連載

 

スギダラな人々探訪/第29回(栗元 幸子さん)

文/ 千代田健一

杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。

 
 

今回はスギダラならぬ「ギンダラ」をご紹介いたします。
読者の中には薄々?ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、日本全国ギンダラケ倶楽部という、スギダラのパクリじゃないか!と思えるコミュニティがあります。それもそのはず。その設立のバックグラウンドにはスギダラ3兄弟がいたからです。
で、そのギンダラにはこれもパクリのようにギンダラ3姉妹という素敵な女性たちがいて、今回はその姉妹の長女、クリギンこと栗元幸子さんにギンダラの紹介とスギダラの接点を書いていただきました。
もちろん、栗元さんはスギダラ会員で、スギダラの広報活動まで水面下?でやってくれているスギダラ活動家でもあります。スギダラにはこういう発展形もあるということで、栗元さんのものづくりに対する熱い想いをご一読ください。ちょっと暑苦しいかもしれませんが、それもスギダラな人々との共通点かな?(笑)(ち)

   
 

 

 
   
   
 

スギダラウォッチャーのギンダラ長女

 
文/ 栗元 幸子
   
 

私は福岡の天神で手工芸材料のショップと様々な手工芸教室を経営しています。
いわゆる手芸店と異なるのは、毛糸や布、手芸はなく、皮革、液体樹脂(レジン、ポリウレタン)、シリコーンやFRP、各種粘土、銀粘土、ペイント用木製品、組み立て用二足歩行ロボットのアルミ素材やモーターとそれぞれの製作用具等を扱っています。多分日本でもこんな「素材屋」ともいえる偏った品揃えはうちだけだと思います。

こだわりは「完全にオリジナルだから、たった一つの手作りの価値がある」ということです。
難しいから面白いし、本気でやるなら教室で基本をしっかり学んでもらって、自分のこだわりを形にしてほしいと思っています。何をどう使うかは自由で、いろんな素材をいかしてほしいし、見るだけで創作意欲をかきたてられる・・・と言ってもらえるのが幸せです。

ものづくりの楽しさを多くの方に知ってもらうための出張講習も行っています。
福岡市との取り組みで、少年文化会館で毎月第2土曜日に小学生対象に10種もの手作りを10テーブルに分かれて朝から夕方まで指導していました。子供たちはわずかな材料費だけで好きな手作りをいくつも回って作ることができます。一番多い日には市内の子供会がバスで乗り付け、延べ1000人を超える子供たちが参加してくれたこともありました。

子供病院への慰問もしています。今年は2足歩行ロボットを持ち込み、小島よしおの動きをしてみせて子供たちにも親にも大うけでした。新聞やテレビでも「オッパッピーロボ」と紹介され、子供たちの笑い顔が一緒に映っていました。

また、全盲の方や半身麻痺の方、麻薬を断って社会復帰を目指している方たちへ、リハビリとしての手作りを楽しんでもらいに講習にでかけています。
指先を使う手工芸は、脳を活性化させ、運動機能の回復や集中力を持続させる訓練、精神的な喜びや完成させることへの自信など、心身に多くのプラスの効果を上げる事が医学的に確認されていて、作業療法という治療として病院や老健施設などでも行われています。

このように、ものづくりを通して、社会に貢献できることを・・・と考えていた時に、世の中では2007年問題が持ち上がっていました。

女性は器用に、ショッピングでも旅行でもグルメでも、友達とのおしゃべりでもストレスを発散させることができますが、退職された男性はそれまで40年近く、仕事に費やしてきた日中の約10時間の過ごし方に戸惑いながら、その後20年もの時間を過ごすことになります。エネルギッシュに働いていた人ほど、その落差に気落ちしてしまい、なかなか現実を受け入れられない・・・でもそんな精神はストレスになり、病気を引き寄せてしまいます。
「退職後の男性をホームリハビリで、活力を与えて元気にしよう・・・!」
そんな思いがスギダラの方たちとの出会いに繋がったのです。

