「はだの里地里山保全活動団体のつどい」に参加して
文/写真  南雲勝志
   
 

10月18日、秦野の里地里山関係者のシンポジュウムに呼ばれ参加してきた。

その日は日向で杉コレが行われる前日で、日向市駅が鉄道関連の世界最高賞ブルネール賞に選定され、その授賞式や特別審査員山田洋二映画監督を迎えての前夜祭が予定されている。初めは僕も前日入りの予定であった。さぞかし盛り上がっているだろうな・・・などと思いつつ、一人(正確には出水がいた。)秦野に向かった。当初若杉さんや千代田さんも参加依頼があったのだが、杉コレの名司会の二人は顔合わせと下準備を兼ね、前日入りが条件だったのだ。

駅で出迎えてくれたのは竹田純一さん。ご存じの方も多いと思うが、秋田窓山でずいぶんとお世話になった。里地里山の専門家である。最後にお会いしたのは窓山で行ったコンペの表彰式の時だから一年半ぶりの再開だ。 相変わらず元気そうだ。

    
秦野というところ、実は始めて訪れた。時間がないこともあって下調べも全く出来なかった。ただ本誌連載陣の一人石田紀佳さんの別邸があって、ちょくちょく農作業をしているので名前は記憶にあった。それくらいの知識しかなかった。
竹田さんの説明によると、秦野はまち全体が周囲に山を囲まれた大きな盆地であり、地下水が豊富で、水があちこちで湧き出ている。逆にまちなかの川は水が枯れ、名前も水無川という。丹沢の表玄関であること、以前はたばこの産地で知られたが、杉と同じく経済効率が悪くなり、現在は栽培されなくなった。変わってお茶や落花生などの栽培が盛んということなどを教えてもらった。
駅周辺は都心近郊の姿を見せながら、車でちょっと山に向かって行くと、途端に田舎の里山風景になる。但し斜面が南斜面のため、山は陽が当たり、雰囲気も明るい。この辺も人が集まる原因であろう。
 
  秦野市空撮:秦野市HPより
 
  秦野の里山
 

加えて都心からの近さがある。新宿から小田急線で約1時間、車だともっと早くて45分程度で到着する。 里地里山を応援する人も、山に行く人も、学者、研究者もとにかくちょっと秦野までの感覚でいける。 先日訪れた秋田窓山などに比べると本当に身近で、気楽いける田舎だ。

何でも里山整備ボランティア団体が市内に21団体あり、都内や横浜・川崎からも参加されているそうだ。また、森林整備にも、遠くは福井や山梨から応援に駆けつけるという。そんな事で里地里山の再生、保全の活動では全国トップレベルにある。何でそんなに人が集まるのかその理由も知りたいところだ。また、平成16年度より、秦野市は環境省の里地里山保全再生モデル事業のモデル地域に指定された。今回のシンポジュウムもその一環の活動だ。
たばこ畑や茶畑を見ながら、窓山のWS&デザイン会議のこと、佐渡のトキ放鳥のこと、秦野のこと、いろいろ聞いているうちにあっという間に今日のセミナー会場、市立「表丹沢野外活動センター」に到着する。 キャンプ場、バーベキューコーナーを通り抜けたところに研修センターがある。 ずいぶんと立派な施設だ。竹田さんによれば、当初コンクリートや鉄骨を使った設計であったが、全部やり直し、オール木造にしたという。加えて暖房や給湯には、間伐材などの木質資源を使用する木質バイオマスボイラーを設置してかなり効率の良い建物らしい。

さて、少し休憩してセミナーが始まる。
参加者は、主催者であるはだの里山保全再生活動団体等連絡協議会のメンバー50名程度。「表丹沢・地場産材活用シンポジウム」と題し、秦野市の木材の普及を広く目指していこうというものである。前提として来年、秦野の間伐材を使用した全国コンペを予定している。そして平成22年(2010年)には全国植樹祭も予定されている。それらを踏まえ、秦野らしい間伐材の使い方を考えようというのが主旨である。

 
 
      セミナーの模様
  とても感じのいい気さくな古谷市長の挨拶の後、セミナーを行った。タイトルは「日本全国スギダラケ倶楽部の誕生と杉という素材の活用と未来」というもの。これは僕が考えた訳ではなく、竹田さんに決められていたものだ。いつものようにスギダラに至る経緯や、全国の活動内容、そして杉が持っている可能性などを一時間ほど紹介した。
続いて竹田さんが司会進行を務め、市の森林づくり課の相原さん、活動団体を代表して古谷会長(実は市長と親戚)を交えパネルディスカッションを行った。
 
普通ならじゃあ、秦野はどんな杉の活用をしていこうか?となるわけだが少し様子が違った。話を良く聞くと秦野の山は杉などの針葉樹よりも広葉樹の方が多い。だから間伐材もクヌギ、コナラなどの広葉樹、そして竹が最初に候補に挙がってくる。その次に杉という感じだ。いつも間伐材というと真っ先に杉を思い浮かべるものだから、少し面食らった。

パネルディスカッション後の自由討議ではさすがに地元当事者、実に多くの意見が出た。
直感的に思ったのは、間伐素材といっても樹種や種類がたくさんあり、しかも美しい里地里山がある。この二つを結びつけたら、秦野らしい今までにないコンペが出来るだろうということだ。今後コンペの内容は詳細を詰め、全国に公募する。スギダラの皆さんもぜひ参加して盛り上げて欲しい。

セミナー修了後、日向市行きもあり、ゆっくりしたかったが、慌ただしく帰路につく。駐車場から眺めた秦野の風景は「大きな窓山だ!」と思った。美しい景色だ。
秦野の里山はいろんなポテンシャルを持った魅力的な場所だ。「今回はバタバタでたが、ぜひ今度、近いうちに仲間を連れて改めて来ますね!」そういって別れを告げた。
 
パネルディスカッションの進行、竹田純一さん
       
 
  表丹沢野外活動センターの駐車場から秦野市街を見る。「大きな窓山だ!」
 

その近いうちの予定が決まりました。12月5日(金)の夜から6日(土)かけて、スギダラ忘年会+秦野里地里山ツアーという形で実践します。宿泊は前述の表丹沢野外活動センターで郷土料理付きで格安料金で! 堪能できます。翌日は秦野の里山を市の方にバスで案内してもらいます。
全国のスギダラの皆さん、広く安く奇麗な木の宿で今年最後の締めくくりしましょう。もちろん秦野市の方や竹田さんも参加します。金曜の仕事が終わったら、小田急線で駆けつけましう! 詳細は改めてスギダラケの人びとから千代田さんより報告があります。

参考
表丹沢・地場産材活用デザインコンテスト要項(案)
秦野里地里山(里地里山保全再生モデル事業 神奈川秦野地域 事務局)
はだの里山保全再生活動団体等連絡協議会

   
 
  表丹沢野外活動センター宿泊棟(左)、活動棟(右)
 
 
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所 代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
   
 
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