連載
  スギダラな人々探訪/第38回 (株)ソーケン 「木の再生プロジェクト」
文/   千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 

今月は木の廃材を活用した、とある企業の社会貢献活動についてご紹介したい。
その企業とは、千代田の仕事上の取引先で「株式会社ソーケン」という会社で、オフィスを中心に企画・設計・施工まで一環して行っている内装施工会社である。グループ会社に特注木製家具の製作を行っている「株式会社ソーケン製作所」とCG制作やイラスト・グラフィックデザイン全般の企画・制作を行っている「プロシード株式会社」がある。
内装工事を軸に家具製作のラインを持ち、グラフィックコンテンツも作れる機動力の高い会社だ。
そのソーケンさんとの交流の中で、ソーケン製作所の特注家具工場で出る廃材を利用したリサイクルの取り組みをご紹介いただいた。

事の起こりはソーケンさんの事業の中で、永遠の課題として捕らえられていた内装工事や家具製作で出てくる廃材の処理について、解決策を模索することから始まる。アイデア出しの段階から若手社員が中心となって進めて来たそうで、会社としてはある意味新人訓練的なところもあったのかも知れない。
それまで工場の廃材、主に木材の端材の処理は焼却に頼っていて、そのコストの削減も含め、環境や社会に対する貢献ができないか?等様々な角度から検討され、今回ご紹介する「木の再生プロジェクト」はスタートした。
いろんなアイデアが出る中で、廃材として出る木材を利用して子供用の玩具を製作し、幼稚園や児童福祉施設へのクリスマスプレゼントとして贈るということを決め、具体的なものづくりに入って行った。
そのプレゼント用玩具のデザインから製作まで、ソーケンさんの若手社員達がアフターファイブのボランティアでやっているところがまずはすごい。
ソーケンの有吉社長はとても気概がある方で、いろんな素晴らしいアイデアを持ち、それを具体的に実行に移せるアグレッシブな人である。こんなことを思いつき指示を出す有吉さんもさすがであるが、それにボランティアで取り組む若手社員たちがすごい。社員教育がいいのか、元々の企業文化として根付いているのか、たまたまそんな若者が集まったのか定かではないが、彼らのやった活動と出来上がった成果物のクオリティの高さは驚くべきものがある。
この活動、最終的には「fumfug」というフリーペーパーを発行している出版社から絵本として発売されることになる。
機会があれば、以下のサイトで紹介されている「もりのてんとうむし」というおもちゃ付き絵本を手に取って見てみて欲しい。
http://www.humhug.net/tentoumushi/

最終的な成果も素晴らしいが、このプロジェクトはあらゆる面でいい事ずくめなのである。
まず、製作するための廃材の整理に始まり、工場がきれいに整理整頓されてゆく。普段はデザインや設計、営業活動をやっているメンバーがみんなで力を合わせて肉体労働をする。チームの結束力を高め、モチベーションも高まっていったようだ。

   
 
  廃材を整理整頓する社員たち
   
  廃材の整理ができたら、次に細かい廃材を集成材にして使いやすい状態にしてゆくのであるが、これはそんな設備があるからできることで、とても恵まれた環境だと思う。もちろんその集成材を作るのにも実際は電気代や機械のメンテンナンスのためのコストがかかっているのであろうが、その分は会社が提供し、労働力は社員が就業時間以降に供出して最低限のコストで運用している。
   
 
  機械加工ができる状態に変身した廃材集成材
   
 

先ほどから廃材と言っているが、その中には希少価値もあるような高価な高品位素材の端材も存在する。そういったものがムクのままでは無いにしろ、また何にでも使える状態では無いにしろ、再生されるのである。そこでできたおもちゃ用集成材は本業の内装工事にも使えるんではないかといった意見も出てきたそうである。一方で、社員のアイデアと熱意、ボランティアスピリッツがなければ、そういった材料の再生もままならなかったのだということがわかる。廃材として焼却し、二酸化炭素を排出していたものが、やり方によっては社会貢献や営利活動にも繋がり新たな価値を生み出すということだ。
ここで重要だと思えるポイントはソーケンさんには集成材をつくるための設備等、この活動を推進するためのインフラを持っていたということだ。道具というのは本当にありがたいものである。