団塊の世代の男性はお洒落だから、純銀粘土PMCで作れる「銀の使える道具」はどうだろう?灰皿とか、ステーショナリーとか、趣味の道具とか。
使う道具にはそれぞれこだわりがあるから、この世にないものは自分で作っても欲しくなるだろうし、使う楽しみもあるし、人に見せて会話のネタになる。
「そうだ、プロダクトデザイナーの方に何か作っていただけないかな?」

そして私が企画したのが、これまでにない純銀粘土の作り方を紹介した本の出版でした。
純銀粘土PMCとは、三菱マテリアルが世界で初めて作った、純銀の微粒子にバインダー(糊のようなもの)を混ぜ合わせて粘土状にしたもので、造形後、乾燥させて焼成すると、バインダーが焼失して純銀だけが残る・・・という、型がなくても貴金属が作れる画期的な発明品です。

本に掲載する作品の作者としての条件は、現役でバリバリ働いている40〜50代の男性で、銀粘土は初心者。ものづくりにこだわりを持つプロダクトデザイナー。
そんな作者を探す目的で、希望の条件をジュエリーデザイナーでPMC講師の南雲理枝先生に相談したところ、推薦してくれたのが鞄燗c洋行の若杉浩一氏だったのです。

「若杉氏の事なら、スギダラの月刊杉の彼のコラムを読むといいですよ!」そう南雲勝志氏から伺って、お会いする前にスギダラのホームページを読み始めました。そしていつのまにか私は「スギダラウォッチャー」になってしまったのです。

まずトップページから「スギダラとは」を開いてみると、私が幼児期、ここの画像の風景の中で育っていたことを思い出しました。「お山の杉の子」も口ずさめますし、近所の揚げ菓子工場がこんな杉の建物でした。紙芝居が来ると姉と走って行って、5円で水あめを買って食べるのが楽しみでした。そんな幼児期の記憶が不意に蘇り、この時代をリアルに感じられるということだけでスギダラがとても身近に、そしてその主旨にも賛同できました。

南雲氏の杉の家具にも刺激されて、ものづくりの本能が働き、スギもの作ってみよう!・・・と、早速近くのホームセンターに杉を買いに行きましたが、そこには手で触れないくらいに表面が荒れた10センチ角で1,8メーター位の汚れた角材しかありませんでした。輸入材はそのまま飾れる位に表面もきれいに加工されて、いろんなサイズで揃えられているのに、杉は素材として加工も販売もされてないんだ!こういうことか。
ほんの小さなことですが、スギダラの問題が私の中で実感として捉えた瞬間でした。

若杉さんの第1号からのコラムはとても面白くて、内田洋行での過去のスギダラ活動にまつわる様々な出来事に、一緒に一喜一憂できるほど感情移入していました。

富高小学校の杉屋台の授業については、プリントアウトして読みました。感動したので、何部もプリントして大切な人に配って読んでもらいました。
ものづくりの根本にある人と人との信頼関係と、ひとつの目標を掲げて達成させる喜びは、そのプロセスでどれだけ多くの人を巻き込んだかによって、そのマンパワーの分だけ大きな感動を呼び起こします。しかもグッドデザイン賞に輝いたことは、子供たち一人ひとりの人生に大きな自信となって、これからも夢に向かって頑張れる力になったと思います。

スギコレもスギダラ宮崎発信のプロダクトデザイナーの登竜門になりつつありますね。100立方メートルの杉材を用意!なんて度肝を抜かれます。実際、設計図を受け取ってその通りに杉を加工する技術と、それにかかる労力は計り知れませんが、スギダラの皆様と地元の方々の連携とボランティアに支えられてここまで育ってきたイベントだと思います。そして受賞作品がちゃんと町に残され、空間を楽しませてくれるところがとても魅力的です。早く日向駅であのいすに座ってみたい・・・と思っています。

スギダラの支部活動も本当に充実していて、お互いをたたえあいながら仲良く、そして刺激しあって自分たちのテーマに真剣に、そして楽しく取り組まれていますね。

この倶楽部はスギダラ3兄弟のみなさんの、杉とまちと人を愛するやさしい心がしっかり根幹にあって、イベントのたびに出会った多くの人がその想いに共鳴して広がっているような気がします。各支部のブログの管理者の方たちが、積極的に全体の活動に参加されて、行かなきゃ損!と思わせるものをブログで発してくださってますね。私のような「スギダラウォッチャー」には時に疎外感を感じることもありますが、まさに阿波踊りと一緒で、踊らにゃ損!なんだと感じています。(あひる踊り?)

