連載
  杉で仕掛ける/第17回 ・実践編「杉コレクション+やまんかん祭り」
文/  海野洋光
   
 

「あと、何年あると思っているんだ!!」
松竹スタッフが、山田洋次監督に映画とは違うスケジュールを秋に組もうとした時に発した言葉だそうです。日向市の山田会の和田会長に2008年、杉コレクション(以下杉コレ)の審査員に山田洋次監督を宮崎に来ていただきたいと話をしたときに今年の映画製作にかける気迫のこもったエピソードとして教えていただいた話です。
「そうだよなあ、ああ、無理かもしれない…」
そんなこともあって、半分、いや、99%諦めていました。実は、山田会の会長に話す前に杉コレの審査委員長である内藤廣東大大学院教授に山田洋次監督招聘の話をしていました。日向建築士会の懇親会の席だった。内藤教授も「約束は出来ないし、難しいかもしれないけど、今度、会うから話してみるよ」と快く引き受けてくれていたのですが….

   
 

結果は
「デザインのことはわからないけど、映画を通じて宮崎県日向市とは、縁があるし、内藤さんのまちづくりのお手伝いができるなら」と。本当に寅さんのような方です。義理を感じてこのやまんかん祭りと杉コレに参加していただく、本当に有り難い。
そんな山田監督が、和田会長に帰りの宮崎空港で「面白かった。杉のことが勉強になったよ」と話していたそうです。
この言葉で「大変だったけど良かったなあ」という安堵感と多くの人に支えられた宮崎県最大の林業・木材業のイベントの成功が実感できました。この場をお借りいたしましてお礼を申し上げます。

   
 

「岡目八目」
木材や林業とは、まったく関係のない私が、「杉コレ+やまんかん祭り」実行委員長という大役を任せていただき、大変光栄に思います。職業的には、林業・木材業とは関わりはありませんが、関わりがない分、本質や問題点が良く見えるものです。
「杉コレ+やまんかん祭り」の大きな目的は、「宮崎の杉をできる限り多くの方に知っていただく」。そのために1年間実行委員会で練りに練って、会議を進めてきました。しかし、実行委員長である私が一番腐心してきたことは、『共通の目的意識を育てること』でした。この辺りが、スギダラぽいところです。林業・木材不況と言われる昨今、PRやキャンペーンなどのイベント自体、無駄と思われる方が多いと思われてしまいます。財務担当に「その効果は?」と問われてしまうと数値になかなか、表すことができないものです。しかし、私は、何年か後に必ず、あのイベントがあったからこそ、このことができた、このことが成功したと言われるようなブレイクポイントのイベントにしたいと考えていたのです。私が、杉コレ+やまんかん祭りのイベントになぜ?『共通の目的意識を育てること』を組み入れたのか、その理由をこの月刊杉の連載「杉で仕掛ける」で話したいと思います。

   
 

多くの行政の方々が「川上川下の融合・協力」と言います。いつもの話です。何十年も川上川下が協力し合わないのなぜだろうと私なりに考えました。その答えは、売り手と買い手の違いにあると気づいたのです。そして、もうひとつ、一般の人には、林業も木材業も同じに見えていることに気づいていないことでした。「融合・協力」という形や形式に囚われすぎているようにも思えました。
林業者は、原木市場に。製材業者は、製品市場や問屋さんに。木材屋さんは、大工さんや工務店、ハウスビルダーへと売る相手=お客さんが全く違うのです。それぞれ、共通していることは、最後に買う、エンドユーザー(消費者)の顔が見えていないところでした。しかも、自分の顔や想いを売ろうとはしない。それでは、「川上川下の融合・協力」と言ってもお題目にしかならないでしょう。行政は、一次産業である林業には、力を入れる傾向が強いのですが、木材業には、ちょっと冷たい。(まあ仕方のないことだが・・・)最近、その力加減が変化しつつあります。良いチャンスだと考えました。私は、川上川下が漠然と融合すれば良いとは思っていません。大切なことは、「エンドユーザー(消費者)を顧客として認識できるか」と言うことです。「杉コレ+やまんかん祭り」で川上・川下の両者が消費者の心を捉えるの手法を身に付けて欲しいと願っています。
作れば売れる「生産志向型」の時代は、昭和20年代だったでしょうか?林業・木材業の栄光の時代です。時代は、良い商品なら売れる「製品志向」の時代から更に積極的に売り込む「販売志向」の時代が進化してニーズとウォンツに応える「顧客志向」の時代に突入しているのです。生産の効率化が最優先の時代は、40年前に終焉しているのですが、この業界は、まだ、この辺にいるようです。

