連載
  いろいろな樹木とその利用/第9回 「アケビ(ミツバアケビ)」 
文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 

アケビの季節になりました。といっても、今は実のほうではなく、新芽のほうですが。
新潟などでは「木の芽」と称して人気の山菜です。ほろ苦くてコクがあり、ちょっと他に似たものは思い当たらない独特の山菜です。生で食べると口の中に清冽な芳香が漂います。
第9回目は「アケビ(ミツバアケビ含む)」です。

   
 
   
 
  ミツバアケビの果実準備中(平成20年6月11日撮影)
   
 

4月〜5月頃にかけて花が咲くアケビは、本州から九州まで分布(ミツバアケビは北海道から九州)しています。アケビが樹木というと違和感があるかと思いますが、木本つる植物(籐本という場合もあります)で、林のへりや道路脇などの日当たりがよいところでよく見かけます。つるは左巻き(後述)で他の木に絡み付いて生育しています。
そんなアケビですが、どのように使われてきたのでしょうか。

   
  ●食用に
 

アケビの新芽はおひたし、胡麻和えなどにされ、冒頭に書いたとおり新潟県では「木の芽」といって珍重しています。春先に飲み会があったときに、どんぶり一杯に出てきたことがありました。知らない人は特に何とも思わないでしょうが、1.5〜2.0mmほどのアケビの新芽をそれだけ集めるのは大変です。お店の人の苦労を思い描いたものです。
それから、紫色に熟す果実は秋の味覚として知られています。あの実、がパカッとわれている所から「明け実(あけみ)」といい、それが語源と言われています。お店で売られているものも見かけますが、開く前の状態で天然物よりも紫がきれいです。

   
  ●薬用に
 

アケビのつる性の茎を1〜2mmほどの輪切りにしたものを「木通(もくつう)」といい薬用にします。利尿作用、鎮痛作用、強心作用があり関節リュウマチや神経痛、血行不良などに使われます。本草綱目によると、つるには細い穴があり通っているので古くは通草といい、今は木通というと記載されています。
また、アケビの新芽や若葉をすり鉢ですり、少し水をいれガーゼで絞った汁を飲用するなどの青汁療法にも利用します。
あまり有名ではありませんが、アケビの果実を乾燥したものを「預知子(よちし)」といいます。これも鎮痛・利尿・解毒などに利用されるようです。

   
  ●染料
 

特別によい染料ということも無いのですが、アルミ媒染で黄色、銅媒染で生壁色(茶色がかった鼠色)、鉄媒染で鶯色を染めます。

   
  ●左巻き、右巻き
 

結構間違いがあるというか言い方が徹底されていないというのか、本によって右巻き左巻きの考え方が違い逆のことが書いてあるので、とても迷います。アケビは左巻きに巻いていきますが、左巻きってわかりますか?
植物の場合は、上から見たときにどのように巻いているかで表現しています。(そうでない書き方をしている本もありますが)上からみて時計回りなら右巻きで、反時計回りなら左巻きといった具合です。
でも、右左という言い方では植物学系のように真上から見る場合と、そのもの自体がまいていく方向(物理学など)で言う、2通りの表現方法があるため正反対の言い方になり、人の考えにより必ず違いが生じます。この際ワイヤーロープの撚り方を参考にして、Z巻きやS巻きと言うほうが間違いが無いと思うのですがいかがなものでしょうか?

 

ちなみにこのいい方でアケビのつるの巻き方を表現すると「Z巻き」になります
(ワイヤーロープの場合はZより、Sよりといっています。写真は中村工業株式会社のHPから引用 http://www.rope.co.jp/lecture/beginner/lb_02.html
これだと横から見た巻き方なので間違いがなく、すっきりします。

 
   
  ●遊び
 

アケビの雌花を使った遊びでよく紹介されているのですが、「昔の子供の遊びで、めしべを手に乗せてたたくと柱頭を下にして起き上がる」という遊びをご存知ですか?
文章だといったいどういうことなのかよく分からないので、写真を交えて説明します。

 
 

ミツバアケビの花 矢印部分が雌しべ

   
 

(写真1)このとき他のめしべにはくっつかないようにします

  (写真2)3本ほど立ち上がった状態
 

ミツバアケビの雌しべは長さ1cmくらいで、先端に花粉がつきやすいように粘着性があります。それを手のひらに載せ(写真1)たたく(振動させる)と、粘着性のある部分が手のひらにくっついたまま逆立ちしたように(写真2)なります。
これが、昔の子供がやっていた遊びというものなのですが、よくこんなものを見つけたものだと感心しますね。大人がやってもおもしろいです。

   
  ●その他の利用
 

アケビはつるが強靭なので、バスケットやかばん、魚籠などに利用されてきました。また輸出用に洋服入れやカバンを作っていたようです。その場合は、表皮を取り去って漂白した素材を使ったようです。
果実には黒い種がたくさん入っていますが、過去にはこの種から油を絞り食用油にしていました。種20L(リットル)から油3L取れるそうです。
京都鞍馬の名物「木の芽漬け」はアケビの葉をニンドウ、マタタビの葉にあわせて細かく刻み塩水につけてから陰干しにしたものです。

   
   
  【標準和名:アケビ 学名:Akebia quinata Decaisne.(アケビ科アケビ属)】
 

【標準和名:ミツバアケビ 学名:Akebia trifoliata Koidz.(アケビ科アケビ属)】

   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
   
 
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