連載
  杉で仕掛ける/第25回 「情報の仕掛け」
文/ 海野洋光
   
 
杉コレクションが終わって、少々、物足らなさを感じている方がいれば、それはもう、脳みそが年輪化しているスギダラ症候群でしょう。困ったことに「史上最大の杉大作戦」と銘打って行われた大イベントも終わってしまえば、次のことを仕込み始めている自分がいます。今月号の多くは、杉コレの特集だろうから、海杉は、自分の視点で杉コレを書いてみたい。
   
  「やまんかん祭り+杉コレクション」事業は、平成19年から始まった。しかし、杉コレクション自体は、平成15年に西都木青会の「トンカチコンテスト」からのスタートだと木青会にメンバーには、話している。それは、杉コレクションが木青会から生まれたという誇りでもある。西都から日向へ県大会を引き継ぐことになり、日向木の芽会でも多くを議論した。多くのメンバーは「県民対象のトンカチコンテストから全国規模のデザインコンペに…」は、どうしてもギャップがありすぎるとのことだった。
掘り下げて理由を問うと県民に広く宮崎県産材の良さを知ってもらうことが目的で全国に発信しても意味が無いということだった。なるほど、理屈は筋が通っている。地元の人が地場材の良さを知らなければ、需要は拡大しないのだ。海杉は、しかし、もっと詳しく分析をして欲しいと訴えた。宮崎県産材の消費は、40%強は、宮崎県で消費している。残りが県外だが、そのほとんどが九州で消費されるのだ。遠方の消費地は、関西までで、関東には数%あるだろうか?知らないでも県民は地場の杉材を十分消費しているのだ。いや、知って知り尽くしているから、この数値が出る。欲張りな木の芽会のメンバーは「いや、もっと県民に使ってもらわないと…」とどうしても同様のトンカチコンテストをやりたいらしい。日本一の杉素材生産量の半分近い消費をしている県民に新しい杉の使い方を提案するためにコンペ形式でイベントを打つと言うコンセプトで大方の概要が決まった。
   
  平成16年の日向での杉コレクションが終了して、来年は宮崎市で行うと決めた時も「なぜ?日向木の芽会が継続して行わないのか?」という議論が起きた。ありがたい話ではあるが、基本の宮崎県木青会の大会は持ち回りである。この意味をメンバーにも協力者にも知ってもらうことの重要性を認識した。「ノウハウの伝達」と「キャリアアップ」が杉コレクションの目的だと多くの人に時間を掛けて話した。また、そもそも論に戻ると県大会など意味が無いから会員の負担になるから、「中止にしてしまおう」「隔年にして軽減しよう」「大会を運営できる大きな会団にやってもらおう」といつまでも堂々巡りの議論をしていた。大会の意義を多くのメンバーが見出せないで大会の運営だけを考えてしまい「やめよう」と言う意見が出てしまう。しかし、平成17年の運営では、宮崎木青会のメンバーは、環境イベントと合体させ、地域を巻き込んで開催場所も演出効果を生み出すイベントとして見事に大成功を収めた。それともうひとつ。東京の居酒屋で南雲さんたちと決めた「作品を主催者が製作する」という無謀なコンペにしたのもこの大会からだ。杉コレクションの骨格はこの宮崎大会で確立した。この居酒屋で海杉は、「製作するにしても資金がない」と弱音を吐いた。すると(株)内田洋行の若杉さんが「何とかしますよ」と言ってくれたのが、実は、この杉コレクション自体が継続できた本当のポイントだったと海杉は思っている。あの一言は忘れられない。
   
  運営スタッフの質の高いモチベーションと明確なコンセプトがあれば、イベントは成功する。そこに資金が投入されれば、鬼に金棒だ。運営スタッフを影から支えるアドバイザーは、審査委員長をはじめとする日本のデザイン界や木材界を代表する人たちが揃っている。これで成功しなければ、何が成功するのだろう。
   
  角言う海杉も多くをこの杉コレクションで学んだ。イベントを運営するには…。作品を良く見せるには…。資金の調達方法。会議の進め方や他団体との連携方法などなど。特に今年の日南大会で杉コレクションが一番育ったなあと感じたのは、「PR」だった。たかがPRされどPRだ。宮崎日日新聞に杉関係の記事が毎日、連日のように掲載され、JR九州の観光特急「海幸・山幸」や日南市役所飫肥杉課の相乗効果でしょうか?今でも杉関連の記事は、大いに沸いています。また、テレビの効果は絶大で、杉コレクションややまんかん祭りが放映され、また、県民の多くがこのイベントの存在を知ることでしょう。
   
