連載
  スギダラな人々探訪/第35回 「自分の会員証は自分で作ろう会」
文/   千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 
  今回の参加メンバー。左から本部事務局スタッフの下妻・千代田・山田、山田恵子さん、五島史士さん、藤崎均さん。富士山の見える見晴し台での撮影であるが、後ろに見えるはずの富士山は飛んじゃって見えない。
   
  この話はウチダラ洋行の新製品フェアの時に南雲さんの友人でデザイナーの浦田進一さんとそのお仲間のお二人、デザイナーの五島史士さん、木工をやっている藤崎均さんが来てくれたところから始まる。
   
  浦田さんは南雲さんの東京造形大の時の同級生で、日用品や家具のデサイン、インテリアのデザインをなさっていて、事務所の名前が「IKA STUDIO」という。
イカしたデザイン? イカれたデザイン?
デザインはイカしているが、ご本人はイカれているかも・・・うそ!
最近本人は、人・技術・伝統を「活かす!」デザインと語っているらしい。
妄想癖のあるイカしたデザイナーです。
http://www.ikastudio.jp/
   
  五島さんは、芝浦工大を卒業後、イタリアミラノで現地のデザイン事務所を渡り歩きながら、フリーランスでデザイン活動を始める。帰国してならともかく、イタリアに居ながら独立して活動をしていたとは驚きである。2年前に帰国し、日本でもフリーランスでデザインをやっている。
実は五島さんはウチダラ洋行に来てくれる前に「杉モノ・デザイン展」にも来ていただいた。本当にフットワークのいい人だ。スギダラにはそういう人が集まりやすいのかな?
http://homepage2.nifty.com/gotodesign/index.htm
   
  藤崎さんは五島さんと同じ時期にイタリアで家具職人になるべく修行をし、かのエンツォ・マリさんの事務所で働いていたそうだ。イタリアで職人修行というのはとても珍しいというか、相当困難そうなイメージしか沸かない。事実、ご苦労も多かったと思うが、現地で自分で仕事も取って生計を立てていたと言うから驚きだ。
今は帰国し、相模原藤野町の山里で工房を構えてらっしゃる。
もちろん、浦田さんや五島さんがデザインするものの製作もやっている。
   
  で、そんなイカれた男たち、いや素晴らしいものづくりの仲間たちが来てくれたのだが、五島さんと藤崎さんは来る前にスギダラ倶楽部にも入会してくれている。浦田さんはその時点では登録してくれていない。
ウチダラ洋行の案内後、酒の席で会員証はまだ届いていないと聞かされる。それもそのはず。実は会員証用の杉材のストックが底をついていて、出せていないのである。
   
  この場をお借りして謝罪させていただきます。会員番号7??番あたりから在庫が無くなっていたらしく、まだ発送できていません。登録済で心あたりのある方、まもなく発送できると思いますので、どうかお許しください。
   
  そこで、思いついたのが今回の企画である。見るからに人の良さそうな藤崎さんに会員証づくりに工房にお邪魔していいか、お願いしてみる。
見た目だけでなく本当に人のいい藤崎さんは快諾してくれた。山里で工房をやっていること自体、好奇心もあったし、製作をお願いするのではなく、我々も工房にお邪魔して藤崎さんの仕事っぷりを見せていただき、一緒に製作させていただくこととなった。
   
 

日程もその場で決め、本部から行くメンバーもめぼしを付け、その後メールで段取りを打ち合わせさせてもらうのだが、「自分の会員証は自分で作ろう会」のスケジュールも藤崎さんが立ててくれるという、至れり尽くせりの対応だ。
笑えるそのスケジュールは、近くの温泉に入りにいったり、ほぼ日帰りできないであろうことを前提としたものだった。初めて訪問したところに泊り込むなんて、さすがの僕でも考えていなかったのだが、結局はご厄介になることになる。一宿一飯とは言うが、一宿三飯である。藤崎さん、本当に何から何までありがとうございました。

   
  では、「自分の会員証は自分で作ろう会」の様子を少しレポートしたいと思う。
   
  藤崎さんの工房はJR中央本線、藤野駅から車で10分ちょっと山に登ったところにある。その地域では一番奥まったところにある民家だ。周りは杉山と沢があって、景観的にも素敵なところだ。以前はうどん屋さんだったというその民家の敷地にはうどん用の屋台が残存していた。屋台というか小さな小屋なんだが、キャスターが付いてて移動もできる。今は古くなりすぎて移動できそうにないが・・・
   
