特集 徳島・木頭杉ツアー

  はじまりとしての木頭杉ツアー
文/ 真田純子
 
写真/ 木頭杉ツアー参加者
 
   はじめまして。徳島大学の真田です。このたび、徳島県那賀郡那賀町で木頭杉ツアーを開催しましたので、そこに至る経緯も含め、報告したいと思います。
   
   まず那賀町とは、徳島の南の方にある町で2005年に5ヶ町村が合併して誕生しました。700平方キロメートル弱の面積に9000人余りの人口、森林率は95%を超えるという町です。
そんな中山間の町で、地域おこしのリーダーを養成しようと、2006年秋に徳島大学と町が協定を結び「地域再生塾」を立ち上げました。私は徳島に着任した直後の2007年1月から月1回の教室に通っています。
とはいえ、大学の教員と地域の方々、という関係ではなく、すっかりおばちゃんたちと打ち解けて一緒にまちづくりの活動を計画し、実行しているという感じです。
これまでは地域の方々が大切にしているミニ八十八カ所の水崎廻り(みさきまわり)のマップをつくったり、品質が高いことで市場関係者や料理やお菓子のプロには有名な「木頭ゆず」を一般の人にも知ってもらう活動をしたり・・・ということをやってきました。
  地域再成塾の様子
  地域再生塾の様子 机の上にあるのは「はんごろし」という名のおはぎ。差し入れもよくあります。
   
   また地域再生塾とは別に、四国圏内の土木遺産を探して認定する、という土木学会の仕事もやっていて、2010年に「鉄砲堰」という木材運搬のための施設に注目しました。(やっと杉に近づいてきました!)
2010年に鉄砲堰を選奨土木遺産に推薦し、それが認定される中で、鉄砲堰について詳しく調べていくと那賀町の最奥の木頭地方が昔から木頭杉と呼ばれるブランド杉の一大産地であったこと、那賀町を流れる那賀川を主な輸送路としていたこと、それに伴う技術があって今は消えかけていること、山の中にも木馬道という立派な道が網の目状に作られていたこと、何より林業を中心として今では考えられないくらい地域が賑わっていたことなど、たくさんのことを知りました。
  那賀川
  那賀川の中流部 岩が特徴的
   
   今回、木頭杉ツアーを企画したのは、「木頭ゆず」の活動が一段落ついた今年の4月、塾生のおばちゃんが「次は杉でなんかやりたいんよ」と言ったことがきっかけです。私も木頭杉については興味をもって調べていたし、杉の産地ならではの宝を活かしたいという思いも密かに持っていました。
そこで「杉で何をするか?」と考えたときに思い至ったのがスギダラです。2011年の夏に「杉の一本乗り」を体験したのですが、その様子をブログでアップしたところ、南雲さんから「おもしろそう」というコメントをいただいていました。
「杉で何か新しい活動を起こす」と考えても具体的な策は何も浮かびません。だったらまずは南雲さんをはじめスギダラの方々に来てもらって地域の方々と交流したら何か見えてくるんじゃないか?という単純すぎる発想です。南雲さんにしてみれば、「おもしろそう」という一言で、徳島の山奥まで駆り出されることになったわけです。スミマセン。
   
   ツアーをやることが決まれば、次は、プログラムの決定です。何をプログラムに入れるか、おばちゃんたちと話し合った結果、以下のようなプログラムになりました。
   
  1日目(8月4日)
  ・徳島市内集合、木材を流していた那賀川沿いの細い道を2時間以上走って木頭へ
・鉄砲堰見学
・お昼ご飯の後、杉の一本乗り
・林業に使っていた「ふろんたに橋」見学
・場所を平谷に移動して「地域再生塾公開講座 筏師の昔語り」開催
・林業者が利用していた「さくらぎ旅館」で交流会、宿泊
  2日目(8月5日)
  ・平谷の町散策(各自)
・山の中にある木材輸送路(木馬道、手彫りのトンネル)見学
・お昼ご飯は「かきまぜ」
・施業現場(橋本林業)見学
・温泉に入って空港へ
   
   こうして書き出してみると、地域の宝がたくさんあることに改めて気づかされました。プログラムが決まると、一本乗り保存会の人に連絡をつけるのは誰?「かきまぜ」を作るのは誰?・・・など、細かいことを決めていく作業に入りますが、これが月1回の教室だけではなかなか大変です。そもそも、おばちゃんたちの話はいつも脱線しますから。だけど、いつもナゼか何とかなるんです。2日目のお昼ご飯にある「かきまぜ」とは、柚子酢を使ったちらし寿司のことで、具がたくさん入っているのが特徴です。甘く煮た豆やジャガイモや里芋なんかも入っていたりしますが、ゆずの酸味や香りで上手くまとまっています。最近再生塾ではおばちゃんたちのまとまってないように見えて最終的に何とかしてしまうパワーを「かきまぜパワー」と呼んでいます。今回もかきまぜパワーで当日には全ての段取りがついていました。
  かきまぜ
  木頭ゆずの果汁を使ったちらし寿司「かきまぜ」
   
   ではいよいよツアーのレポートを行います。
   
 
   
  1日目
   
  徳島市内にて:徳島市内、空港、バスターミナルにて、集合です。
バスの中:自己紹介が始まりました。(どうやらスギダラ恒例らしいですね。)質問したり脱線したりでなかなか進みませんが、乗車時間が長いので大丈夫です。ただ後半、予想もしなかった遠さに驚かれたようです。
   
