特集 天草・高浜フィールドワーク2011開催
  高浜の「近い将来」の可能性を拓く 〜みんなで取り組むまちづくりと個人の活力〜
文/写真 宮野圭輔
   
 
  筆者は高浜地区振興会とのまちづくりの活動を業務として行ってきた。これは、まちづくりを目的とする団体の初動期の活動を支援する目的で熊本県から派遣されたものである。その意味では部外者であるが、高浜地区振興会の「一味」として活動しているつもりだ。どんな仕事でも「10年やればプロだ」という人がいるが、僕自身は今の仕事をはじめて11年が経過するけれど、「まちづくり」とかその支援の「プロ」になったかと問われれば、まだまだ発展・成長の余地があることは十分に自覚している。
   
  熊本のような土地でまちづくりを考えるということは、放置すれば地区の存続が危うくなるような場所をテーマにすることが多い。今はまだなんとかやっていけるが、10年後は分からない。近い将来、決定的に悪くなることが見えているから、何か行動を始めるための工程表が欲しい。こうした欲求について、それぞれの土地のみなさんとともに考え共に行動することを重ねながら答え(らしき)を見つけてきた。 だから、いつしか「情が移る」ということが、よくある。
   
  しかしながら、公共事業として行うみんなで行う「まちづくり」は、一般に住民の個人的な利益誘導を避ける傾向にある。その理由はここで触れるまでもないし、その理由も理解できるのだが、個人的にはその姿勢だけでは「近い将来」に間に合わないのではないかとも考えている。人間も高齢化するし、土地固有の産業はそれを上回るスピードでどんどん後継者が失われていく現状にあるからだ。個人個人の活力が失われれば、その総体としてのまちづくりは自動的に減速する。その土地の人々に「情が移る」と「なんとかできないか」という焦燥までついでに移ってくる。だから、公共事業としての「みんな」で取り組むまちづくりとは別の、僕が業務としてやっている範囲とは別の領域で、何かできないかと考えている。
   
  この夏の藤原惠洋先生によるフィールドワークの特色は、若い学生に加えて多くのデザイナーや企業人が参加したことである。特に、高浜にある陶石や木材、高浜の歴史や風景に着想を得て新しい商品を考えてみるという行為は、わずか3日間の取組とはいえ、そこに外部の新鮮な視線やプロの鋭い分析が加わることで、地元からの参加者それぞれがいきいきとした発想を得ることができた。恐らくは地元の人間とその一味だけでは到達できなかった発想だし、参加した地元の何人かは、高浜で生きていくことに強い希望を抱いた人もあった。これは高浜をよくしたいという志を同じくする人間同士が、短時間でも濃密なやり取りをすることによって生まれた効果だと思う。これまでは接点の無かった人とのつながりがもたらす可能性は(いつでも誰にでもあるというものではないが)、然るべき人々同士の出会いであればとても大きいと思う。藤原先生が高浜に連れてきて下さった面々は、そうした意味で「近い将来」に大きな可能性を残してくれたし、心ある人間同士のつながりを生むことの必要性や面白さを教えてくれた。
   
  一方で、僕が個人としてできる方法を思いつき、やってみた。 幸いなことに、僕には今回の舞台である高浜に限らず、県内を中心にあちこちに「情が移った」人々とのお付き合いが続いている。それらの人々の中からモノを造っている人や特殊な技のある人に声を掛けて、その人の商売の中から結婚披露宴の引出物になりそうなもの※1を自己推薦してもらい取材を行った。それら取りまとめて僕自身の結婚披露宴で引出物カタログ「肥後尽くし」として配布したのだが、陶磁器のような定番もあれば、木工芸や鍛冶工房やガラス工房の工芸作品、お菓子やハムなどの食品、飲食店のお食事券や旅館の素泊まり券、フラメンコ教室の体験券など多岐に渡り、合計47人が登場し120品目を超える商品を掲載することになった。高浜からも4人が登場するが、12個の商品が選ばれ、42000円の経済効果!をもたらした。
   
  堅い話をすれば、地方で昔ながらの商売(製造業や飲食業など)をやっている人々に共通する悩みは新規の顧客との接点が少ないことである。店舗や工場、材料の入手などその土地に根を張って生業が成立している人は、そのお得意さんも大部分はその周辺に在るが、人口減少や流出が続き、お得意さんの数が減れば生業が成立しなくなる。では、新規のお客さんの居る場所(例えば都市部)に移動すればいいとなるが、根ざしてきた土地から切り離されてしまえば本来の魅力は大幅に減じてしまう。ならば、現在地に留まってインターネットや、通信販売があるではないかという考えもあるだろうが、それに対応できる人、あるいはそれに可能性を感じる人は少なく、細々と生業を限界まで維持して行くしか無い、と考えてしまうのも無理はない。結果として地方の活力は知らず知らずのうちに人間単位で失われていくのである。僕は、少なくとも、関わりのある範囲の人々だけでも、大げさに言えば「近い将来」に希望を感じる光のようなもの、具体的に言えば新規の顧客候補との接点を生み出す手伝いができないか、と考えたのである。
   
