最初、このコンペへの応募を決めた時は軽い気持ちだった。設計コンペに応募するのは全く初めてだったので、何か自由で楽しい課題のものに取り組みたいと思っていたところ、一次審査を通過すると10m3の杉を使って実物製作のチャンスがある、というこのコンペの記事が目に入った。タイトルがタイトルなのでどこまで本気なのか分からないが、面白そうなので、とりあえず応募してみる事にした。後になって、その軽い気持ちが自らの首を締めるような事になったのかも知れないが……。
応募を決めて、先ずは図書館とネット上で杉について色々と調べてみた。仕事等で杉を扱った事も無く、杉に対する知識が殆ど無かったからだ。調べて分かってきた杉の特徴は年輪が広く比重が小さい為軽く柔らかい、一方、靭性が高い、肌触りが暖かい。特に飫肥杉と呼ばれ宮崎を中心に産出する杉は、油分が多く、防蟻性、耐久性が高く、香りも高い。昔は弁甲材(船の材料)として需要が高かったという事等だった。過去に自分が手にした杉材を思い返して、なるほど、と納得する点などもあった。こういった杉の特徴を踏まえて、特に杉という素材の持つ柔らかさ、暖かさといったものを伝えられるものを作れたらいいなと思っていた。
こういった、杉に関する調べ物とコンセプトの模索に平行して、構造や工法等といった方向からもアイデアを出していった。その中の一つが、小さなユニットをブロックのように組んでいって大きなものを作る。更にそのユニット単体にも何か使い道などを持たせて、イベントが終わったら、バラして、会場に来た人に記念品として配る事が出来るようなものというアイデアだ。しかし、組み立て、解体を容易に出来るようにすると、ちょっとした拍子で崩れたりする危険性が出てくる。組み上げて出来る完成品の形も、自由な不定形にしたいと思って、漠然と得体の知れないモコモコとした形をスケッチしてみたが、イメージがまとまらなくて、行き詰った感じになり、しばらくは何もしないで放って置いた。
何もしないまま8月になってしまい、ちょっと焦ってきてもう一度、作品で何を伝えたいのか?という所に立ち返って考えてみることにした。杉の柔らかさ暖かさを伝えるとすれば、やはり実際に杉に触れて実感してもらうのが一番だろう。そこで、ふと、思い出したのは、今から十数年前、初日の出を拝む為に一人で山登りをした時の事。暗く、寒い山道を一人で歩いていて、物凄い孤独感と、不安感におそわれた。その時、体を支える為に何気なく木の幹を掴んだ。その幹の感触が意外と柔らかく、暖かくて、まるで生き物の肌に触れた様に感じられて驚いた。それまで暗く不気味に見えていた筈の周りの景色を見回すと、辺りに生えている木々がまるで自分を暖かく見守ってくれている様で、それまでの不安感が解消されていった。木の生命感の様なものを感じた印象深い体験だった。そうして、そういったものを何とか形にしてみたいと思った。
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