特集 杉道具 「暮らしをささえる杉の道具たち」

 
杉の古道具を複製して
文・写真/ 溝口伸弥
 
 
   
 

杉を素材に器や家具などの木工を始めたのは、杉利用を目的とする林業会社の工房で働き始めたことがきっかけでしたが、杉でだめなら他の素材にすればいいと思いながらも、あれから9年いまだに杉を触っています。 考えてみれば、僕は身近にある素材を使うこと、制約の中でできることを考えること、最小限の加工で使えるものにすること、がどうやら好きなようで、そうなると僕にとって杉を使うことは、やはり必然だなと思うのです。 それでも杉だけを使ったものづくりの道は険しく、難しさを感じ、昔の生活道具に学ぼうと、杉で作られた古道具を探し、気に入ったものを複製してみることをはじめました。 その作業を通して気づかされたことを書いてみたいと思います。

   
  多くの杉の古道具は、使い良さそうな注文生産的なもの、頑丈に作られた実用本位なもの、量産を意識したものなど、目的がはっきりしています。 杉のやわらかい材質に細かな細工は合わないからだと思うのですが、簡素でわかりやすい構造のものが多く、ムダの無い最小限の部材で構成され、力関係のバランスが、程良くまとまっていて魅力的です。
   
  杉の性質に合わせたつくりが基本かと思うと、そうでもない、ちょっとズレたもの、楽しげなもの、おっちょこちょいなものもあります。 とても自由な発想を見つけて驚きます。そして嬉しくなります。 おそらくそれぞれの専門の職人だけでなく、大工さんや、普通のお父さんが作ったもので、その違いがよくわからないくらい、力の抜けた素朴なもので、惹かれるのでした。 それもまた杉という素材ならではです。
   
  そして、一番嬉しかったのはつくり手のつくり易いような工夫を見つけたときでした。それは簡単だから、楽だからという手抜きのようなものではなく、先人達の繰り返される仕事から、経験の蓄積から生み出されたものに違いなく、十分な品質を保ちながら、到達したつくりやすさでした。
   
  つくり易さはつくり手にとって手際の良さにつながるので、気持ちがいい。 古道具の手仕事の痕跡から、その手馴れた感じ、スピード感が感じとれます。 サクサク切れる刃物の爽快さ、テンポ良く繰り返す作業のリズミカルな感じに没頭し、きれいに納まり、手で触れる快さに、なんだか得意げで満足そうな、職人の顔が浮かぶようでした。
   
  それだけで良かった、そんな時代を生きた職人がうらやましくもなり、自分への問いも浮かんできます。 コストダウンのアイデアばかりに喜びすぎていないのか。作業をつまらないものにしていないか。手の技を磨けているのか?
   
  効率の良い機械加工による作業が多い中で、手でつくることの意味をいつも考えさせられます。 伝統的なものや、現代にも通用する古道具に見られる手仕事を守り、踏襲するのもいいと思います。 ただ僕は、新しいものをつくること、それがスタンダードになるまでの、つくり育てていく過程が面白いです。
   
  つくり難いものがつくり易いものになるように、気持ちよく手馴れてしまうほどに仕事を繰り返す日々、楽しさと苦しさの波の中に身を置くことを選んでいるようです。
   
  最後に最近作を紹介したいと思います。つくりたいという気持ちに正直に、本当に楽しく、夢中でつくってしまったものです。
   
  杉木馬   ちくれれ
  伐採現場に残された杉を使って。木のてっぺんは頭に、根曲がりを足に。杉木馬。   ウクレレという楽器の気軽さを気に入って、気軽に作ろうと竹のちからをかりた。一節をそのままボディーに、ネックは曲げ加工。ちくれれ。弦と指板の金属以外すべて竹です。
   
  恐竜
  なんでもないものが、楽しみに変わること。子供たちにも伝わるはず。 夏休み!作ろう枝工作セット、恐竜シリーズ。枝はあるもので作っているので樹種は問いません。クヌギのごつごつが恐竜に似合っていたりします。他に桜、梅、ケヤキが手に入ったので使っています。
   
   
 
 
 

●<みぞぐち・しんや> 杉の木クラフト http://www.suginokicraft.com/
1970年北九州市生まれ横浜育ち。
多摩美術大学建築科卒業後、設計事務所勤務を経てものづくりの道へ

   
   
   
  Copyright(C) 2005 Gekkan sugi All Rights Reserved