  この試みは、新郎新婦には負担が生じるが、それを生産者と顧客候補の仲介役として楽しむことができれば、結構面白いものであった。披露宴の招待客からは、こんな引出物カタログは初めてで欲しいものばかりで選ぶのに苦労したとか、知らなかった熊本の魅力を再発見したとか、空港の売店では買えない魅力的な商品があって感激したとか、カタログ全体が熊本の豊かさを表現している、などと好意的な反応を頂いた。中には、カタログ掲載の店にお中元の発送を注文した人もいるし、選びきれなかった人は引出物以外にも追加注文※2する人もあった。その意味では、生産者と顧客を結ぶきっかけづくりの試みはささやかな成功を収めた。
   
  一方で、掲載されている人々の反応も愉快なものであった。カタログでは新郎新婦が知っている生産者や職人として紹介されるので、宣伝効果が高いというのである。確かに、いわゆる宣伝広告とは違って、直接知る人が自分のことを紹介してくれるので、お客さんとの距離が近くビジネスチャンスに繋がり易いらしい。加えて、引出物とはもらうものであるため、選ぶ側にも普段は買わないものにチャレンジしてみよう、もらえるなら選んでみようという心理が働き、新規のお客さんからの注文が入るチャンスになった。そうした意味では、引出物の原価を高めに(3000〜3500円とした)設定したため、そこそこに良いもの(自分の製品・仕事の魅力の本質的な部分を紹介できる程度)を提供できるのも宣伝効果として期待できる点であったという。
   
  予想外であったのは、掲載された人の間でもつながりが生まれたことである。掲載された民宿は、念願のオリジナルアイス製造先を見つけたし、ある菓子職人は「このカタログに載っている人は、故郷で頑張っていこうという同志のような気がすっとですよ。こんな人達がおるなら心強かとね」と嬉しい感想を寄せてくれた。カタログに出てくる店に興味を持って巡ることを始めた人もいる。その土地に根差して生きていくことの抱える心細い部分を補強することができたのであれば、多少の恩返しができたのかも知れない。
   
  漠然と人と人をつなぐのではなく、然るべき出会い、あるいは志を同じくする人と人の接点を仕掛ける。そこに生まれる化学反応から活力を引き出す。ひょっとしたら、昔は企画力のある問屋さんが都市部においてそうした役割をしていたのかも知れない。そして、そうした能力は今も必要とされているのだろうと思うが、誰がそれを担うのか。 僕には藤原先生のように見事なフィールドワークを仕掛けることは到底無理であるが、公共のまちづくりに業務として取り組みながら、一方で、(情が移ってしまうような)心ある人々との付き合いを蓄積し、緩やかに繋げて、個人個人に利益を生み出す形をとりながら人間単位で活力を生み出すことができないかと思う。後者は、誰から依頼されるわけではないから自作自演になるけれど、前者と両輪を成して熊本の未来を確かなものにしていきたい。
   
  こんな話を高浜でしていたら、スギダラケ倶楽部の会員になることになりました。 僕自身も、志を同じくする方々との出会いを楽しみにしています。 よろしくお願いいたします。 読者の方々の中で、「私もカタログ造りたい!」※3という人はご一報ください。そんなに難しい作業ではないから、みんなで取組んで結婚式の引き出物を楽しいものにしていきましょう。
   
 

※1引出物になりそうなもの
3000〜3500円程度の商品で、再生産できるもの、自分の商売の特徴があるもの

   
 

※2追加注文
引出物の「おかわり」を可能とし、実費でお取り寄せ可能とした

   
 

※3カタログ造りたい!
ある自治体では、若手職員の自主研修として地元を紹介する引出物カタログの作成にチャレンジするそうです。あるお寺の住職は、法事用にカタログを造ると言っています。
自分の親しい人を紹介するのは結構楽しいものです。

   
 
   
 
   
 
   
   
   
   
  ●<みやの・けいすけ> 株式会社 高木冨士川計画事務所  http://www.h3.dion.ne.jp/~tfa/
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved