連載
  スギと文学/その43 『休息』 宮沢賢治「春と修羅」第二集より
文/ 石田紀佳
   
 
 

風はうしろの巨きな杉や
わたくしの黄いろな仕事着のえりを
つぎつぎ狼の牙にして過ぎるけれども
わたくしは白金の百合のやうに
……三本鍬の刃もふるへろ……
ほのかにねむることができる

   
 
 

強い風が吹いている。
それでもほのかにねむる人、
白金の百合のように。

   
 

この詩の百合はテッポウユリのようなシラユリだろうか。

ほのかにねむるって?

ゆれながらも強い。
なにがあってもどこ吹く風、とひとり半眼で黙す。
聖なる百合か?

いっぽう、今はちょうどヤマユリの季節。
秦野では、梅雨の終わり頃から咲く。
蒸し暑くてだるくなった気分に、尊い一撃。
日が暮れてくると、甘く粘った香り。
これではほのかに眠ることもできない。

   
   
   
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/
『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm
『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm
ソトコト「plants and hands 草木と手仕事」は3/5日号が最終回。トリを飾るテーマは「杉」です。
   
 
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