連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第4回 「杉による水平構面をつくる・その2」
文/写真 田原 賢
 

「杉の可能性を引き出す」木造建築の構造を、実例をもとに紹介していきます

 
  3.試験結果   *第3回 「杉による水平構面をつくる・その1」はこちら
   
  (1)試験結果の表
  試験結果を、以下に示す。
   
見かけのせん断変計角(δ) δ=(δ1−δ2)/H
ここで、
δ1:試験体頂部の水平変位(mm)
  δ2:土台の変位(mm)
  H:試験体高さ(mm)
   
  ●試験結果
 
   
 
   
  (2)試験体の破壊状況
  主な破壊状態を以下に示す。
   
  主な破壊状態
 
   
 
   
  (3)各試験体の 荷重−見かけの変形角曲線
  各試験体の荷重−見かけの変形角曲線を示す。
   
   
  流しダボ仕様 荷重−変計角曲線
 
   
  隠し釘仕様 荷重−変計角曲線
 
   
  合板仕様 荷重−変計角曲線
 
   
  流しダボ仕様の試験体の破壊状況
 
   
  隠し釘仕様の試験体の破壊状況
 
   
  実験状況 1
水平加力におけるフレーム(床梁)の変形が板との直角を維持していないのが分かる。
  実験状況 2
杉板各材がズレている状態がわかる。
   
       
  実験状況 3
最大加力時における板材のズレの状況。
各材間で1cm以上のズレが見られ、それが全体変形につながっているが、危険(脆性的)な破壊が見受けられない。
   
     
       
 

実験状況 4
最大変位における柱脚状況。
板のズレに伴う変形は、杉を剛体回転させ柱脚部の浮き上がりがはっきりと分かる。

 
       
 

加力実験後の試験体状況
試験後の状況を調べるために板を取ってみると、板の剛体回転による堅木の流しダボがめり込んでいるのが分かる。
この結果、杉板による水平構面の剛性を高めようとした場合は、このような流しダボとビスによるシステムも、合板と同様にねばり強く水平力を構面間の耐力壁に伝達でき、有効であることが確かめられた。

 
   
  試験後の状況を調べるために板を取ってみると、板の剛体回転による堅木の流しダボがめり込んでいるのが分かる。
この結果、杉板による水平構面の剛性を高めようとした場合は、このような流しダボとビスによるシステムも、合板と同様にねばり強く水平力を構面間の耐力壁に伝達でき、有効であることが確かめられた。
   
  完全弾塑性モデルによる降伏耐力・終局耐力等の求め方
  (財)日本住宅・木材技術センターより2001年12月に発行された「木造軸組構法住宅の許容応力度設計法」から抜粋 降伏耐力Py、降伏変位δy、終局耐力Pu、終局変位δu、剛性K、塑性率μ及び構造特性係数Dsの算定は、枠組壁工法の試験評価法で提案されている。
包絡線は、計測した荷重・変形曲線の終局加力を行った側の最初の荷重変形曲線より求める。
   
  (1)包絡線上の0.1Pmaxと0.4Pmaxを結ぶ第T直線を引く。
(2)包絡線上の0.4Pmaxと0.9Pmaxを結ぶ第U直線を引く。
(3)包絡線に接するまで第U直線を平行移動し、これを第V直線とする。
(4)第T直線と第V直線の交点の荷重を降伏耐力Pyとし、この点からX軸に平行に第W直線を引く。
(5)第W直線と包絡線との交点の変位を降伏変位δyとする。
(6)原点と(δy,Py)を結ぶ直線を第X直線とし、それを初期剛性Kと定める。
(7)最大荷重後の0.8Pmax荷重低下域の包絡線上の変位を終局変位δuと定める。
(8)包絡線とX軸及びδuで囲まれる面積をSとする。
(9)第X直線とδuとX軸及びX軸に平行な直線で囲まれる台形の面積がSと等しくなるようにX軸に平行な第Y直線を引く。
(10)第X直線と第Y直線との交点の荷重を完全弾塑性モデルの終局耐力Puと定め、そのときの変位を完全弾塑性モデルの降伏点変位δvとする。
(11)塑性率μ=(δu/δv)とする。
(12)構造特性係数Dsは、塑性率μを用い、Ds=1/√(2μ−1)とする。
   
 
   
