連載
  東京の杉を考える/第29話 「縄文古木が教えてくれること」 
文/写真 萩原 修
  あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 

去る12月6日(土)、東京の目黒にあるホテルクラスカの2階のギャラリーDOで、「イズモザキ縄文古木コンペ2008」の最終審査会がおこなわれた。 
http://blog.sideriver.com/discoverjapan/cat3083372/index.html

ぼくは、このコンペを企画し、審査員のひとりとしても参加した。最終審査に残った7人の提案は、それぞれに縄文時代の古木を現代にどう活かしていくのかを考えさせられるとても興味深い内容だった。審査は、公開でおこなわれ、7人が古木を使った作品を前に順番にプレゼンテーションしていき、質疑応答の後に、審査員がそれぞれグランプリを推薦した。結果として5人の審査員が4名の作品を押すかたちとなり、会場や参加者からの意見を含めて、審査員がそれぞれの考え方を話しあった。話あった結果に再度グランプリ候補を選んだが、頑固な審査員たちは、最初の意見を変えずに、ふたりの審査員から推薦のあった河内一泰さんのスツールがグランプリに選ばれた。河内さんの作品は、古木を薄くスライスし切断面を分割したものを組み込んだスツールを、みんなでシェアしようという試み。そのシンプルで意外性のある美しい表現と、時間や生命のつながりを意識させる提案が審査員の心に響いた。その他には、古木を土偶にした上野紗代さんや、古木の湯を提案した和久倫也さん、器を制作した廣岡周平さんが高い評価を得た。

審査には、新潟県出雲崎町の小林則幸町長も参加しており、単なる作品審査ではない、縄文古木を町に活かす視点も重視された。今後は、審査の結果をどのように出雲崎町に活かしていくのかが課題である。そもそも、このコンペは、「イズモザキくらしの学校プロジェクト」の一貫でおこなわれているもので、地震の影響で出雲崎の漁港の海底から浮かびあがってきた大量な古木をなんとかしたいという人たちの熱い想いが積み重なって企画された。予算もほとんどなく、賞金もないという珍しいコンペとなっている。このコンペを主催しているのは、えい出版社であり、「ディスカバージャパン」という雑誌の創刊にあわせて開催されている。

「古木」と「新杉」という違いはあるものの、「木」をどのように活用したらいいかということや、地域との関わりをどうつくっていけるかなど、このコンペは「スギダラ」の活動に近いものを感じている。「くらしの学校」と名付けたのは、海と山があり、漁業と農業と林業があり、古い町並みがある日本海沿いの5000人の小さな町に、「くらし」の原型のようなものがあり、そこから学ぶことができると思っているからだ。巨大化した都市や、高速化された時間や、経済優先の社会からは、「くらし」の原型が見えにくくなっている。

日本はいったいどこに向かっていくのか。縄文時代のくらしに想いをはせながら、忘れてはいけない「人と自然のつながり」をくらしの中に取り戻していきたい。

   
   
   
   
  ●<はぎわら・しゅう>デザインディレクター。つくし文具店店主。1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。大日本印刷、リビングデザインセンターOZONEを経て独立。プロダクト、店舗、展覧会、書籍などの企画、プロデュースをてがける。著書に「9坪の家」「デザインスタンス」「コドモのどうぐばこ」などがある。
   
 
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