  鉄砲堰:
那賀町の木頭に着き、おばちゃんたちと合流です。その後、ダートコースの林道をしばらく走って鉄砲堰の見学です。水量の少ない沢で木材を流すための堰で、通常は岸に接する両サイドの「アテ堰」の部分も運搬する木材を組んで作っていたようですが、お金のあった木頭地方では練り石積みで作ったところが何カ所かあります。ただ、中央の堰の閉め方を知っている人はもうほとんどいないようです。
  鉄砲堰
  沢の中に作られている鉄砲堰 南雲隊長と比べてもけっこう大きいことが分かります。
   
  杉の一本乗り:
今回のメインイベントといっても過言ではない杉の一本乗り。昔、杉を運搬する際、岩の多い上流部では筏に組めないため、丸太のまま流す管流しが行われていました。バラの丸太が岩や岸に引っかかっているのを外して流れに戻すため、トビのついた長い竿をもって丸太に乗っていた「一本乗り師」という人たちがいました。1955年に長安口ダムが出来たことによって今では行われていませんが、「一本乗り保存会」が年に1回大会を開き、技術の継承を行っています。
地元の名人は、すいすい乗れますが初心者はそう簡単にいきません。まずはクルクル回る丸太の上に立つのが一苦労です。2時間半、それぞれが夢中で挑戦しました。なんとなくコツがつかめたあたりで終了しました。
  杉の一本乗り1
  中井さんの勇姿!
  杉の一本乗り2
  終了後、名人たちと共に記念撮影
   
  ふろんたに橋:
那賀町には吊り橋がたくさんあります。なかでも、この橋は林業者が山に入るために使った橋と言われています。よく見るとテンションのかかっていないハンガーロープ(縦のケーブル)があったり、揺れ防止の桁下についているケーブルも切れています。私は怖くて渡りきったことはありませんが、この先に道路はなく、山があるのみ、だそうです。
  ふろんたに橋
  見よ!このひ弱な橋を。石橋さんも心なしか腰が引けてるような…
   
  筏師の昔語り(徳島大学地域再生塾公開講座):
木頭杉ツアーをやろうと言っているときに、再生塾のコーディネーターをやっているおじちゃん(元大学職員)が、昔、筏に乗っていたというおじいさんを見つけてきてくれました。そこで、ツアーに公開講座が組み込まれたわけです。ここだけに参加する方々もいて、筏師の生活や技術など、興味深い話を聞くことが出来ました。最後には南雲さんにスギダラの紹介もしていただきました。見た目は相当あやしかったのですが、話をしていただいて誤解が解けたようです。林業者ではない人たちの杉への関わり方や意味について共感を得られたと思います。
  筏師の昔語り1
  何年か前に地域の人たちがつくった模型をつかって、筏の扱い方を説明してくれています
  筏師の昔語り2
  教祖様?と囁かれた南雲隊長
   
  交流会・宿泊:
昔、林業者で栄えていた平谷に林業者の常宿として使われていた「さくらぎ旅館」があります。交流会とスギダラメンバーの宿泊はここで行いました。大学メンバーは近くの別の宿に泊まったのですが、スギダラメンバーだけになった後の盛り上がりも凄かったようです。怖いので何があったかは聞いていません。
平谷在住の塾生のおばちゃんが翌日、「宿から帰るとき、宿に明かりがついていて笑い声が漏れ聞こえてきたのが懐かしくてとても嬉しかった」と言っていたのが印象的でした。
  さくらぎ旅館
  林業者が利用していたさくらぎ旅館 味があります。
   
 
   
  2日目
   
  木馬道・手彫りのトンネル見学:
あいにくの雨で泣く泣く中止にしました。木馬とは、木で出来たソリで木材を運ぶために使うものです。木馬道とはそれを通す道。木馬道にはある程度の幅員が必要、長い木材を載せているのでカーブのところは特に幅員が必要、木材を載せた木馬は重いので、勾配は0〜マイナスであることが重要、という条件が考えられます。行く予定だった木馬道は、幅員を確保するために谷側に石積みが施してある、カーブのところが特に幅員が広い、尾根を越えるところがトンネルになっている条件をそろえています。また、トンネルを抜けるとその先に那賀川が見えるという、まさしく木材の通った道だなと思える場所です。
山の中に石積みの道やトンネルがあるというところから、活況を呈した林業の様子がうかがえます。
結局この見学は中止にしたので、木頭杉を使用した相生小学校に見学に行きました。
  木馬道
  見に行くはずだった石積みが施されている木馬道
  トンネル
  同じく見に行くはずだった木馬が通ったと思われる手彫りのトンネル
   
  施業現場(橋本林業)見学:
家族で林業をやられている橋本夫妻に案内していただきました。ここの特徴は広葉樹との混交林であることや林内の高密な作業道だそうです。日本でも有名な大橋慶三郎さんから指導を受けられた方法で林道整備をしておられ、林道をつくったことで山が崩れるということは無いそうです。
雨の中の見学でしたが、丁寧に説明していただきました。また、帰りに出していただいた生姜湯がとても美味しかったです。
  施業現場
  思った以上に「山登り」だった施行現場見学。いろいろと勉強になりました。
   
  昼食(かきまぜ):
柚子酢を使ったちらし寿司「かきまぜ」がメインの昼食です。とても美味しかったのですが、初めての方々にはどうだったでしょうか。
   
  その後、温泉に入り一路空港へ。
   
 
   
   以上がツアーのレポートです。
「杉で何か新しい活動を起こす」ということのヒントが見えたかどうかは分かりませんが、「何かやるんだ」という宣言にはなったような気がします。また開催した側として、元気と勇気をもらいました。今後も、できることからこつこつと進めていきたいと思います。
   
   最後になりましたが、参加してくださったみなさま、ありがとうございました。
   
   
   
   
  ●<さなだ・じゅんこ> 徳島大学 助教
   
 
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