  短期基準せん断耐力P0は「軸組構法耐力壁の評価方法」にて算定し、壁倍率は次式により算定する。
  壁倍率 = 短期基準せん断耐力P0 / (試験体有効長×1.96kN)
   
  @せん断変形角の算定
  せん断変形角は次の方法で計算を行う。
見かけのせん断変形角(γ)、脚部のせん断変形角(θ)、真のせん断変形角(γ0)は次式による。
   
 
見かけのせん断変形角

γ=(δ1−δ2)/H (rad)

脚部のせん断変形角 θ=(δ3+δ4)/V (rad)
真のせん断変形角 γ0=γ−θ(rad)
ただし、

δ1:柱頂部の水平方向変位(mm) (変位計H1)
δ2:柱脚部の水平方向変位(mm) (変位計H2)
H :変位計H1とH2の間の標点間距離(mm)
δ3:柱頂部の鉛直方向変位(mm) (変位計V3)
δ4:柱脚部の鉛直方向変位(mm) (変位計V4)
V :変位計V3とV4の間の標点間距離(mm)

   
  A短期基準せん断耐力の算定
  短期基準せん断耐力P0は、下記の(a)〜(d)で求めた耐力の平均値に、それぞれのばらつき係数を乗じて算出した値のうち最も小さい値とする。
なお、ばらつき係数は、母集団の分布系を正規分布とみなし、統計的処理に基づく信頼水準の75%の50%下側許容限界値をもとに次式により求める。
  ばらつき係数=1*CV*K
ただし、CV:変動係数
K :定数0.471(n=3)
  なお、降伏耐力Py、終局耐力Pu、構造特性係数Ds等は上記の「完全弾塑性モデルによる降伏耐力、終局耐力等の求め方」による。
   
  (a)降伏耐力 Py
(b)終局耐力 Pu*(0.2/Ds)
(c)最大荷重 Pmaxの2/3
(d)特定変形時の耐力(タイロッド式:真のせん断変形角1/150rad 
   柱脚固定式:見かけのせん断変形角1/120rad)
   
  評価法より実験データから得完全弾塑性に置き換えた荷重変形曲線
 
   
 
   
  (4)試験結果より得られた剛性
  剛性については、試験データから求めた剛性及び、完全弾塑性にモデル化したものから剛性を算出したものを下記に示す。
   
 

●試験データからの剛性

 
   
 

●完全弾塑性のモデル化による剛性

 
 

P:変計角が1/150rad時の荷重 (t)
M:P×試験体高さ (t・cm)
Ry:変計角=1/150rad(0.0083)
K:剛性 M/Ry (t・cm/rad)

   
 

流しダボ仕様及び隠し釘仕様は、変形角1/150radのときの耐力を1とするならば、変形角が1/50radを超えてから最大耐力で2倍以上の耐力が出ている。
合板仕様に対して初期剛性はやや低いが、その後の粘りが大きいことが分かる。
上記の結果より、実験データと完全弾塑性モデルに差が生じたのは、降伏後の非常に大きな粘りが要因の一つであると考えられる。
今回の実験結果より、流しダボ仕様は合板仕様に対して、基準変形角時(1/150rad)の剛性は半分程度であるが、流しダボ仕様の粘りは合板仕様の約2倍以上で、靱性率は5程度あると思われる。
(実験装置の限界を超えても耐力と変形が増大することが予想される)
さらに、合板に対する最大耐力も1.3倍と大きくなっているのが分かる。

   
 
   
  (5)流しダボ仕様の検討例
 

本実加工した杉の厚板と梁材を流しダボとビスによる杉板の水平構面を(財)日本住宅・木材技術センターにおける2間×4間の水平構面として新壁量計算法の最大レベルの偏心を有する床面のモデル例を検討する。

 
   
 
1/150rad時の 必要K = M/Ry
  = 97t・cm/0.0083rad
  = 11686t・cm/rad
 

1/150rad時の流しダボ仕様 K = 18916>11686t・cm/rad ∴ O.K

   
 

以上の検討結果、流しダボ仕様の水平構面耐力は、上記のようなモデルであれば必要剛性を満たしているので、水平構面としての機能も期待できることが分かった。

   
 
   
  (6)杉の厚板による従来の隠し釘による検討例
 

本実加工した杉の厚板に対し、斜め隠し釘打による杉板の水平構面を検討する。
前記と同様の条件として検討すると下記のようになる。
条件が同様なので図等は省略することにする。

   
 
