特集 吉野
  吉野林業体感ツアー&にっぽんの木の文化を語るフォーラム2009in吉野 レポート
文/写真  水木千代美
  DESIGN for The Forestry of YOSHINO 2009
 
はじめに…
   
  今回の企画は、国産材の利用に携わっている大阪の建築士、デザイナーなどが吉野の製材所の後継者の方たちが、今の林業に危機感を持っている状況を知り、山と街をつなぐことで新しい方向性が見えてくるのではないか?
吉野というブランド名を持つ山地が行うことで、日本の林業に幾ばくかの貢献ができるのではないか?との思いで、吉野林業に携わる若手後継者と共に企画、主催したものです。
   
  国産材の現状は、国内住宅での国産材の利用率はおよそ20%弱です。日本の国土の約67%が森林という日本で、また、様々な資源を輸入に頼っている日本でこの豊富な森林資源を生かしきれていない“もったいない”現状が起きています。低炭素社会を目指している中、森林はCO2を吸収してくれるという点でも貴重な資源ですが、人間と一緒で働き盛り=CO2をより効率よく固定できる樹齢は決まっているので、木を使い、森を活性化していくことは林業に携わる人だけでなく、日本に住む人皆の問題でもあるのです。価格面では吉野の場合、ヘリコプター搬出の費用は杉の立米あたり約2万。販売価格が同じく立米2万。出せば出すほど赤字になるという現状です。これらの問題を解決していくには様々な問題が複雑に絡み合って一筋縄ではいかないのが現状ではありますが、一つずつでも解決していくことが、次世代によりよい環境を引き継ぐことが、今を生きる大人の責任だと思い取り組んでいきたいと思っています。
   
  とは言え、林業が!環境が!と言われても、ピンと来ないのが一般の人々だと思うのです。また無理に押し付けても本当の意味では伝わっていかないのではと思っています。
私たち街の有志ができることは、一般の方にすんなりと伝わるような“共通語”を提案することだと思うのです。
“日本の木っていいな”、“山っていいな”のように身近に思ってもらえることを考えること、山と街をつなぐ楽しい仕組みを作ること、だと思うのです。
   
  ということで、今回のフォーラムin吉野は地元吉野の方たちには、国産材をツールとして行われている様々な情報の提供をし、広い視野で吉野を見つめ直すきっかけに、参加していただく方には林業が生活に身近に関係しているものだということを知っていただき、仕事や生活を通じて国産材の活用法などを提案していただくことを目的とし企画しました。
   
 
   
  プログラム内容
   
  ●11月14日11:00〜 山林見学
  川上村大滝、清光林業さんの山林にて見学、取締役副社長の岡橋清隆さんの説明を聞きました。
吉野林業は密埴によって目の詰まった、淡紅色の良材を生産してきましたが、伐っても儲からない現状で密埴育林危機を迎えていることを学びました。ヘリコプター搬出に頼らず林道の設置などの取り組みも行い搬出費用の削減などの努力もお伺いしました。
 
  整備された山に入ります。まっすぐに育った木に囲まれると、厳かな身の引き締まる気持ちになります。岡橋さんが次にこの山に入って伐るのは100年後と言われたときには、拙速に結果を追い求める現代社会とのギャップを感じました。
   
  ●11月14日13:30〜 製材所見学
  吉野中央木材の製材所にて製材の実演を見せていただきました。伐採された木が、製品に変わっていく過程を見せてもらいました。杉の優しい香りに包まれると木の命を感じます。
 
  吉野中央木材の石橋専務から製材の説明を受けました。身近に見る杉材はとっても迫力があります。存在感、香り、ぜひ皆さん に知っていただきたいと思いました。
   
  ●11月14日14:30〜17:00 フォーラム
  南雲勝志さん、千代田健一さんによる講演。全国で行っている杉を題材としたイベントの報告やデザインに生かした実例報告をしていただきました。
 