実際の玩具製作に入ると、製作所の職人さんが仕事の合間や就業後に手伝ってくれているので、当然ながら仕上がりもプロの仕事なのである。自分の仕事以外にも喜んで手伝ってくれる人たちばかりなのだそうだ。んーーー、本当に素晴らしい。

   
 
 
家具製作の様子。職人さんも喜んで手伝ってくれた。
   
 

製作所の職人さんたちまで動かしたのは、やはり若い社員たちのアイデアの豊かさ、想いや熱意の強さ、実直な行動力だったのではないかと思う。そういったものが人をいろんな役割を持った他の社員たちを感動させ、この活動を押し上げていったのだと思う。

出来上がった玩具や家具たちの出来栄えはさすがである。素人が日曜大工の真似事でやったものとはもちろん明らかに違うのであるが、それ以上に仕事でできあがってゆく家具とも違い、何とも愛情溢れるものになっている。
細かく言えば、職人さんに頼らずにメンバーで塗装したものにはムラがあったりしたそうだが、逆にいい味を出していたりもするわけである。

   
 
 
クリスマスツリー
 
  立体パズル
 
  天使のイス
 
  社員たちが塗装したピックアップゲーム
   
 

家具類の設計はソーケンのデザイナーが、クリスマスツリーや立体パズルに施されたグラフィックはグループ会社のプロシードのデザイナーが担当。製作の要の部分はソーケン製作所の職人さんたちが・・・
何と言う見事なフォーメーションなのだろうか!
個々の会社の結束だけでなく、グループ全体の連携を強めてしまっているのである。

これらの成果物は2007年には幼稚園2施設に、2008年には福祉施設2施設に対し、クリスマスプレゼントとして寄贈され、大変喜んでもらっているとの事だ。子供たちの歓喜の表情にメンバーも感極まったり、この取り組みを聞いていて、宮崎県日向市のまちづくり課外授業と似てるな、と思った。

   
 
  幼稚園や児童福祉施設での子供たちとのふれあい
   
  ここからは思いもよらぬ素敵な連鎖が続く。
まず、この活動に目を付けた先述のフリーペーパーマガジンのhumhug編集部が、同誌の中で紹介してゆくことになる。
   
 
 
フリーマガジン「fumfug」
   
  1年間の連載で、ソーケングループのメンバーを昆虫に見立てたノンフィクションの絵ものがたりで、それが「もりのてんとうむし」である。その連載で人気コンテンツとなり、2009年に、読み聞かせ絵本として発売されることになる。この物語の中で、工場のおじさんがプレゼントするおもちゃが、実際に工場の廃材を使用して製作された実物で絵本に付いてくることから話題となるのである。
   
 
 
おもちゃ付き絵本「もりのてんとうむし」発売
   
 

特に自治体からの引き合いが強いそうだ。廃材利用つまりリサイクルの取り組みが利益を上げるまでには行かずとも、企業の中でトントンくらいで運用され、実際の販売にまで到達している事例として注目しているのだという事だ。ある自治体から他の自治体、NPO法人、大学、産業振興財団等へ情報の輪が広がっており、ソーケングループの有吉社長は差し当たり、来るもの拒まずで、どんなところからのアプローチも受け止め、まずは人的、組織的ネットワークを広げてゆき、今後の活動の方向性を模索してゆきたいとの事だ。

社会貢献。環境問題。世のため人のため・・・思ってはいても対象が社会全般に向いているため感情移入も起きにくいし、具体的なアクションに繋がりにくいものである。それゆえに自社グループ内という枠の中から解決すべき課題として発生し、そこからはみ出していろんな可能性が自然と広がっていっているこの成功事例は注目されるに値するし、これからのものづくり、まちづくりにおいても大きなヒントとなる要素を提供しているのではないかと思う。この取り組みを通じて、ソーケンの若手社員たちは仕事とかプライベートとかそういったものを乗り越えて、かけがえのない感動を味わったのではないかと思う。そんな若者が支える未来は明るいはずだ。杉と往く懐かしい未来がここにもある、そう思った。(ち)

   
 
   
  ソーケングループ(株式会社ソーケン)
〒135-0016 東京都江東区東陽2丁目2番20号(東陽駅前ビル11階)
TEL:03-5635-1226
FAX:03-5635-1225
http://www.soken-net.co.jp/index.htm
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 
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