連載  
  あきた杉歳時記/第29回 「秋のスギダラまつり弾丸ツアーin日向」
文/写真 菅原香織
  すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 

窓山デザイン会議が終わった週の金曜日。3時限目の授業を終えてすぐ、最小限の身支度をして空港に向かった。羽田で前泊して朝一の宮崎行きに乗るためだ。杉コレクションin日向の最終審査は10時開始。宮崎空港から乗り継ぎの良いJRでも日向市駅到着は9時56分、会場が駅前なのでギリギリセーフか。天気は雲一つない快晴。三浦半島、相模湾、伊豆半島、富士山の上空を通過する。まるでGoogle Earthのようにくっきりと見える海岸線をなぞっているうちに眠りに落ちた。

   
 

澄み渡る空。流れる雲。風にそよぎキラキラと輝く萱の群生から、綿毛のような種子がふわりふわりと飛んでいく。1週間前の窓山での風景がよみがえる。稲刈り、おこぜまつり、デザイン会議、白神山地ツアー。地元の人たちにしてみれば、とりたててどうということのない日常の「なにもない」風景の中で、共有した情感。家に帰って見つけた上着にくっついていた種子のように、訪れてくれた人々の心のどこかに残ってくれただろうか。

   
 

目が覚めるともう着陸態勢に入っていた。天候は曇りときどき雨。でも空は明るい。到着するまでには晴れそうだ。タラップを下りると生暖かい空気に包まれ、一気に汗ばむ。(それもそのはず10月中旬を過ぎたというのに、この日の最高気温29°!)空港カウンターで千代田さんの忘れ物を受け取り、特急で北上すること1時間、なつかしの日向市駅が目に飛び込んできた。去年の9月にはまだ整備されていなかった駅前広場に、様々な杉屋台や出店が建ち並ぶ。改札を抜けると、杉コレ最終審査に残った作品がところ狭しと置かれている。思い思いに座ったり、触ったりして楽しむ人々でごった返す中に、スギダラ法被をまとうWCコンビの若杉さん、千代田さんを発見。もう始まるはずなのになぜかステージ裾で人待ち顔。どうやら審査員のお一人である南雲親分が遅れているらしい。小一時間ほどして、いよいよ最終プレゼンテーションが始まった。

   
 

宮崎県はスギの生産量ダントツで日本一。かつて天然杉で活況を呈した秋田県も戦後の植林で蓄積量では日本一らしいが、生産量では大分、熊本に次いで第4位、しかも年々生産量は右肩下がり。スギの需要を増やし、流通システムを改善しない限り、循環利用できる資源としてのスギに未来はない。杉コレを視察にきたのは、スギの持続可能性を探るためだ。
スギの需要開拓の取り組みとして、通常よく行われるのが、「ブランド材」の認証制度の導入である。その多くが住宅資材としての需要を拡大しようとするものだ。しかし住宅着工戸数の減少が止まらない上に、姉歯耐震建築偽装事件をきっかけとした昨年6月の建築基準法改正(改悪?)によって建築確認や構造計算が厳格化され、日本の伝統構法や木の建築は崖っぷちに追いやられようとしている。
このままでは、せっかく時間をかけて育ててきた杉も、木質バイオマスの燃料や木質ペレットに加工されて燃やされたり、バイオエタノールを生産する原料としての道しか残らないんじゃないだろうか。そんなバカな、と思われるかもしれないが、杉の家が一軒もない街並なんてもうずいぶんと前から当たり前の風景だし、杉の製品を使っている家庭が(スギダラ家以外)一体どれほどあるというのか?

   
 

杉コレ最終プレゼンの会場は若千代コンビの繰り出す軽妙なMCに沸き上がっていた。油断していると「今日は、なんと秋田からもお越しいただいている杉フリークがいらっしゃいます、ぜひコメントを」などと無茶振りされる。ステージ上には窓山で見た稲掛けの風景が広がっていた。稲刈りを終え天日干しされた稲が並ぶ豊かな秋の風景をイメージしたという作品「MINORI」。提案した佐藤広貴さんのご出身が秋田だとか。イベント広場やお祭会場の入り口に置く想定だという。是非、秋田スギで作っていただいて、秋田駅前とかに置いてみたいものだ。「くぐって見てください」という呼びかけに、内藤先生と南雲さんが「稲穂」ならぬ「杉穂」を手に取り「巨大菜箸みたいだな」「ヌンチャクにも使える!」と楽しそう。今回の杉コレのテーマは、思わず欲しくなる杉の大道具たち「杉でつくる幸せ空間」。原寸大で主催者がデザイン提案を製作してくれるというプレゼンテーションはわずか2時間ほどだったが、楽しく幸せな気分にしてくれる杉の大道具の数々をじっくり堪能することができた。

   
 
  作品「MINORI」から、顔を出す内藤先生。
 
  内藤先生と南雲さんが「稲穂」ならぬ「杉穂」を手に取り、なにやら悪巧み。
 
  「巨大菜箸みたいだな」「ヌンチャクにも使える!」とっても楽しそう
 
 
佐藤広貴さんが、自らの作品「MINORI」をプレゼンする。佐藤さんは秋田出身。
   
 

スギダラ活動はいつも熱い。そして楽しい。杉の未来への可能性を感じる。今回もたくさんの元気をもらってきた......はずだった。秋田に帰ると、現実に立ちはだかるあまりの問題の多さ、根深さに暗澹たる気持ちになって、やる気がぐんぐん吸い取られる。杉コレに思い描いた未来予想図にも、どこからか「そんな絵に描いた餅じゃ食っていけない」という声が聞こえる。確かに絵に描いた杉じゃ食っていけないけど、それなら杉で描いた絵ならどうだろう?なんだか謎掛け問答みたいになってきた。突破口はあるはずだ。それを確信する旅が、秋のスギダラまつり弾丸ツアーin白水だった。

次号につづく。

   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
   
 
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