 
  うどん屋台。立派な屋根の付いてて住宅の一部のようだが、キャスターが付いていて、動かせたらしい。ヤタダラでもこの手の屋台ができるといいなー。
   
  その脇に作業場がある。工作機械も工具も素晴らしく整理整頓されていてとても作業性が良さそうだ。昇降盤や作業台等はすぐに移動できるようにしてあり、集塵機も床下にダクトを取り回してあったり、限られたスペースをうまく活用できるよういろんな創意工夫がしてある。さすが、プロの仕事場である。
   
   
  藤崎さんの工房。恐らくいつもこのように掃除が行き届いているのだろう。気持ちよい作業場だ。
  下がり壁にはこのように工具が店舗のディスプレイさながらに整理整頓された状態で置いてある。
   
  作業に当たったのは、スギダラ本部の千代田、山田、下妻に加え、山田恵子さん(山田嫁でもちろん、スギダラ会員)、まだ会員証を持っていない新規会員の五島さんの5名。まだ会員証を持っていない藤崎さんの指導により、自分の会員証の製作も含め、製作開始。
   
   
  ■作業工程
  1.まずは、厚み60mmの杉板を15mm厚の板に分割する。自動かんな盤でほぼそのまま使える状態まで仕上げる。
 
五島さんと藤崎さんのイタリア修行コンビ。
   
  2.昇降盤(丸鋸盤)で15mm角の棒材にする。ここまでの作業は結構、危険なので、藤崎さん自身にやっていただく。テキパキとあっと言う間に下準備が完了。
 
  15mmみたいに細い材料を押し出すような作業は結構、危ない。
   
  3.15mm角の棒材を150mmの長さに丸鋸でカットしてゆく。千代田、下妻が担当。さすがに小口の仕上がりは荒いので、サンダー掛けして仕上げないといけないような状態だ。この時点で、約270本くらいの会員証用杉ダラ棒ができる。
 
  棒材を束ねてカットしていく。いい加減にやっていると長さがマチマチになるので、要注意。
   
  4.ボール盤で皮ひもを通す穴を開ける。ここからは1本1本の作業になるので、忍耐が必要だ。杉はとても柔らかい素材なので、そのまま1方から貫通させると下側の穴のエッジにバリが出てしまう。面倒だが、半分ずつ両面から穴あけをする。
 
  両面から開けてもきっちり穴位置が合うように藤崎さんがガイドを取り付けてくれた。
 
 
よく働く山田嫁。実は入会は山田よりも早い。
   
  5.サンドペーパーで表面を軽く仕上げる。今回は幸い人数もいたので小口面にもキッチリペーパー掛けすることにした。実はそれまでの会員証は鋸で切りっぱなしのままだった。小口のエッジのバリ取りも軽くやって、仕上がりはなかなかのものだ。
 
  仕上げ作業は外で。気持ちがいい。
   
  6.その後は焼印を入れる。この作業が一番手間がかかる。これまで500本くらいの焼印を入れてきた熟練工の山田君がこの作業に当たる。木肌の状態、部位によって焼き加減が異なったり、当て方が悪いと焼きが強いところと薄れてしまうところができたりと、一筋縄では行かない。いい加減にやっていると失敗作、つまり使えないものが大量にできてしまう。この歩留まりを少なくするのが腕の見せ所。いつもは治具も無く精神集中して「うりゃぁー!」とやっていたので、熟練工山田君でさえ密かに文字が傾いたり、焼き加減が均一になってなかったりすることもあったのだが、今回、藤崎さんが即席治具を作ってくれたので、位置がずれることが無くなり、失敗作は極めて少なくなった。
   
  一押入魂の山田君。ほとんど失敗無く焼印を押してゆく。さすがに過去500本ほどやってきた実績は大したものだ。   藤崎さんが作ってくれた焼印位置合せ用の治具。今後のためにおみやげでもらって帰る。
   
