスギダラツアーに参戦した公称・日本一のスギダラツアー・フリーク。
所属は スギダラ本部なのか、宮崎支部 東京駐在員なのか 未だ不明
共編 『新・日向市駅』(彰国社)など。
   
   
 
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