  そこで今回は、杉で仕掛けるらしく、海杉流の情報の仕掛けについて話をしましょう。
   
  情報を発信するだけではダメです。林業・木材業界の方は、「木材の良いイメージ」をPRしていますが、伝えた方にきちんと伝わっているかという疑問が残ります。例えば「宮崎県が杉素材生産量日本一」という情報があります。この情報を発信するだけでは、上手く伝わらないのです。
   
  なぜでしょう?
   
  「木材の良いイメージ」や「宮崎県が杉の素材生産量日本一」では、伝えたい人が誰なのか明確に決まっていません。情報の発信者がその情報に価値を見出せないからです。情報は、池の中に石を入れた時の波紋のように投げ入れてしまえばと思えますが、意外と波紋は広がらないものです。それは、発信して情報を受けた人が次の人へ情報を届けないためです。情報の発信が波紋のように広がりを見せるのは、情報を伝えた人にその情報を次の人にも伝えることでメリットが生じると理解した時に情報が波紋のような広がりをみせます。
そのほかにも情報を伝えようと行動を起こす場合があります。それは、その情報に感動した時や不安に思った時です。情報が独りで動き出すのは、このような場合だけなのです。
この波紋のような情報の伝播を確実に行いたいと考えるなら、ミッションを持った方に伝えることが早道です。ところが、ミッションを持った方に情報を流しても広がらない場合が有ります。それは、その情報に関係ある部署の担当する行政の方です。しかし、いくら情報を流しても担当者は、把握するだけです。それ以上の広がりはありません。でも、情報を整理整頓してもらうためには、はじめに情報を伝えることが大切です。
情報を伝播してもらいと考えるならマスコミが一番でしょう。この伝達方法にもルールがあります。それは、公平に情報を流すということです。海杉は、このルールがもっとも大切だと思っています。流してもらいたい情報を受け取ってもらうためにはさまざまな工夫をしますが、もっとも大切なことは、社会的に意義のあることなのかということに尽きると思います。マスコミは、公共の器です。何を情報として視聴者や読者に伝えなければならないかを基準に情報を選択するのです。マスコミのミッションは「社会的に意義のある情報を伝える」なのです。これらのことは、「プレスリリース」と呼ばれることで難しいことでも特殊なことでもありません。
スギダラ的な情報の仕掛けは、とにかく、「感動させること」です。スタッフだろうが、観客だろうが、誰でも良いのです。不思議なことに杉を触らせるだけで感動してしまいます。
   
  感動した人は、どんな行動をすると思いますか?
   
  間違いなく、「自分もしたい」と言い出すのです。杉コレクションは、情報の伝達方法をイベントに代えたスタイルをしています。でも基本は同じです。伝えたい情報をイベントに置き換えて表現しています。自分たちのできそうなイベントが、杉コレクションややまんかん祭りの中にいくつも潜ませています。宝探しの要領ですね。杉コレややまんかん祭りを見て「このくらいなら、できるかも?」と思わせれば、情報の伝達は大成功です。楽しむためのイベントが自分で作り出すイベントになり、出来上がったイベントが大成功を収めるともう病みつきになるのです。
   
  全国に杉ダラケなイベントが広がるのは、杉に対する想いと同じくらい自分の表現方法を多くの仲間がサポートしてくれるところに意義があります。きっかけは「杉」で十分です。
   
 
  杉コレ最終プレゼンの様子。プレゼンする作者、木青連の製作者、審査員、司会者、メディア、観客で大いに盛り上がる。
 
  PRも重要な仕掛け
   
 
   
  特集 日南飫肥杉大作戦にちなんで、おまけ
 
  杉コレ最終審査の前日深夜、連日、各所で奔走した海杉さんを激写。本当にお疲れさまです。
海杉さん、写真掲載お許しください。(月刊杉編集部)
   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ>木材コンシェルジュ
ほぼ、毎日更新しています。ブログ「海杉 木材コンシェルジュ」 http://blog.goo.ne.jp/umisugi/
2009年3月31日をもって、日向木の芽会 を卒業しました。
海野建設株式会社 代表取締役 / HN :海杉
   
 
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