連載

 

スギダラな一生/第9笑 「杉とハイテクの出会い」

文/ 若杉浩一
 
 
 

先月号は馬の「かぶりもの」でごまかしてしまいまして申し訳ありません。書こうと思っていたテーマはあったのですが、少しヘビーではないか? まだ解らなさすぎるテーマなので書くには稚拙すぎるか? 何だか暗くなってしまうかも?なんて思案している間にすっぽかしてしまう事になってしまいました。ごめんなさい。

さて今回は、もうかれこれ8年もお付き合いさせて頂いている、某有名一流大学の教授であり、日本のユビキタス研究の権威でもある徳田先生の話をしたい。

僕と先生との出会いは、1999年。当時、僕らは会社での信頼なんて殆どなく、我々デザインチーム?(にもなってなかったか)はメイン製品のデザインは外部デザイナーに振られ、その手伝いをするか、あまり目が届かない際物のデザインしかやれる機会がなかった。しかし僕は、その些細な事に頼まれもしない提案や、未来像を出しまくっていた。結果迷惑がられ、益々うっとうしがられた。とにかくデザインがしたかった。

そんなとき、ある伝手から最先端の大学の研究施設のデザインを手伝わないか?と打診が合った。僕は二つ返事どころか、もう噛み付いていた。先生たちから聞く、色々な社会の可能性やら未来像やら、僕にとっては聞く事、聞く事が新しい、意味も解らないことがたくさんあったが、何かとても魅力に溢れている事だけは想像できた。楽しかった。目の前が開けた感じがした。そして僕のつたないプレゼンテーションや妄想に近い代物にも熱心に耳を傾け、僕の考えている事が何かを先生の言葉に置き換えて教えて頂いた。
最初にお会いしたときの感動を今でも覚えている「すげ?カッコいい、なんだか輝いている、やっぱり一流はちがう」そう心の中でつぶやいていた。それが徳田先生だった。

その興奮の1年の仕事で僕は初めて南雲さんと一緒に仕事をする事になるのだ。思えばその機会がなかったら、今もなかったのかもしれない。全ての転機がそこにある。ITとの出会い、そして南雲さんとの出会い、そして杉との出会いと続いている。そのプロジェクトが終わり、しばらくして幸運にも徳田先生の仕事を当時助教授だった西尾先生が一緒にやろうと誘ってくれた。ぼくは、自分の実力も顧みずまた噛み付いていた。とにかく、すげ?のである。ITの未来、そしてITが家具や空間に如何に影響を与えるか、そしてその豊かな世界をつくるのに一つの技術ではだめで、多くの仲間そしてデザインが必要かを熱く教えてくれるのである。面白くてたまらなかった。何が本質なのか皆目、見当つかなかった。なんせ食べた事のないものをデザインするのだから、身を任せるしかなかった。先生たちの感動や感じている魅力を手探りで感じ取るしかなかった。そんな事が続いていく。たくさんスケッチを描く。どれが響くのか感じるのか、僕も同じように感じたい、そう切望した。未だにそうはなれないが、少しずつ解るのが楽しい。先生はとにかく人として魅力的なのである。目線が低い。そして立場を変えて接してくれる。だから学生を含め多くの仲間がいる。だからとても忙しい。しかし、試作や、デザインのために、わざわざ足を運んでくれる。僕らにはとても勿体ないのだが率先して見に来てくれる。彼と接する事そのものが感動なのだ。とても素敵な時間を過ごせるのである。

   
 
  [LOFT in LOFT】
徳田先生との空間プロジェクト第1弾。慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスにおける徳田研の実験空間。近未来の一人暮らしの住居におけるサービスを実験検証するための空間。千代田が始めて徳田先生とやり取りさせていただいた仕事。壁面だけでなく天井面からも映像でサービスを提供する。
   
 
 

[u-Platea】
徳田先生との空間プロジェクト第2弾。総務省Ubilaプロジェクトにおける次世代ユビキタスサービスのデモ空間。ハイテクをいかにも未来的なイメージの空間で表現するのではなく、今ある家庭のリビングやオフィスの一角の中でさりげなくプレゼンテーションできるところがニクイ!・・・かな?

   
 

僕もいつかそういう人になりたい、そう思う。しかし、なかなかそうなれない。文句を言ったり、駄洒落をいったり、ムッとしたり、感情丸出し、野獣丸出しなのである。良くぞお付き合い頂いている。8年の間、僕は千代田とともに、たくさんの「スマートファニチュア(IT家具)」や「スマートスペース(IT空間)」を創ってきた。会社のミッションでも何でもなかった。ただ新しいものに触れられる、そして先生たちと素敵な時間が過ごせる、未来に向かっている時間を共有できる、それだけだった。そのために、なんとかごまかしながら時間を作り正当化してきた。その半ばアングラ的な活動は、やがて社内でプロトタイプとして昇華して行く訳だが、これがまたまた社内では中々理解されない。しかしそれとは裏腹に、徳田先生つながりで沢山のIT系の研究者や企業の方々と接する機会や研究委託の仕事が出来る事で、けったいなモノたち(僕らにとっては、魅力的なしろもの)が増えて行く。そして社内のIT系の技術者とつながっていくと言う連鎖が生まれ始めた。なんだか、「面白いぞ」と言う声が大きくなり始めたのである。外の人や違う連中が声を出すことによって真っ当に見始めてくれるものである。

