連載

 
東京の杉を考える/第18話 「杉の文具ができました」

文/ 萩原 修

あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 
 
 

『産学共同』という言葉がある。正確な意味はわからないけど、産業と学校がいっしょになって何かをすること。目的も意識も組織も違う両者が、何かをいっしょにやることは、簡単なようで結構難しい。その『産学共同』的な授業をやって欲しいと頼まれた。恵比須にある「バンタンデザイン研究所」という学校の先生を10年以上続けている菅野傑さんという知り合いのプロダクトデザイナーからの打診だった。

「バンタンデザイン研究所」は変わった学校で、学校法人ではなくて、会社組織で運営している。それだけに学校という枠組みを越え、時流をとらえたユニークな試みを続けられる。教えに来ているのも、現役で活躍するデザイナーが多い。教科書的な凝り固まった押し付けの授業ではなく、柔軟な発想で、生徒ひとりひとりの個性に向き合い、活かそうという姿勢が気持ちいい。生徒の中には、大学を卒業してからとか、仕事を何年かしてから入学する人が多いのも特徴のひとつだ。

言われるがままに、お役に立てるのであればと、授業を引き受けることにした。テーマと企業をあれこれ相談した結果、『杉を使った文具』で、内田洋行と智頭杉のサカモトに協力をお願いすることにした。なんだか、スギダラな授業だ。9月から毎週8回。前半の4回の企画的な部分をぼくが受け持ち、後半の4回のデザイン的な部分を菅野さんが受け持つことになった。

最初の授業では、ご存じ内田洋行の若杉さんに来校してもらい、会社とスギダラのことを熱く語ってもらった。2回目の授業では、鳥取から坂本さんに来てもらい、智頭杉の説明をしてもらった。3回目は、ぼくがやっている「つくし文具店」の見学。そして、4回目の授業で、コンセプトを話し合い、方向づけた。その後、後半の4回は、菅野さんの指導によりデザインのつめとプレゼンの準備が進んだ。そして、2007年11月14日。最終的に、内田洋行で学生たちがプレゼンをした。

実のところ、『杉を使った文具』が本当にできるのか心配もしていたけど、学生たちの提案は、予想を超えるいい出来だった。智頭杉の使い方の新しい可能性を開いてくれた。まだまだ、杉を使った道具ができるんだということがわかった。今後、この方向性の試みを、継続していくことで、少しでも杉の良さが見直されて、多くの人の日常に取り戻せることを願っている。

 
 

●<はぎわら・しゅう> 9坪ハウス/スミレアオイハウス住人。

 



   
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