予告 短期連載開始 「千葉県中山間農家のアプローチ『じょうぼ』の分析と考察」
  プロローグ
文/写真 大坪和朗
   
 
 
  スギダラトレーニング
   
  皆さんこんにちは。
会員番号No.761の大坪和朗です。
建築設計事務所を営みながら、時折スギダライベントに参加しています。
   
  今回こちらで短期連載をさせて頂くことになりましたのは、ここ月刊杉で、皆さんが様々な話を、熱く、暑苦しく、そして楽しそうに展開される様子を拝見し、触発され、「私も暑苦しさなら負けていません!」とばかりに手を挙げたわけでございます。
またそれと同時に、10年ほど寝かせていたある事柄について、楽しく書いてみようか、と思うようになった。そんな気持ちの変化が有ったからなのです。
   
  この月間杉という場をお借りして、
もやもやした湿っぽさを、ポジティブな暑苦しさに変換しようという、
私にとっては、ある種トレーニングみたいなものです(笑)。
   
  また、大学院時代にサーベイした中で感じ、まとめたことを、本棚に眠らせておくのではなく、皆さんに見て頂くほうが、何かしらの役に立つのではないかと思ったからなのです。
   
  様々な感想、ご指摘、お待ちしています。
   
 
   
 
   
  伝統と現代・風土と現代をトータルに考える
   
  伝統・風土 と 現代は、
それぞれ別物として考えるのではなく、
トータルに考えることが必要な時代になってきていると感じています。
   
  これは恐らく、
それぞれの時代に、絶えず言われてきたことなのかもしれないのですが、
いよいよ、その時代が訪れている。と言う感覚が私の中には有ります。
   
  個人の感覚は、特に意識しなくても、時代とシンクロするものなのではないかと思います。
ですから、私だけではなく、もしかすると皆さんも感じていることなのではないでしょうか。
   
  風景の豊かさ、そこから感じ取る豊かさとは何でしょう。
行く先々で、どこも同じような、便利な街が広がっていることが豊かさなのではなく、
どこに行っても、それぞれ異なる街・風景が広がっていることが豊かさなのだと私は思います。
だからこそ、旅に出たくなる。
   
  都市には都市の、
郊外には郊外の、
中山間には中山間の、
自然には自然の、
それぞれ異なる良さが有る。
   
  その良さを見つめ直し、それぞれの良さを引き出していく。
そのほうが、楽しいじゃないですか。
それらが全て同じになっては、モッタイナイ。と私は思います。
   
  人間は新しさを求める生き物なのだと思います。
しかし、新しさだけでは、安らげない。
そして、人はルーツの上に立つものだと思います。
自分達の来た道、歴史を再確認し、現在に活かし高めていく。
人間という生き物には、それが必要なのだなあと、個人的に実感しているところです。
   
  新しい物を求めつつも、
歴史・地域性を大事にする思考を、
広く、そして普通に、持てたらいいなと思います。
   
  私がここで観察した事柄は、
小さな、細かいことのように思われるかもしれません。
あるいは、普通のことじゃないかと思われるかもしれません。
   
  しかし、それを分析することによって、見えてくることもあるのではないでしょうか。
といって、偉そうに語りたいのでは、決してありません。
   
  一人の、小さな存在である(当時の)若者が、ここに何かを感じ、着目した。
このことに、何かしらの意味がある。と言えるのではないだろうか、と思うわけなのです。
   
 
   
  アプローチ・構えの風景との関わり
  -千葉県山間農家のアプローチ「じょうぼ」の分析と考察-
   
  ことの始まりは、他の研究室の民家調査に参加した際、
その町に住む人に、周辺を案内してもらったことがきっかけでした。
   
  その方は、無くなりつつある重要文化財級の民家を、
何とか救いたいと大学に調査を依頼してきていたのでした。
一軒の調査の後、他の民家も次々に案内してくれたのですが、
私は、民家そのものの素晴らしさも勿論ですが、それよりも、
民家に至る道筋や、全体の構え、たたずまいの美しさにビックリしたのです。
こんな凄い場所が有るんですか!と、驚きと感動を覚えたのでした。
   
  私が見た風景とは、
民家それぞれが、道路から距離を取って幾分高い位置にあり、
母屋までの道筋がS字を描いていた。
その「アプローチ空間」とでも言える空間に木々が植えられ、
それぞれの家が、見栄え良く演出されていたのです。
さらに、後ろに控える低い山と一体となって、どっしりとした、
風景と一体となった演出がされているように感じたのでした。
   
  私は、そのような構えの民家は、実際にも、写真の中にも、見たことはありませんでした。
   
  なぜ、こんなに趣のある佇まいが連続しているのか、
どんな背景があるのか、どんな思いがあるのか、
それを調べてみたくなったのです。
   
  私が最初に見た、アプローチの一例をご紹介します。
見て下さい、このアプローチの気持ちよいカーブ!
そして場面展開! く〜、にくい!
   
 
  門前の田畑を迂回してS字を描くアプローチ。
 
  右にグッと回り込むアプローチ。道行きを演出する植え込み。
 
  木々の隙間から見え隠れする母屋の美しい屋根。手前の松の皮肌。
 
  手前と奥の遠近感、右から左へと振れる。
 
  右側から木々が覆い被さるアプローチを、更に右へ回り込む。
 
  ド〜ン!! と。
   
  どうです? 盛りあがってきましたか? 私だけですか?
   
  さあ、それでは、これらを前にして、
当時のようにコーフンすることから始めたいと思います。
   
  アプローチから始まり、構え、風景との関わり、庭、間取り、などについて、 歴史的、地理的背景など様々な視点から、分析を行っていきます。
   
  ご期待下さい。
   
   
  (次号へ続く)
   
   
   
   
 

●<おおつぼ・かずろう> 建築家
風景を思うことがライフワークであり仕事でもある。
建築「絶景」事務所とでも言ってみると楽しい。
大坪和朗建築設計事務所HP:http://www.otsubo-archi.com/
Blog:http://otsubo-archi.cocolog-nifty.com/

   
 
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