今年の企画を先生達と企画しているときに、仲間のデザイナーの浅野さんが紙飛行機の会社の仕事をしていると聞いたことがあった。そして、競技用の紙飛行機を広めていて製品化し、多くの小学生や子供達に自作の飛行機が空を飛ぶ喜びと、その科学を熱心に広めている事を聞いた。そのとき浅野さんに学童で教えてもらえないか?と聞いた事があった。浅野さんは「多分大丈夫だと思いますよ」と言ってくれた。その事を思い出したのだ。紙飛行機、それも折り紙飛行機ではなく、本当の飛行機と同じ原理で飛ぶ飛行機なのである。紙飛行機のプロに学ぶこと、これは、子供達にとって記憶に残る事になるに違いない、そう直感した。
取りあえず会いに行こう!浅野さんにお願いし、厚顔無恥というか何と言うかお願いし会いに行った。
会社の社長である荒木さんは、想像したより、はるかに穏やかでキラキラ輝いている社長さんだった。彼は「先ずは作ってみましょう」というと僕らに紙飛行機のキットを渡してくれた。作るのは意外に簡単だった。しかしこれを飛ぶようにするのにコツがいる。荒木さんが先ず飛行機を飛ばして見せてくれた。それはもう感動ものだった。空気をとらえ、まっすぐに軽やかに、美しく飛んだ。そこにいた皆が声を上げた。「飛ぶ」という事がこんなにも美しく、感動的なんだと思った。
そして自分で飛ばす、なかなかうまく飛ばない。いや、それどころか落ちるだけ。荒木さんに翼の調整をしてもらう。すると驚く程飛ぶようになる。なぜ飛ぶのか説明してもらい、また飛ばす。しかしまた飛ばない。そうなのである。飛ばし方にもコツがいる。重心近くを持ち、遠くに向かって力まずに。なかなかうまくいかないのだが、ある瞬間にイメージ通りに飛んでくれる。「お〜」思わず声が出る、そして走って取りにいく。何回も、何回も繰り返す。みんなとても目が輝いている。こんなにも単純で楽しいことがあったんだ。きっと大空に向けて風を感じ飛ばしあったらもっと楽しいだろうな、そう思った。
彼は30年前に二宮康明先生(工学博士)の作った紙飛行機に魅せられ製品化を志す。しかしなかなか簡単には売れない。おまけに1機350円、もうからない。
しかしこの製品には夢がある。本物の飛行機と同じ原理で出来ている。翼の調整と飛ばし方そして、風をよみ、紙飛行機に乗ったつもりで空を舞う。
大人も子供も同じ立場で語り合える。この飛行機を通じて科学を知り、人間の英知や自然に通じることが出来る。彼はこの飛行機を売ることだけではなく、数々のイベントや競技会を企画し楽しむ仲間をつくっていった。こうなりゃ、もう仕事か、ボランティアか解らない。28年もの間、よく続けてこられたものだ。感心を通り超え感動さえしてしまう。その間にも飛行機は、改良に改良を重ね現在に至っている。
小学生4年生以上でないと難しいこの飛行機を1年生から3年生までの子供達が作り飛ばすことが出来るかどうか心配だった。事前に先生達と、みんなで練習をして、本番に臨んだ。学童に着くと子供達は期待で目が輝いていた。あのやんちゃ小僧達が真剣に荒木さんの話を聞いていた。そして一つ一つ丁寧に飛行機にデザインをして作り上げた。そして、羽を調整し、テスト飛行。荒木さんは一人一人の飛行機を調整し飛ばして見せた。飛んだ瞬間、みんなの歓声が上がった。そして誇らしげに飛行機を取りにいく。羽を真剣に見て調整し、飛ばす。彼らの心はもう飛行機に乗っている。
さあ、今度は外で飛ばしてみよう。
もう、大はしゃぎだった。やっぱり飛行機は外が似合う。大空で舞う飛行機は美しい。しかも自分のつくった飛行機だ。大人の僕たちだって楽しい。
自分の飛行機が空を飛ぶという、この単純きわまりない行為が、とても意味のある豊かな時間に変わっていく。僕たちこそ新ためてこの感動を知ることが出来た。まだまだ豊かさが残っている。それを発見し、伝えなければならない。
荒木さんは最後に子供達にこう言った。「皆さんが飛ばした飛行機は本物と同じ原理で空を飛びます。ライト兄弟が考え、わずか100年で宇宙まで行けるようになりました。この飛行機を通じて、皆さんがいつまでも夢を持ち続ければ、いつかこの中から宇宙飛行士だって生まれるかもしれません。ぜひ忘れないで頑張ってくださいね。」なんだか富高小学校と一緒じゃないか、やっぱり、どこか繋がっている。この不思議な出会いもそうだが、彼の活動は何か同じにおいがする。僕が感動したのは、多くの企業がビジネスと社会貢献を繋げられずにいる中で、彼の活動は社会活動そのものがビジネスの線上にきちんと置かれているということだ。それは簡単ではない。新しい価値創造活動だからだ。モノを創るだけではすまされない。仲間をつくり、ファンをつくり、支えるチームがいる。このコミュニティーが形成されて始めて価値が生まれる。新しい関係を築き上げること無しでは成立しない。
そんな新しいことを、よくも28年前から28年間も続けてこられたものだ。本当に敬服に値する。世の中には大企業や行政がやれない本当のことを、真っ当に、真摯にやり続けている本物がいるものだ。これからはその本物同士が繋がる時代になるに違いない。すごいことになりそうだ。楽しくなって来た。
荒木さんはスギダラの活動を聞いて、そして色々な家具やインテリアを見てとても喜んでくれた。それどころか「若杉さん、僕も杉の製品や玩具を商品にしたいと思ってるんです。自分の古里のことや昔の生活を思い起こすと、杉を通じて貢献したいと思うんです。ぜひ仲間に入れてください」と仰った。
なんと、ありがたい、いやいや仲間なんて僕らの方こそ仲間に入れてください。いやいや、教えてくださいって感じである。7年前ほとんど妄想に近かった杉のプロダクトが今、色々な形で製品になろうとしている。それは杉を通じて新しい価値や未来が開けようとしている瞬間なのだろう。僕は、そんな仲間や、業界を超えて繋ながっていく不思議な力に感動すると同時に、多くの仲間とともにこの中にいることにとても感謝している。
この不思議な関係から、織り成す価値はきっと豊かな未来に通じているに違いない。また素晴らしい人に出会ってしまった。
荒木さん本当に有り難うございました。(この素敵な出会いに感謝して) |