後にギンダラ3姉妹と呼ばれることになった、南雲理枝先生(リエギン)と後田麗先生(ララギン)と私(クリギン)の3人で、去年の5月に潮見の内田洋行へ出向き、初めて若杉さん、千代田さん、南雲さんのスギダラ3兄弟の皆様とお会いしました。
まだ本の出版社も決まってない漠然とした中で、このような本を出したいこと、そのためにはワークショップを受けていただきたい事、作品を作って頂きたい事などをお話しました。
人にやさしい彼らは、こんな雲を掴むような話をちゃんと聞いてくださって、銀粘土にも興味を持って頂き、申し入れを快諾していただきました。

   
  その時皆さんのスギダラの活動を伺い、「じゃあ私たちはギンダラだね!」という軽いノリで話していたところ、南雲氏から「まずロゴマークから」・・・と銀ダラのロゴをいただきました。その後みなさんに作っていただいた銀粘土作品を東京の国際フォーラムの三菱ジュエリーフェアで展示させて頂く事が決定したため、その日程にあわせてホームページを制作し、スギダラの異母兄妹(?)「日本全国ギンダラケ倶楽部」が誕生したのでした。(ギンダラ倶楽部誕生はこちらの銀ダラブログをご覧ください。→http://gindarabit.exblog.jp/6193413/  
スギダラ3兄弟とギンダラ3姉妹の出会いはここから始まる・・・左から3女ララギン、長女クリギン、次女リエギン
   
 

その後この本の企画書を学習研究社に持ち込み、私の想いが叶うことになりました。
作者は、リエギンがPMCワークショップに伺った企業の中から、スギダラ3兄弟の他、ホンダの2輪のデザイナー竹下氏、多湖氏、日本サムスンのデザイナー吉田氏、無印良品のデザイナー白崎氏にもご参加頂き、「ギンダラ7」というカッコイイPMCのプロダクトデザイナー集団が誕生したのです。そしてその本が、6月頃に学研から出版される予定です。スギダラのWCの顔とはちょっと違う、モデルのようなスギダラ3兄弟をご覧になれます。もちろん作品も、作り方も掲載されますのでお楽しみに。

先月、南のスギダラのみやだらの皆様より、PMCワークショップ開催のオファーをいただきました。ギンダラ3姉妹はよろこんで、初めて3人揃ってスギダラの聖地宮崎へ、初のギンダラツアーを敢行致します。このPMCワークショップをきっかけに、名前やホームページの見た目だけの兄妹倶楽部ではなく、お互いにちょっと踏み込んだ親戚付き合いをしていただければな・・・と期待しています。どうぞ宜しくお願い致します。

スギダラが社会に投げかけている問題が、この頃だんだん世の中に取り上げられてきている実感がありますね。ギンダラも今度の本をきっかけに、こだわりをカタチにする楽しさと、癒しにもなるアナログな時間の過ごし方を、多くの方にご紹介できればと思っています。

人生の最終章が、この国の社会保障に落胆するだけのさみしい暮らしにならないように、スギダラやギンダラのように、同じ目的意識を持つ人達のエネルギーが集まるコミュニティの存在が、これからの社会にも個人にも必要だと感じています。

   
 
  撮影待機中にもダジャレで盛り上がるスギダラ兄弟。
 
  スギダラの乗りとは全く違った雰囲気で写真撮影は進む。 どんな本になるやら・・・お楽しみに!
   
   
   
  ●<くりもと・さちこ>
日本全国スギダラケ倶楽部会員
日本全国ギンダラケ倶楽部事務局長 http://www.gindara.jp/
シルバークレイアカデミー事務局長 http://www.crafthouse.jp/sca/
ロボットエンタテインメント「ロボリンク」事務局長
グラスロードカンパニー 代表
クラフトハウス株式会社常務取締役
   
   
   
 
   
   
   
 
●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 


 
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