  7.最後に皮ひもを通して完成となるのだが、この時点で浦田さんが登場・・・という連絡が入る。小淵沢から車で駆けつけてくれたのだが、もう少しというところで、車が動かなくなるというトラブルに見舞われる。ROVER114という英国車に乗ってるのだが、時折そんな症状が出るとの事。さすが、英国車! でも、日本車では味わえない情緒というか乗り味は深みにはまりやすい。いつも時間を置けば動くようになるとの事なので、とりあえず、藤崎さんがご本人だけをお迎えに行く。
まだ、会員登録もしていないけど、会員予備軍として浦田さんには皮ひものカット作業を手伝っていただいた。皮ひもを木部に通し、電気配線用の圧着端子(アルミ製の筒状スリーブ)を留め具としてかしめて完成。
   
  着くやいなや手伝わされる浦田さん。今日は山田さん(もちろん嫁の方)に会えて良かった。を連発しながら皮ひものカットをやってくれた。   その間にも山田君の方は玄関で焼印をモクモクと押している。
   
  その圧着スリーブが100個しか在庫が無かったので、完成体はとりあえず100本仕上がった。杉棒の部分は、節があったり、焼印の失敗分をはじいて約250本くらいが用意できた。これでしばらくは大丈夫だ。より迅速に会員証の発行ができるだろう。
で、とりあえず藤崎さん、五島さん、浦田さんにはご自分の分を選んでいただいた。このご三方は自分で製作した会員証を手にすることになる。こうして「自分の会員証は自分で作る会」はほぼ予定通り完了する。
 
  自分の会員証を物色する新入会の3人。この時点で会員証を自分で作ったことは忘れているのかも。
   
  今までもそうだが、会員証としてお配りしているスギダラ棒は藤崎さんのように木工をやっている会員の方の善意によってまかなっている。スギダラを支えてゆくために必要不可欠なのが、ものづくりを実際にやっている仲間だ。実際に今回はその材料作りを本部メンバー自らやらせていただいたのだが、250本を5人がかりで半日かかった。材料はともかく、それだけの工数がかかると言うことで、今までその労力を実際にはわからずにご好意に甘えて来た。今回の経験で思いついたのだが、藤崎さんをはじめ、木工をやっている仲間がもっと増えてくると会員証作りだけでなく、いろんなワークショップができるんではないかと思う。現に浦田さん、五島さん、藤崎さんはそういう連携で共に仕事をされている。各地域にそういうものづくりメンバーがもっと増えてくるとスギダラでやれることの幅も広がってくるような気がしている。
まあ、押しかけられる方にはご迷惑かも知れないが、いい連携の仕方を模索していければと思う。
少なくとも今後の会員証作りに関しては、今回のようにご協力いただける会員の方の工房、木工所にお邪魔して、どのようなものづくりをされているのか、見学させていただくことも兼ねたワークショップツアーが開催できれば、なんて企んでいる。
   
  一通り会員証製作が終わった後は近くの温泉にみんなで入りに行った。働いた後の温泉は格別だ。
浦田さんは温泉の後、そのまま小淵沢に戻られた。果たして家まで到達できるか不安もよぎるが、浦田さんの言っていた通り、ROVER114は息を吹き返し、とりあえず藤野を後にした。
   
  藤崎家に戻って、おいしい鳥鍋をご馳走になりながら、杉談義で盛り上がる。一通り食べ尽くした時には12時近くになっていて、もう電車も無い。藤崎さんのスケジュール通り、泊めてもらうことにした。
鳥鍋で盛り上がっている時に、浦田さんからは無事小淵沢に到着の連絡があり、ほっとする。
翌朝の朝食まで含め、本当に何から何までお世話になって何とも快適で楽しい会員証製作会になった。その場でものが作れるって何て素晴らしいんだ!おまけにみんなで鍋を囲んで杉談義。なんて楽しいんだ!と痛切に思う。
   
  藤崎さん、東川さん、本当にお世話になりました。用意していただいたうどんに鳥鍋、塩辛もとっても美味しかったです。わざわざ自分の会員証を作りに来てくれた五島さん、浦田さん、本当にありがとうございました。この仕返し?、お返し?に今度は食材、寝袋持参でご訪問させていただきたいと思います。って、またご厄介になるつもりなので、ヨロスギお願いいたします。(ち)
   
 
  富士山の見える高台に日の入りを見に行く。
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 
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