特集スギダラ関西
 

春の京都北山杉ツアーを振り返って

文/写真 石橋輝一
 

4月にスギダラ関西で行った「京都・北山杉ツアー」を振り返ってみたいと思います。それにしても、あれからもう半年近く。早いものです。

今春、Mori田さんこと建築設計室Morizo−の内田利惠子さん主催の「もくちくフォーラム」のゲスト講師に、南雲さん、若杉さんをお迎えしました。その模様は内田さんのレポートにお任せするとして、せっかく来て頂いたので、杉ツアーをやろう!と考え、しゃべり杉爺さんこと京都女子大学の高桑先生にお願いして、関西の林業地として有名な京都・北山杉ツアーを企画しました。

北山杉は磨き丸太の代名詞とも言える一大産地です。磨き丸太はいわゆる和室の床の間の床柱に使う材料で、僕の北山杉のイメージもまさにその通りでした。しかし、一番驚かされたのは「台杉」でした。ツアーの最初に藤田林業さんの育成中の台杉を見学させて頂いたのですが、最初の印象は「これは杉なのだろうか?」という驚きでした。

   
  
台杉
 
台杉です。いつもよく見る杉と大きく異なる姿に驚きました。人間の知恵と杉の生命力の結晶です。
   
 

1本の幹から何本もの細い幹が出ています。太い幹1本が真っ直ぐに空に向かって伸びている、いつも見る杉とは全く違う姿に戸惑いました。幹の株に近い部分だけを残して、そこから伸びてくる細い幹が製品となるわけです。この細い幹は茶室などの数奇屋普請の建築に用いられる化粧垂木として使われてきたそうです。

細い幹を伐り取ってしまうと、また株の幹から萌芽し、それを伸ばして伐採。その繰り返し。さらに成長を抑制する為に、細い幹に生える枝葉を先端部だけ残して、あとは切り落とすそうです。光合成が抑制され成長が遅くなる事で、年輪が密になるわけです。

杉自身にとっては、かなりの厳しい環境です。伐られても、枝葉を取られて、また伐られて。それでも頑張る杉のスゴさに感服です。まさに“Mスギ”!。こんな育林技術をよくぞ編み出したものです。この育林方法は「台杉仕立て」と呼ばれ、木が生活や文化と密着していた時代に生まれた、素晴らしい財産だと思います。

   
 
400年の台杉
  川端康成が見た、推定樹齢400年の台杉。写真で見ると遠近感がおかしくなりそうですが、細い幹は全て株の太い幹から生えています。ものすごい生命力。
   
  続いて、磨き丸太や桁丸太の製造をされている銘木京都屋さんにお邪魔しました。桁丸太とは、その名の通り、桁に使用する丸太です。磨き丸太の用途は床柱が多いので、長さは3mが一般的ですが、桁丸太は10m以上の材が多いです。
   
 
  到着すると、工場の敷地一面に10m以上の桁丸太が桟積み乾燥されており、圧巻でした。
   
 

磨き丸太は、木肌をそのまま見せる丸太ですので、木の皮を綺麗に剥く必要があります。一番外周面の分厚い皮は鎌などの刃物で剥きますが、内側の薄い皮は刃物で剥くと木肌に傷が付いてしまう為、水圧を利用して剥きます。ハンドタイプの散水機から水を噴射させて、薄皮を剥いでいきます。これは冬の吉野でもよく見られる光景ですなのですが、京都屋さんの皮剥きはスケールが違いました!

自動桁丸太皮剥き機です。製材所では一般的なカットバーカー式皮剥き機と同じような形なのですが、バーカーの部分が水を出す装置に変わっています。磨き丸太の製造は冬場ですので、寒い時期に冷たい水を使う作業は大変だという事で、京都屋の久保さんが開発された機械だそうです。

   
   
  自動桁丸太皮剥き機。皆、身を乗り出して、見ていました。
   
 

皮むきの実演をして頂きましたが、見事に皮がめくれ、美しい木肌が出てきました。艶っぽくて本当に綺麗でした。

   
 
  皮剥きの途中段階です。薄皮の奥からは美しい木肌が顔を出しました。
   
 

4月の京都・北山杉ツアーに参加して、吉野の同じような問題を抱えていると感じました。

台杉の育林は約600年前の室町時代まで遡るそうで、京都の「茶の湯」の流行が後押しをし、数奇屋造りに欠かせない垂木丸太として重宝され、全国でも類を見ない台杉が発展したわけですが、日本の住宅様式の変化、和室の減少などの要因により、この台杉が失われつつあるそうです。台杉仕立てから、経済効率優先で「丸太仕立て」と呼ばれる、いわゆる磨き丸太の生産の方にシフトが進んでいるという事です。

しかし、この磨き丸太の場合も和室の減少により、需要が落ち込んでいるそうです。吉野は磨き丸太の産地でもあるので、この状況は身近に理解できます。磨き丸太が主に使われるのは和室の床の間の床柱です。現在の住宅では和室自体が減っており、床の間のある本格的な和室となると本当に少ないのが現状です。色々な形での木使いを考え、その特性を活かせるような創意と工夫を、他業種との連携の中で模索する必要があります。吉野でもそうですが、山側だけで解決できるような時代ではなくなっていると思います。

何十年、何百年もの歳月をかけて育んできた山の歴史と文化を引き継いでいく責任と難しさは、おそらく日本のどの林業地にも共通するテーマだと思います。

その答えはすぐには見つからないし、また見つからないかもしれません。手探りでも日々探し続けるほかありません。他の林業地にお邪魔して、現場を拝見し、お話を伺う度に強くそう思います。がんばれ、北山杉。吉野もがんばるぞ!

北山杉ツアーでお世話になった皆様、ありがとうございました!

   
   
   
  ●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。
杉歴3年。杉マスターを目指し奮闘中!
吉野中央木材ホームページ http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewoodもよろしく!ほぼ毎日更新中です。

   
 
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