連載
 

東京の杉を考える/第38話 「スキマイチの成りゆき」 

文/ 萩原 修
  あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 

なぜか神保町で「スキマイチ」というイベントをやることになった。2009年の10月30日〜11月8日の10日間。六本木や青山では、デザインイベントで華やかな時期に、それとは関係ない地味な場所でゆるいイベントだ。「神保町スキマイチ」は、どこにもデザインイベントとは書いていなけれど、多くのデザイナーが参加している。正確には数えてないけど、10のプロジェクトで、たぶん100人以上が参加しているのではないかと思う。

会場は、「平安工房」。神保町の交差点から少し奥まったところにある家具店。元製本所だった建物は、古く味わいがあり、床は傾き、木の建具からスキマ風も入る。奥行きのある空間は、うなぎの寝床という言葉が似合う。外村祥一さんという人がひとりで切り盛りしている。一般の人を対象に、きめ細かく要望に対応し、適切な工場で家具をつくってくれる。デザインに優れた日本の木の家具を選び、紹介する目も確かだ。

そんな外村さんと平安工房に出会い、いろいろ話をする中で、「スキマイチ」は生まれた。神保町と国立。家具店と文具店。という違いはあるけど、独立して5年であること。親の屋号を継ぎながら、独自の展開を試みていることなど、共通点も多いことがわかってきた。そして、ふたりは、何よりも「デザインが主張しすぎることなく、モノが暮らしに溶け込んでいる」ことをめざしている。

普段は、ひっそりとした空間に、「つくし文具店」のオリジナル文具と、「平安工房」の家具も含めて10のプロジェクトを並べてみたいと思った。「未来本」「かみの工作所」「てぬコレ」「かみみの」「こぐ」「そうじるし」「mother tool」「be-ing」の商品が、天井からつり下げられた細長い足場板にのっている。浮遊感のある不思議な空間にまとめてくれたのは、建築家の寺田尚樹さん。グラフィックは、三星安澄さんにお願いし、ゆるいながらもインパクトのあるチラシがレトロ印刷でできた。

10のプロジェクトは、世の中のメジャーからすれば、ほんのスキマにすぎない。大手企業は、けっして手がけないようなプロダクトだ。むやみに、たくさん売れることだけをめざさない。適正な量を本当に欲しい人が使ってくれること。そして、つくる人が満足するモノをつくり、適切な利益を得る。関わった人すべてが幸せになれる、そんな循環するあたりまえのモノづくりは、できないのだろうか。

独立してから立ち上げたプロジェクトを一堂に集めてみると、自分がやりたかったことが少しだけ明解になってきた。そして、これから何をしなければならないかも。道のりは遠いけど、あきらめずに一歩ずつ進んでいけたらうれしい。
「スギダラトーキョー」ももちろんスキマなプロジェクト。つくづく、社会のスキマが好きなんだと思う。

   
 
   
 

スキマイチ ブログ
http://sukimaichi.exblog.jp/

   
   
   
   
  ●<はぎわら・しゅう>デザインディレクター。つくし文具店店主。
1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。
大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEを経て、2004年独立。日用品、店、展覧会、書籍などの企画、プロデュースをてがける。著書に「9坪の家」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。
http://www.tsu-ku-shi.net/
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved