連載
  スギダラな一生/第51笑 「テキ屋家業」
文/ 若杉浩一
   
 
   
  屋台屋を、結束して、はや一年、いや、たった一年。 鹿沼の「ぶっつけ祭り」で地元の木工会の皆と、もう一度、地元で売れる木工製品を祭りで売ることから始めた。ここまで行きつくのに、何だかんだ、一年かかった、ただただ飲んで仲良くなるだけだったが。 普通、飲むだけで一年保つ訳がない。普通は、あきれ果てるか、仕事にならないから、利益がないなら絆は無くなってしまうのである。 しかし、この鹿沼のメンバーは、そうでなかった。 何を感じたのか、同じ眼差し、同じリズムで向かってくる。 だったら、こっちだって次に行っちゃうよ!! そのノリでここまで、来てしまった。 僕の決心、このリズムを叩き続けること。相手が叩けば音楽は続き、音が重なれば、大きな音になり、積み重ねれば、感動の音楽になる。だから、やめない。 要は、相手がどう出るかだけなのである。 こっちが、リズムを刻むのをやめれば、セッションが終わってしまうからだ。
   
  今年のインテリアライフスタイル展、このチームと新しいメンバーを交え、出ることになった。しかし、時間がない、お金もない。揺らぐメンバー、ズレ始める、お互いの気持ち、相手の音の弱さ、リズムの違いに、バンドが揺れる。 だからって、リズムを刻むのをやめない。 止める時は、一人になってからだ。
   
  そして、展覧会、当日。 みんなの音が重なり、結果、素晴らしい展示ができた。僕も感動した。 寺ちゃん、藤森さん、浅野さん、深田さん、杉浦、貝山、山崎君、そして樽見さん、白石さん、星野さん、田代さん、秋澤さん、細井さん、鹿沼商工会議所の皆さん、芸大の山崎君、貝山君、そして紅一点、皆のアイドルの大森さん、一つ一つの音がバンドになった。 見てくれた、沢山の人の反応に、行政の眼差しも変わった。何かが動き始めた。 オープンの2ヶ月程前だった、デザイナーのデザインに対して、対応ができない、メーカーさんに対しての苛立ち、モチベーションのズレ。プロジェクトに対しての思いのズレがチームに、溜まり始めた。 やがて、このマグマは噴き出してしまう。 こんな役割は、寺ちゃん。放出するのが寺ちゃんの特技。 皆が思ってこと、感じていたことを、スイッチを押す前に出してくれる。 ただし、こっちも、準備出来ていないので、熱いマグマを被ることになる。
   
  寺ちゃんは、何でも一人で出来る、そして高速で、内容が濃くて、実にうまい。 だから、チームでやることが、時には、寺ちゃんのストレスにもなる。おまけに自分の仕事で手一杯で、デザイン以外の余計なことはしたくないのだ。 そんなことは、充分解っている。こんな時こそ、しなやかに、皆で解決する。違う音を織りなして行くことで空いた空間を埋めていくのだ。 こんな中、ドンチャンの中でも、ずっとクールに見ている藤森さん。デザインが、ぶれないし、無理をしない、エネルギーを出すタイミングを知っている。この二人が一つのデザインすることは、実は当たり前のようで、難しい。 お互いの腕前の発揮のしどころ、攻め方が難しい。 複数の人でモノ作るということは、いったん出来たものを壊す勇気が必要だし、魅力を紡ぎ上げるお互いの信頼が必要になる。プロの演奏家と言えど、セッションできるかどうかは別である。僕達は、このセッションをやることにした。ハラハラドキドキ、ストレスはさらに倍増する。おまけに、グラフィックは僕のチームである。切羽詰まっているときに更なる面倒!! 鹿沼とのこと、お互いのこと、様々なストレスが溜まっていた。
   
  「屋台屋というブランドと鹿沼の木工の位置づけがわからない、そもそも、行政も、僕らのことを、タダで使える便利な奴だと思っていませんか?僕は、思いが重ならない相手とは、仕事を出来る気がしないのですよ〜若杉さ〜ん。」
   
  「若杉さ〜ん、若杉さんは、何を目的にこのプロジェクトをやっているんですか!!!解らなくなったんですよ。」
   
  「俺?俺はさ〜、色々プロジェクトをやってきてさ〜、ほんの一握りの人、いや、一人でいい、一人がいれば何かが、起こるんだって、思うんだよね。」
   
  「一人で、エネルギーがどんだけあっても、ずっと続けない限りコトが終わっちまう。だけど、たった一人の、もう一人の燃える男がいる事が、広がりに繋がっている。だから、最初から、皆が大騒ぎなんて、そんなこと〜滅多に起こらない。」
   
  「どちらか、一人がやっていれば、やがて3人になり4人になり広がっていく。 鹿沼にはさ〜、そんな男達が、いるじゃん、何のために?って思えるような熱い人がさ〜。だからさ〜、中途半端な盛り上げが沢山いるより、この人達がいるだけで、確実に未来に繋がっていると思うんだよね。」
   
