連載
  スギと文学/その29 『栗鼠と色鉛筆』 春と修羅 宮澤賢治より 1922〜23年
文/写真 石田紀佳
 
ちょうど秋の景色。東北のあざやかな季節、杉も黒々といっそう鋭く。
以下全文。
   
 
   
  『栗鼠と色鉛筆』
   
  樺の向ふで日はけむる
つめたい露でレールはすべる
靴革の料理のためにレールはすべる
朝のレールを栗鼠は横切る
横切るとしてたちどまる
尾はder Herbest
  日はまっしろにけむりだし
栗鼠は走りだす
  水そばの苹果緑と石竹  
たれか三角やまの草を刈った
ずゐぶんうまくきれいに刈った
緑いろのサラアブレッド
  日は白金をくすぼらし
  一れつ黒い杉の槍
その早池峰と薬師岳との雲環は
古い壁画のきららから
再生してきて浮き出したのだ
  色鉛筆がほしいって
  ステツドラアのみぢかいペンか
  ステツドラアならいいんだが
  来月にしてもらひたいな
  まああの山の上の雲との模様を見ろ
  よく熟してゐてうまいから
   
 
   
  朝露にぬれた小道がレールのようにきらきらしているのかもしれない。
栗鼠(リス)のすばやさ、ちょこまかとした動き。しっぽが秋だなんて。ススキの穂?
ルビがうってあってなおあざやか。水そばのアップルグリンとピンク。
ステッドラーの色鉛筆で描きたい気持ち。でも描く前に、今なら写真に撮る前に、この風景をしっかり食べる。ああ、食べたいなあ、おしいしいだろうな。
   
   
   
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/
『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm
『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm
ソトコト(エスケープルートという2色刷りページ内)「plants and hands 草木と手仕事」連載中
   
 
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