隠し釘仕様   K

= 5301t・cm/rad

 

< 必要 K =11686t・cm/rad

 
∴ N.G
   
 

つまり、一般の建築雑誌等の木造住宅で見られる、杉の厚板直張り仕上げの床水平構面の耐力は、当事務所考案した流しダボ仕様の耐力と、比較した場合1/3程度といえる。
この仕様であれば、バランスの良い(偏心率0.15未満)住宅や、火打ち張りの多い床面なら大丈夫かもしれないが、火打ち張りが無い隠し釘仕様バランスの悪い住宅であれば危険な施工といえる。

   
 
   
  (7)実験データからの床倍率算定結果
   
 

●短期基準せん断耐力

 
   
 

(a) : 完全弾塑性に置き換えたグラフからの降伏耐力Py
(b) : 終局耐力Puに0.2/Dsを乗じたもの
(c) : 実験データからの最大荷重Pmaxに2/3を乗じたもの
(d) : 真のせん断変形角が1/150rad時の荷重

   
 

床倍率の算定
床倍率の算定は下記の式による。
床倍率=P0(上表の最小値)/(1.82×200kg)×0.75

 
試験体有効長   ばらつき係数
   
  ●実験からの床倍率と表からの床倍率
 
   
 

床倍率の比較(合板落とし込み根太仕様との比較)
根太落とし込み@500以下、N50@150以下:1.40倍  
流しダボ仕様:1.50倍>1.40倍 ∴OK
隠し釘仕様 :0.58倍<1.40倍 ∴NG

   
  ●品確法における水平構面の仕様と床倍率
 
   
 

品確法の床倍率に換算すると、流しダボ仕様においては1.5の床倍率となった。
この算定した床倍率で、前ページの別表の仕様に近いものは、番号4の「構造用合板12mm以上、根太@500以下、落とし込み、N50@150」、床倍率1.4が近い値となっている。
これは、合板張りと同等の床倍率が期待できるといえる。
また、隠し釘打仕様も同様に床倍率の算定をすると、0.58となった。
この値に近いのは、番号13の「幅180杉板12mm以上、根太@500以下、半欠き、N50@150」、床倍率0.24と、番号34の「木製火打90角、平均負担面積3.3u以下、梁背150以上」、床倍率0.36を足し合わせた(≒0.6)程度になっている。 (上表参照)

   
 
   
  4.まとめ
 

流しダボ仕様においては、流しダボと床板及び梁材にめり込みが生じることにより、変形の増大と共に耐力も上昇して安定した挙動を示し、脆性的な破壊 は見られなかったが、隠し釘仕様においては、床板材が水平方向にズレるに従って、釘が床板材へのめり込み及び、曲げによる抜けが生じ、床板材と梁材との一 体性があまり無く、剛性は流しダボ仕様に対してかなり低くなっている。
一般的に行われている施工方法での床倍率は、合板張りに比べるとかなり低いことが分かる。
横架材との一体性が低いのが欠点になり、初期剛性もほとんど期待できないのである。
これは、水平力を耐力壁に十分に伝えられないということである。
つまり、耐力壁がバランスよく配置されている(偏芯率 0.15以下の)住宅では、特別に剛床とする必要はなく、隠し釘打仕様のように柔らかい床と してもよいが、意匠計画上、四角四面の住宅はメーカーの企画住宅以外では非常に少ないといる。
一般的に住宅の間取り等の平面計画は敷地条件等により決定したり、また生活スタイルで決定されることが多く、それらの要素を含めて多様なプランで構成されているのが現状である。
流しダボ仕様ならば、耐力壁の配置があまりバランスのよくない場合(偏芯率 0.3程度)であっても、十分に水平力を耐力壁へ伝達することが可能であると言える。
実務で流しダボ仕様の水平構面を使用する際は、横架材及び厚板の溝に隙間なくダボを設置することで、初めて実験で得られたような性能を確保できるので、このような施工上の注意を守る必要がある。
また、今回は杉板の止め付けにコーススレッドビスを使用したが、釘(CN90)を使用しても性能は確保できるので、釘とコーススレッドビスのどちらでも可能である。
今回の実験により、杉の厚板による流しダボ仕様の剛性と耐力及び靭性等の構造性能が、構造用合板に匹敵する位の性能であることが確かめられた。

   
 

次回の第5回からは、さらに改良した杉厚板剛床仕様の実験です。 お楽しみに

   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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