  南雲さんと千代田さん。プロジェクターを使って、わかりやすい講演をしていただけました。杉、国産材に限ったことではなく、プロジェクトを起こすときの姿勢を学べたと思います。皆さん自分に置き換えて聞いていたのではないでしょうか。
   
  ●11月14日14:30〜17:00 パネルディスカッション
  パネルディスカッションは、講師のお二人に加えて、東京大学准教授の羽藤氏、宮崎県日南市産業経済部の河野氏、地元吉野の後継者若手8人で行いました。
講師サイドからは、人と人とのネットワークの大切さ、次世代(コドモ)を含めて取りこむ意義、など「仕組み」を作るヒントがたくさんいただけました。吉野の若手チームからは現状の迷いや悩み、これからの意気込みなどさまざまな意見がでました。講師陣の真摯な意見、地元の若手の方の正直な意見に会場の参加者も聞き入っていました。吉野町長からも「こんなに若い方が吉野に戻ってきてくれていたことを知って驚き嬉しかった。国産材をテーマのフォーラムでこんなに明るいフォーラムは初めてだった」との意見が。
吉野自身が杉の良さを伝えられる町にという提案に、「吉野町をスギダラケに!」と木の柱に調印(?)
していただきました。
 
  緊張します…と、若手チーム。町長と同じ壇上で話したこのフォーラムが吉野林業を立て直していくきっかけになると思います。
 
  街の参加者と地元の若手とで記念撮影。中央は町長、右隣は町議の中井さん。
   
 
   
  まとめ
  参加していただいた方からは、とても有意義な時間が持てたとの感想を多数いただきました。
日本人にはまだまだ自分のことだけでなく、世の中のこと、次世代のことまで思いを馳せることができる人が数多くいると嬉しく思いました。
後はこのフォーラム、感想を受けて吉野の若手の方々が厳しい現状につぶされることなく、ひとつひとつ前向きに取り組んでいけるかだと思います。「千里の道も一歩から」ということわざがあるように、これからの日本経済においては濡れ手に粟のようなことはもう興らない、その中で遠い将来を見据えてどこまで頑張れるかだと思います。山の方たちだけにその仕事を押し付けるのではなく、その一歩が一番の近道になるよう、街の私たちにできることは何かを考えて行きたいと思います。
   
 
   
  番外編 懇親会と吉野散策
  当日の夜、宿泊先の旅館「歌藤」の主人歌藤健太郎さんがこの取り組みに対して共感していただき、懇親会会場として別棟をお貸しいただき、食事会を兼ねた懇親会のあと2次会が行われました。地元の若者と講師をはじめ、町議の中井さんも参加、熱く深夜まで語り合っていました。
   
  翌日は普段は公開していない、「白雲荘」を見学させていただきました。こちらは財団法人吉野山保勝会が所有しているお茶室を有する日本建築です。今回の取り組みに賛同していただき、特別に使わせていただき、梅本佳代さんによるお茶会も開催していただきました。
   
  ●食事+懇親会
自己紹介もあり、連帯感が生まれました。最後は町議の中井さんの締めで。
 
   
  ●深夜まで続く交流会
結構真面目に語り合ってました。締めは若手代表石橋さん。朝まで語り合っていたツワモノも…
 
   
  ●「歌藤」さんの朝食
地元野菜を使ったお料理はほんとに美味しい!!!若いご主人が地元野菜の保存活用の活動をされています。分野は違ってもこれからを担う方々の熱い思いが感じられました。
 
   
  ●白雲荘での様子
外部からの人をもてなすという心意気、建物を含め吉野の財産の懐の深さを感じました。山だけでなく様々な方との連携で前向きな取り組みができるのではと思いました。
 
   
   
   
   
 

●<みずき・ちよみ>
「NPO法人まどり」で、国産材を使った住まいづくり、セミナーの開催を行っています。
ここ数年は環境・福祉・教育をつなぐ活動も。
NPO法人まどり http://npo-madori.com/

   
 
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