連載
  杉と文学 第11回
『The Life And Adventures of Santa Claus』 サンタクロースの人生と冒険
Lyman Frank Baum 1902年 (今回おまけはお休みします)
文/写真 石田紀佳
   
 

杉が出てこないとは思っていましたが、きっとモミの木とか針葉樹がでてくるのではないかと読みました。「オズの魔法使い」を書いたライマンフランクボームの作品で、田村隆一訳。
杉はでてきませんが、クリスマススギーを今年もつくるでしょうから、今回は杉なしでお許し下さい。

サンタクロースがいるかいないか、子どもにとっては重大です。親にとっても重大かもしれません。わたしももし子どもがいたらどうするかなあ、とときどき思います。
最初から「いない」としている家庭もあるでしょうが、わたしは「いる」ということで育ちました。通っていたナースリースクールでそのように聞いて、じっさいにサンタクロースもやってきたので、ほかの子どもたちと違わずわたしもあの白ヒゲのおじいさんに魅了されたのでしょう。母はクリスチャンではあったけど、そういう宗教的なこととは関係なく、クリスマスツリーを飾って、そこにほしいものを書いてぶらさげました。
サンタはお風呂場の煙突から入ってくるのだと聞いたし、ときには父が「あー、今、窓の外にさかさまになってツリーをのぞいている人がいた!」とか、プレゼントをもらってうれしくて朝に父のベッドにいって見せると「そういえば夜に鈴の音がきこえたけど、あれは……」などといってくれました。

バカな私は小学校三年のときに引っ越した先で、女番長みたいな人から「サンタなんていないよ、いるならカセットテープレコーダーをたのむわ」とか現実的なことをいわれましたが、断固いるといいはって、仲間はずれにされました。

でも六年生の冬に、なにか母とけんかをして、「サンタクロースなんていいひんよ、今年はプレゼントはない」と告白されてしまいました。うすうす気づいていたことですが、直接いわれてショックでした。自分はいいけど弟や妹ももらえないとなると、急にお姉さんぶって彼らが心配になりました。近所には一件だけマミーショップというお菓子と雑貨が売っている店があったので、そこでプレゼントを買うことを決めました。
買いにいった日は雪嵐で、店にはいってもろくなものは売っていません。しかたなく、ありふれたお絵描きノートを買いました。雪にぬれてノートの表紙がぶよぶよしたのを今でもおぼえています。けっこう絶望的な気持ちになりながらうちにあった紙でつつんで弟たちの枕元におきました。
朝になって、それほど彼らは喜ばないし、姉がおいたことに気づいているみたいだし、サンタにたいして私ほどの期待がないことを知りました。
ほんとうにがっかりでした。でもそれが私にとって大人になっていく境目だったようです。

サンタクロースの冒険を読んで、あの日のことを思い出しました。
そしてやっぱりサンタクロースっていいな、と思いました。ライマンフランクボームによるとサンタクロースはキリスト教とは関係がなく、深い森の妖精たちと関係があるのです。
この物語は、サンタクロースのことだけでなく、森の木や花、水や動物たちと、人間のつきあい方もでてきます。
作者はこどもが心底大好きだったのでしょう。それは次の文章でわかります。
「子どものいいところは、時としてききわけがなくなることです。そしてききわけのない子がいい子、というのはよくある話。」

小さなお子さんがいるお父さんお母さんにはぜひ読んでもらいたい一冊です。

   
   
 
   
 
 
実生杉と檜
   
   
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/
ソトコト10月号より「plants and hands 草木と手仕事」連載開始(エスケープルートという2色刷りページ内)
   
 
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