連載
  続・つれづれ杉話 (隔月刊) 第9回 「一緒の方がさびしい、という話」
文/写真 長町美和子
  杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
今月の一枚
  ※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。
  今年も奥まで陽射しが入る季節になりました。
「あー腹があったかい」とつぶやく鱈三です。
君たちのツメのおかげで床が傷だらけだよ……。
   
 
  日向ぼっこ
   
 
   
  一緒の方がさびしい、という話
   
 

2世帯住宅のあり方についてウームとうなるような話を聞いた。いや読んだ。新聞の家庭欄への投稿記事で。

投稿者はたしか50代の主婦で、最近父親が亡くなって1人暮らしをしていた母が兄夫婦と同居を始めたのだが……という書き出し。

同居にあたり、両親の家(つまり彼女の実家)を2世帯住宅にして、1階にお母さんが、2階に兄夫婦と2人の子供が暮らすことにしたそうだ。お互いの距離感を大事にして、同じ屋根の下だけど玄関も別、キッチンもお風呂もすべて別につくり、干渉しない自由な暮らしをしましょう、と双方納得の上でリフォームをしたという。

ところが、最初のうちは同居を喜んでいたお母さんから毎日のように「さびしい」と電話が来るようになった。そのうち、以前患ったことがある鬱病が再発し、入院することになってしまった。住み慣れた自分の家で、兄夫婦もいっしょで、何がさびしいのか理解できなかったという彼女だったが、病院に届ける着替えを取りに母親の家に行った際、夕飯時になって上階から漏れ聞こえてくるにぎやかな子供たちの声を聞いて、「干渉し合わない同居」のしめつけられるような寂しさがやっと理解できた、というのだ。

なんだかショックだった。これまで取材でいろんな二世帯住宅を見てきたし、編集者側としても建築家と相談しながら数々のプランを提案してきた。嫁姑の関係は家によってさまざまだ。でも毎日の食事から風呂、洗濯機までぜんぶ一緒、というのは嫁にとってかなりつらい。だからたいていの場合、親世帯と子世帯が住み分けられるようにしておいて、「吹き抜けで互いの気配だけは伝わるように」とか、「メインダイニングの他に若夫婦専用のキッチン&ダイニングを別につくって」とか、「階段を行き来する時に顔を合わせる機会が持てるように」とか、苦肉の策を講じるわけだ。

しかし、実際取材に行ってみると、親世帯はかなり我慢を強いられている場合が多い。足腰が弱いのを理由に日当たりの悪い1階に押しやられていたり、両親が健在の場合はともかく片親のみの同居だと親のスペースは寝室+ミニキッチンだけになってしまったり、撮影の途中で「2階の嫁は旅行に出かける時にも声をかけてくれない」とおばあちゃんからグチを聞かされることもある。雑誌で素敵に見える二世帯住宅の多くは、明るく広々とした気持ちいい子世帯の写真ばかりが大きく掲載されているだけなのだ。

新聞の投稿者は、声と気配だけが伝わる同居はあまりにもむごい、いっそのこと別々に住んでいる方がまだいい、と締めくくっている。たしかにねぇ、と言ってしまえばそれまでだが、建築的デザイン的に2世帯の距離感を解決する、というのはやっぱり無理な話なのだろうか。「感覚的につながる」とか「気配が伝わる」なんて、なんてなんて上っ面だけのきれいごとだったんだろう! 鬱病になってしまったお母さん、ごめんなさい。なんだかとても責任を感じてしまう。

老人施設と幼稚園を同居させるとか、大学の中に老人ホームをつくるとか、血縁関係のない若者と老人、それも団体同士をつなげる方法は建築的にいろいろ模索されているけれど、都会の小さな家の中で、実の親子をつなぐうまい方法がなかなか見つからないのはどうしたらいいのか。同居を求めるのが間違っているのか、できる限り最後まで独立して暮らせるよう気力体力を養うしかないのか、そんなこと書いてるオマエはどちらかの親が倒れたらどうするつもりなのか。近々確実に訪れるであろうその日を思いながら、でも、昼夜を問わず「パソコンが動かなくなっちゃった」「ファイルが見つからない」「横に印刷するにはどうしたらいいの」と電話してくる母の声を聞きながら、まだ大丈夫、と問題から逃げている私である。

   
   
   
   
  ●<ながまち・みわこ> ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり。
著書に 『鯨尺の法則』 『欲しかったモノ』 『天の虫 天の糸』(いずれもラトルズ刊)がある。
恥ずかしながら、ブログをはじめてみました。http://tarazou-zakuro.seesaa.net/
   
 
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