連載
  安富町の杉
文・写真 / 南雲勝志
  いま地域が生き残るために・・・
 

 姫路の駅前再開発プロジェクトに関わっていて、そこで使用する杉をこだわりたいとずいぶん前から市や県と相談していた。実は姫路市は都会と思われがちだが、2006年合併後森林面積は3万ヘクタール、全体の60%近い。ブランド杉こそ目立たないが、杉の宝庫なのである。
地場産材を使用するということはここでも同じで、木材に関しては、当然市産杉材は設計項目に入れていた。そして駅前の最も人目に触れる場所に、姫路自慢の良質の杉を見せてあげることは地場の素材をピーアールする意味でも格好のチャンスである。
しかし慣れていればすぐに答えが出るのだろうが、市産材と限定すると意外と簡単ではなかった。使用する数量はかなり多い、防腐処理をはじめとする仕上げ、耐久性を前提にした素材集めは結構難航したのだ。しかも温暖化による枝虫の被害もかなり多いらしい。しかし、県の森林課のバックアップもあり、使えそうな手入れのいい杉が見つかったのである。

 その現地を見、森林組合の方々とお会いし、話を聞くために小野寺さんらと共に、設計チームとして現地入りした。合併前は宍粟郡(しそうぐん)であった姫路市の最北端安富町関という集落であった。車で一時間程の距離、都心部からは想像も出来ない緑と山林、きれいな空気で満ち溢れていた。しかし高齢化で森林組合の皆さんは80歳近い。自分の父親くらいだ。自ら育てた杉に思いはあれど、未来に向けて維持管理には大きな不安を持っている。集落戸数は30弱、そのうちお年寄りの一人住まいが10人ほどという超高齢集落である。平均年齢は70歳を超え、限界集落の域をはるかに超えている。案内された山林は集落からさらに15分ほど山道を登ったところ。気温は市街地より4〜5度低く肌寒い。突然視界が開け、きれいに芝が張られたキャンプ場の周辺であった。

 ざっと見渡すと幹はそんなに太くない。しかしかなり上の方まで枝打ちがされていて、樹形はちょっとかわいい感じ。北山杉を思い出した。樹齢は55年生ほどだが、今回使用する材としては問題ない。事前に一本試し伐採をし、玉切りしたものを見せて貰った。杉材に関して目利きが出来るほどの経験と知識は無いが、一見して皮の肌の艶がいい。そして断面がまん丸、年輪も同心円、色もきれいなピンク色。さらに枝打ちを高所までしているからであろうが、根元と上部の幹の太さがあまり変わらない。と言うと、それは「通直・完満」と教えて頂いた。産地の皆さんなら当たり前の言葉を僕らは良く知らない。(笑)この木を製材し、虫食い、節の多さなどを改めて確認検討することになった。

 
  精魂込めて育てた杉。針葉樹も意外と多く気持ちがいい。
 
  実験的に一本伐採。検証を行う。森林組合のみなさんと。
   
  周囲を山に囲まれた関の夜明けは遅い。   関は案山子があちこちあることで知られている。
 

 夜の懇親会でおじいちゃん達(森林組合の幹部の皆さん)と話した。とても静かで優しいおじいちゃんだ。彼らは今回の材の提供を歓迎しながらも、大喜びをすることはない。自分たちの次の世代に繋ぐストーリーが何も出来ていないからだ。会長が言った「4人で構成する森林組合幹部が一人でも欠けたら機能しなくなる。それくらい切実なんですよ。何か良い知恵があったら教えて下さい。」と。しかし、「はいわかりました。何とかしましょう!」と言えるほど簡単な問題ではない。そしてこの現実は日本の林業のほんの一握りではなく、実は日本全国共通した深刻な問題なのだ。スギダラをやって日本全国を回り、そういった知識だけはある。自力では無理、森林行政に頭を下げても何も解決出来ない。その現実をどう克服して行くか。企業のCSRもあるかも知れない。しかし一番大事ななことことはその現実を市民がもっと知り、共有することではないだろうか。スギダラの役目はそこが一番大切なのかも知れない。

 持続可能、言葉ではよく使われるが、現実は決して甘くない。一見それを率先しているかのような林業行政も、過去の過ちをもっと率直に認め、その実現に縦割りでない連携を探るべきである。といっても簡単に伝わらないこともわかっている。いずれにしろ今回のプロジェクトを通し、何らかのきっかけ作りを行う必要があると思っている。

 スギダラの皆さん、いずれ姫路安富ツアーを考えています。吉野や杉関始め、そのときはまたぜひぜひ参加して下さい。

 
  森林組合の皆さんと懇親会を終えて。案山子も一体入っています。
   
   帰路、近くだという事もあって兵庫ミロクにお邪魔した。馬路村、宮崎のミロモックル処理の工場は訪ねたが、ここは初めてであった。設立は21年前、無色無毒の加圧注入処理の走りである。馬路ミロクが26年前であったが現在は閉鎖。現在関西、四国、中部の拠点である。素晴らしい環境に加え、隣接した製材工場もあるちょっとした工場団地。製材所は山崎木材といい、そこの専務さんはとてもユニークな方であった。自然環境、人、工場。なかなか面白い。
兵庫県にスギダラ支部をつくりたい…またそんな手間の掛かることを考えている。
   
  兵庫ミロク。   山崎木材。
 
  ミロモックル処理プラント。ここは最大7m。宮崎は12m。
   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo
   
 
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