特集 はだの間伐材活用デザインコンテスト 
  審査統括
文/写真 南雲勝志+若杉浩一
 

里山部門の審査は難航した。力作が多いこと、価値観を変えるといずれもそれぞれの良さがあり、審査時間を超えた議論になった。
最終的には森林生産者自身が里山の風景を守り、伝える事が出来るかどうかを重要視した。つまり、デザインの良さはもちろん大事であるが、地場に豊富にある間伐素材を生かしながら、地元及びそれを支える人々が、希望をもって将来継続的に持続できるものであるかどうかが大きなポイントであった。
間伐材のコンテストに何度か関わってきたが、秦野に初めて訪れたときに感じた事は、表丹沢という言葉から伝わるように、日当たりが良く気候もいい。日本の山村の多くに共通して感じる疲弊感や暗さがない。(実際は問題もいろいろあるだろうが。)森林に携わる人々、それを支援する多くのボランティアの方々も元気でやる気がある。そんな第一印象は今も変わらない。一次、二次を通し審査そのものも同様の雰囲気が漂っていた。地元の皆さんのその ”元気さ”を前向きに捉える事が重要で、「秦野という地域で、地場の特性を生かし、力を合わせながら気持ちよく頑張っていく事が出来、かつデザイン的にも優れたもの」ということが、今回のコンテストに一番求められるものではないだろうか。

里山部門の最優秀賞の二点、 [里山デザイン部門]『竹ちぐら』と [里山活用部門]『街を見下ろす丘で』は、杉と竹の違いはあるが、上記の観点に於いてどちらも、地場の素材を十分使い、製作にあたっては一部の人だけではなく、協働することで賛同者を増やす。かつ技術の蓄積にもなる。また何より秦野の里山に相応しい風景をつくる可能性が評価された。
ただし、いずれもコンテストで製作したものを"そのまま"実施していくだけではなく、いくつかの条件及び提案が出されたので希望を込めて付記しておく。

『竹ちぐら』は、地元には竹と泥の組合せの工法はもっと簡易な方法もあるとの事。また快適性を確保する上で、泥で覆う量を減らす、さらにシェルターとしての機能を高めるため、屋根は別途、半割した竹で覆っては等の意見が出された。最終的には地元と十分協議した上で、より秦野にとって必然性のあるものに育てていってもらいたい。

『街を見下ろす丘で』では、設置候補場所が多くあり、間伐材も多量に使用出来る。いってみればデザインは無限に有り、場所の特性や広さに応じた秦野の風景づくりが出来るとも言える。そのためデザインの展開方法、そして作りやすさや防腐性能を含めたさらなる検討を期待したい。また、間伐材を多く利用するということは、逆にマイナスイメージをつくる危険性もある。そうならないよう、地元、ボランティア協働で可能な範囲での定期的なメンテナンス、そしてある程度寿命が来た場合は交換する、といった里山サイクルシステムをつくっていって欲しい。

優秀賞 [記念品部門]ジャムベラは、コスト条件も決まっている中で、その対応やデザインのクオリティーの高さ、現地の農業生産者、及び農協との連携も考えており、記念品としてのみならず、総合的な地場商品としての魅力を持ち備えており、ほぼ満場一致で決定した。
これから期待することは、植樹祭で配布するだけでなく、オリジナリティーがあり、地場に根ざした息の長い商品開発という視点で取り組んで欲しい。

優秀賞 [小中学校部門]の『木のはちかざり』は一次、二次審査を通し、小学生ながらも自然への優しい考察とその表現力、また現物製作のクオリティーの高さが評価された。

特別賞の「Bamboo Wind Cage」は、製作が非常に容易であるため、イベント時や里山のアプローチなどに簡単に設置できること、秦野の風景に溶け込みながら、竹と風が織りなす音を奏でる発想が評価された。残念ながら音が聞けなかったが、子供、大人を含めつくる楽しさを共有することも出来る。

「マルタフェンス」は、技術的な課題があるものの、丸太をタイル状に扱い、パネルにする技術的な解決がうまくいけば、屋外屋内関わらず、多くの場所で展開出来ること可能性ある。

「マルタンじいさん」は命名を含め、小学生ならではのおおらかで楽しい発想力があり、マルタン父さん、マルタンばあさんなど、発展も期待出来、あちこちに出没し、人びとを楽しませてくれそうだ。ぜひ人が実際に座れるものにして欲しい。

植樹祭部門であれ、里山部門であれ、共通することであるが、コンテストはあくまで一つのきっかけであり、大切な事はそこから生まれたものをいかに、育て、継続していく事である。
最後に、このコンテストに興味を示し、応募されたすべての皆さんに改めて敬意を表したい。
特に二次審査里山部門に参加した皆さんはヤマヒルと猛暑と闘いながら、何日もかけて現物製作を行ったという。 入賞者された方もそうでなかった方も、ここで培った経験をぜひ今後に生かしていただきたい。そしてこれも何かの縁、これからも秦野を訪れ、繋がりをつくって欲しいと願っている。


 
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
   
 
   

秦野は美しい、東京から、こんな距離で懐かしくて、ホッとする里山が残っているとは思っていなかった。まだまだ、僕たちの知らない魅力的な所が沢山ある。しかも住んでいる人たちがいい、地域を愛している。そして行政のメンバーも実に地域と繋がり、行政との障壁を感じない。つまり魅力的な人がいるという事だ。 そして、食べ物がおいしい、地元でとれた食材を地元の方々がもてなしてくれる。これがいい。全国共通ではないのだ。

これだけ揃えば、いいものが出来る可能性がある、そう思った。あとは、どれだけのものが集まるかだ。
ふたを開けたらびっくりした、今までに無いくらいの数多くの応募があった。
どれも楽しくて、ぬくもりを感じる作品だった。特に小学生や中学生の作品はびっくりやら、楽しいやら。プレゼンテーションでも、その逞しさと、まっすぐさに感動した。

今迄のデザインコンペとは違う、一般の人達や、応募者、そして地元の人達が参加して、色々な質問や講評が出る、正しくライブなコンペだった。
審査も白熱し、中々決まらなかった。地元の思い、行政の思い、そしてデザイン、この混じりあいこそ新しいデザインの形なのだと思う。

デザインは形を超えて、地域や社会にしみ込んで行く、そして地域から新しい価値が生まれる。秦野ぬくもりを感じる新しいデザインが。

   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
 
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