  「だけど時間がかかるし、お金もかかる、お互いのね〜。」
   
  「今までさ、俺達、一過性のお金と人やオーナーと企業としか付き合わなかった。お金がないと、付き合えなかった。お金が切れると縁が切れる。しかしさ〜デザインが、地域に染み込んで、答えが出るまで随分時間がかかる。その事が解らないし、デザインが出来れば、うまく行くって思ってしまう。地域ってそんなことが原因で随分失敗している。デザインって怪しいって思われてるんだよ。そんなの、本当は成功する訳無いじゃん。」
   
  「可能性ってさ、お金や技術じゃ無いよ、人だよ。鹿沼には、人がいる。技術がある。思いがある。無いのは、デザインと続けること。だから、屋台屋って、事始めだから、本当は何でも良かった!!この事が、伝われば。」
   
  「デザインが大事じゃなくて、デザインが起こした何かが大切だと思う。だからさ〜、やらね〜?一緒に?面倒なことは、引き受けるからさ。」
   
  「デザイナーがやらなかったデザインを、もう一度、デザイナーでやろうよ。」
   
  「僕は、やる!!若杉さん、僕は、自分のモノをつくってもらえるだけで嬉しいし、本当にそうなったら凄いと思うんですよ。最初からそのつもりだったけど、やりましょう!」
   
  「おれも、やる。そして沢山いいものをつくろう!!」
   
  「うん、僕も役に立つかどうか解らんけど、俺はやるよ!!」
   
  こうして、新たな結束が生まれ、展覧会が出来上がっていった。 このメンバーの凄いところ、感覚が敏感で、ズレを放っとかないところ、そして臆せず即座に言いあえる関係にあること、嘘がないところ、信頼出来る相手であること。これは、鹿沼の勇士にも言えることである。 これさえあれば、もともと、腕はピカイチ、志しも高い、うまく行かないはずがないのである。あとは、時間を積み重ねる事さえ出来れば。
   
  最近思うのである、企業や、都市部ではデザインが満ち足りていて、むしろ過多気味でさえある。商業主義に乗って華美なかたちや、類似系が生まれ、デザインを消費していく。その反面、地域は、自分たちの中にある価値や、魅力を形や言葉に出来ない、伝わる事の力を知らない、デザインがないところが沢山ある。デザインの力が必要なのは、本当は地域であり、小さな企業なのだろう。しかし、そこは、大きな投資や、継続した投資も出来ないし、デザインそのものへの出会いがない。 たまに、出会ったとしても、助成金が切れるまでの関係、これでは作り逃げだ。 ここでも、デザインが消費されてしまっている。 作る事が、終わりではないのだ。
   
  本当は、作る前の人づくりが大切で、作った後の、関係づくりがもっと大切だ。それがないと、デザインは根付かない、一過性で終わってしまう。 デザインが根付く事は、人の繋がりが、根付く事と重なっている。 産業や流通が成立し、価値が認められている分野のデザインは、形を作り上げるだけで成立する。しかし価値そのもの編集から、始めなければならない地域では、かなりの時間と腕前が必要になる。まったく矛盾だらけだ。 じゃあ放っとくのか? 先送りにするのか? それって、杉と一緒じゃね〜か。 つまり、今、儲からない事はやらない、面倒くさいことには手を出さない、この我々の心根が悪いのである。 消費のサイクルの侵されてしまって、本当の豊かさを忘れてしまって、矛盾した社会のモデルに浸ってしまっている。本当は我々の心の問題であろう。
   
  スギダラを始めて、何かに気づき、何かをつかんだ感じがした。しかし、やればやる程、会社との関係は遠ざかった、禁断の何かに触れてしまった。 我がチームはバラバラになり、ついに7月をもって、内田洋行から子会社に全員出向になった。残った僅か6人。しかし同じ思いを持った仲間が、他からも集結した。セッションできる18人のチームになった。共に歩んだ仲間が結果、同じ場所に集まった。 「リレーションデザインセンター」と名付けた。 関係性をデザインするチーム。ITのエンジニア、コンテンツのデザイナー、建築インテリア、プロダクトのデザイナー。 会社の精鋭が揃った。
   
  このメンバーの凄いところ、感覚が敏感で、ズレを放っとかないところ、そして臆せず即座に言いあえる関係にあること、嘘がないところ、信頼出来る相手であること。そして、勿論、志しが高く、純粋で、腕が立つ。
   
  負ける気がしない。 デザインが根付くこと、それは、人の繋がりの根付きと重なっている。 企業にも、本当は、未だ未だデザインは根付いていない。 経営の飛び道具だったり、デコレーションだと思われている。 僕は、ずっと企業とデザイナーがともに信頼できる、そして臆せず即座に言いあえる関係にあり、本当の価値や豊かさを創造出来るようになりたいと思ってきた。さあ、そのスタートが始まった。 しかし随分時間が掛かってしまったものだ。 なあ〜に、時間がかかる事は承知のことだ。どんなに掛かろうが、仲間がいる。そして、その仲間が集まり始めた。一緒に、遠くの光を見つめ、進んで行こう!!
   
  奇麗な、お店で奇麗なモノを売るのではなく。 デザインを求めているところへ、何処へでも、尋ねて行こう。 そう「僕らは、デザイン、テキ屋だ」 行くぜ、みんな!!
   
   
新会社に集まった18名の仲間達へ。
   
 
  新生RDC(リレーションデザインセンター)のメンバー
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
『スギダラ家奮闘記』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
『スギダラな一生』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
   
 
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