   
 

時代は、BtoBからBtoCへ そして…。
使い古されたマーケティング用語ですが、Bとは、ビジネス=企業のことで、つまり、BtoBとは、企業と企業でモノを売っている。それに対してBtoCは、ビジネスからコンシューマ(消費者)と言う意味になります。今の時代のビジネスは、企業間だけでモノを売って儲けることが難しく、直接、消費者にモノを売る仕組みを、どの業界も懸命に構築しようともがいています。ということを端的に「時代は、BtoBからBtoCへ」と表しているのです。当然、単発のイベントで「川上川下問題」がうまく解決するとは思ってもいません。しかし、イベントを通じて「できるだけ多くの人」=「消費者」と交流することによって、真の顧客を見つけ、BtoBからBtoCの時代に気づき、川上・川下の両方に「共通の目的意識が育つ」のではと…。と考えたのです。

   
 

「宮崎の杉をできる限り多くの方に知っていただく」
杉の情報を「知っていただく」と「県民にPRする」は同じではないと私は思っています。『情報発信』と響きは良いのですが、実際に消費者は、一方的な大量の情報に飲み込まれています。木材の情報などは、数パーセントも入っていない正に「海にインク一滴」の状態です。これでは、無駄遣いといわれても仕方がありません。賢い消費者は、大量の情報をどこで仕分けして仕入れているのでしょうか?新聞、雑誌、TV、ラジオなどのマスコミ?確かにマスコミにも掲載、放送の基準があるでしょう。取り上げられるだけでも熾烈な競争を勝ち抜かなければならないのです。でも、それだけでは、「知っていただく」ということにはつながりません。実例をひとつ。あれだけ、強烈なインパクトをもった東国原知事が2年間動き回ってもでも、副大臣が、「宮城県知事…」と紹介し、大臣が「ヒガシクニハラ…」と呼ぶのです。何が違うのでしょう?(本人は、まだ、PRが足らないと思っているみたいだが…)

   
 

杉コレ+やまんかん祭りが、通常の情報発信と決定的に違う点は、スタッフ自身の学ぶ場であるという点なのです。他人に想いを伝えるためテクニックを自らが学び、伝えるべき相手を間近に交流して理解していただく場が「杉コレ+やまんかん祭り」なのです。私は、実行委員長としてこの杉コレ+やまんかん祭りに関わる人たちの気づきの場作りになればと考えていました。私は、「杉コレ+やまんかん祭り」には、3つのポイントがあると思っています。

   
 

「伝えたい相手を知る」
「伝えたいものを自らが学ぶ」
「伝えたいものに愛情をかける」

   
 

「杉コレ+やまんかん祭り」をただのイベントで、終わらせるわけにはいきません。そのためには、イベントを通じて、業界の持つ問題解決を図る努力や次世代の学びの場にできればと考えています。これからも進化し続ける「杉コレ+やまんかん祭り」になるでしょう。
まだまだ書き足らないことばかりですが、私のブログにこの続きは書きたいと思います。
http://blog.goo.ne.jp/umisugi
また「海杉」と検索してみてください。宮崎の林業と木材を愛してやまない海杉がいます。読んでみて下さい。

   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ> 日向木の芽会 / HN :日向木の魔界 海杉
杉コレクション+やまんかん祭り実行委員長
海野建設株式会社 代表取締役
   
 
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