そうして少しずつ変わり者の製品が生まれ始めた。
見て頂いた皆さんは大変喜んで、オリジナリティーがあると言ってくれる。
実はそんなことは何も無い、ただ先生達から教えてもらった事を愚直に、どちらかと言うとデザインもせずやっていると言う方が正しい。自分から出たものではなく、全て頂き物なのである。だから、関わった皆が喜んでくれるのである。

西尾先生がこんな事を言ってくれた。「僕たちの考えた世界が、現実として形になるのが嬉しいんです。そして広がって行く、それだけで嬉しい。有り難うって、僕の方が言いたいくらいです。」なんと言う事だろう。「俺が、俺が」なんてまるで無い、オープンで素敵な未来にいる人達なんだろう。感動である。

僕はこの素敵な世界を仲間であるデザイナー達と共有したくて「happi Tokyo station」をやった。ITと言うのは単なる技術ではない、これからの社会に人が豊かになるためのインパクトのある道具立てである。形あるものになる事もあれば、仕組みになる事もある、とても魅力的な道具立てなのである。この魅力を技術としてではなく、場や世界に出来れば、もっと多くの英知や魅力が集まる可能性がある。道具やシステムに終わらせる代物ではない。そしてその世界を作れる立場に今がある。皆で考える意味が充分あるのだ。

Happiで生まれた「IT案山子」を見て徳田先生はすごく喜んでくれた。実はIT案山子は技術的には新しいものはあまり無い。GPS付きの携帯電話のお陰でできている。そして無人駅を何とかしたい、地域格差をITが何とか出来るんではないか?という仲間の情熱と勢いだけで出来ている。しかし先生は「こういう事が新しいんです。もっともっと多くに人に知ってもらわなければなりません。僕も色々な人に紹介します」と仰って頂いた。そうなのだ、彼は技術ではなくその先にある素敵な社会を見ているのだ。そしてそういう人達が先生の周りに集まっている。

つい一ヶ月前に徳田先生からスマートファニチュア3を作りましょうというオファーを頂いた。次世代のタグを使った新しいサービスを形にするのである。
僕は、新しいサービスにあえて懐かしい素材と形を選んでみた。技術が人を排除するのではなく、人のサポートを誘発するデザインを試みてみた。
お店は様々なモノで満ちあふれた方が面白い、そして世話焼きなおばちゃんとああだ、こうだと言う会話が楽しい。モノを買うという行為は様々な楽しみにつながっている。人間の原始的なコミュニケーションそのものである。便利だけではダメなのである。
先生は自分たちの考えている技術だけでは表現出来ない世界や情景、雰囲気すら伝えようとしている。だから、様々な言葉や表現が重要になる。先生はそんな多様な人達と交信する力を持っている。人の英知と魅力という力を。

先生から最近教えてもらった事がある。「オープンソサイアティーって知ってますか?これからはもはや、国や自治体が公的なサービスを行なう限界に来ています。公的な事、それは、やれる主体者がしっかりしている、信頼出来る相手であれば誰でも出来る世の中になります。だからこそ皆に信用出来るって解ってもらうために素性を明らかにしなければならない。情報を公開しなければならない。自らをオープンに出来るかどうかが問われるのです。私企業ですら公的な事が出来る。そう言う時代になります。個人、国家、そして企業が有機的につながる社会、どうです面白いでしょう?またまた新しい場面が登場しますよ。」 
おもしれ〜〜!!同感!!枠が無いから益々ワクワク!! 
枠が薄れる社会で我々がどんな場を考え、デザインできるか?またまたワクワク。スギダラはそう言う意味では立派に新しい場面の可能性を持っている。「杉とIT」関係なさそうで大いに関係がある。またまた楽しくなってきた。本当に感謝である。
ねえ千代ちゃん。

最後に徳田先生から頂いたダジャレを一つ「若杉さんと千代田さんがデザインをやると必ず解ります。サインが入ってるから。 SUGINATURE(スギネチャー:SIGNATUREとかかっている)がね。」 
「うまい!! 徳田先生!!ととのい上手!!」

   
   
 
  杉ITテーブルものと連動し様々なサービスが提供される
   
   
  ITスギショウケース   杉の隙間越しに情報が出てくる ITスギウォール
   
 
  成果展示会でなんと撮影は徳田先生です(恐縮してます)
   
 
  徳田先生とスギダラ2兄弟(あ〜、ありがたや)
   
   
   
   
   
 
  ●<わかすぎ・こういち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長




   
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