連載

 

スギダラな人々探訪/第23回 長本まどかさんの巻

文/ 千代田健一

杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。

 
 

今回は久々に四国からの杉便りになります。前々号23号の日本全国スギダラマップでお伝えしたように四国地区はスギダラ会員の過疎地域になっていまして、地域情報がなかなか届いてきません。今後、どうやって盛りたてて行ったもんかと困っていたら、長本さんという最近会員になっていただいた方から、「突然ですが、来週、私の実家のある四国(香川)へ帰省するのですが、是非、四国の杉を見てきたいとおもっております。急なご相談で大変恐縮ですが、材木店・工場にまつわる人をどなたかご紹介いただけないでしょうか?」という連絡をいただきました。長本さんは、某有名生活雑貨の会社、確か「スギダラ良品」でしたっけ? にお勤めのデザイナーで、本部のあるウチダラ洋行とは、とある縁から商品開発を一緒にやろうということになり、コラボレーションをやっています。何をやってるかは企業秘密、というほどのことではないですが、もう少し色んなことがクリアになってからレポートさせていただきたいと思います。

で、長本さんもその開発メンバーのお一人です。その長本さんからの連絡を受けて思いついたのが、今回のレポート記事です。なかなか本部でも行き出さない地域の情報、是非欲しかったので、ミロモックルさんをご紹介して魚梁瀬杉を見てきてもらおうと画策したのですが、先方のご都合がうまく付かず、今回は長本さんの独自のツテで四国スギダラ巡業をしてくれました。まだ、会員になってそんなに経っていないのに無理なお願いを快く引き受けてくれました。

   
   
 
   
   
 

四国の杉; キーワードは赤身、吉野川、土佐派、什器

     
文・写真/ 長本まどか
   
 

私は四国の香川県出身でして、この夏帰省する際に、杉を見に四国の山へ行ってきました。
四国の杉について、ご報告するよい機会ですので、スギダラに投稿させていただきます。
まず一日は、ちょうど知り合いの建築家の方が、注文している建材のあがりを見に行くというので、高知県吉野川上流域の嶺北地区の嶺北木材協同組合へ。また日を改めて、徳島県これも吉野川上流の山城町に杉の三層集成パネルを製造する、株式会社山城もくもくさんへ行きました。
赤身、吉野川、土佐派、と、什器。
一見何のことかわからない言葉の並びですが、これらが私の今回の旅で得た、四国のこの地区(四国のちょうど真中ほどです)の杉にまつわるエトセトラです。

 
 
   
 

■赤身
嶺北木材協同組合の田岡さん曰く、
  杉の木の周りの黄色い部分は、水分や養分を行き来させ、細胞が活発に活動している。
  そして杉の特徴でもある赤身の部分。こちらは杉にとっては死んだ組織。
  この赤身の部分は杉の木自身が腐らないように防腐作用をもっている。

私はかねがね、杉の材はこの赤身と黄身の混在が、杉を扱いづらいものにしていると思っていました。
しかし赤身の部分こそ杉材の最大の効能があるんですね。違う視点が見えてきた気がします。
見せていただいたのは、住居の基礎に使う材。これはその防腐作用を利用して基礎材として全赤身のみの材を使うそうです。
また、この嶺北の杉は特にピンク色の木目が美しく、これに対して高知県東部の魚梁瀬杉はやや褐色で力強い木肌、だそうです。

 
   
 

■吉野川
吉野川に接した山峡。この地区の森林は歴史の中で奈良京都大阪に木材を供給し、都の土木を支えたそうです。吉野川を使って瀬戸内海を挟んだ都に木材を供給するのに都合がよかったからです。
現在の森林は、太平洋戦争で大量の木材が搬出され、戦後植林したもの、だそうです。
急斜面に切ないくらいミッチリと。とにかく子孫が楽に暮らせるようにと願いを込めて丹念に植えたんでしょうね。まさかこんなにも国産材の需要が減るとは思わなかったのでしょう。
かつて城や都の一大土木事業に参加したように、いつかまた木材が吉野川をジャンジャン下る姿を見てみたいものです。

 
 
   
 

■土佐派
私は建築には明るくないので、土佐派ってなんですか?といいましたら、ひとつ例として土佐派の建築を見せてもらいました。土佐派とは、高知の素材(土佐漆喰、杉または桧)をつかった民家型の建築様式、だそうです。山本長水さん、など有名と聞きましたが皆さん、ご存知ですか?台風の多い高知県の特有の土佐漆喰と地元の材を使った住宅は重厚でしっかりした造りだそうです。
土佐派、で私が思ったのは、すでに彼らはずいぶん先を行っているな、ということです。建築家や大工さん、施工業者さんはそれぞれの分野で、住宅を土地の材で造ることを真剣にプロフェッショナルに取り組んでいて、すでにその独自の芸術性まで見出している!と言っても過言ではないような。又、今回同行させていただいた香川県の建築家の方と施工業者の方、徳島県で杉パネルを作っている方、も同様にアツイんです。自分の分野では何ができるか?自らに問う!悶々。 という私に田岡さんはサラっと、「みなさんが国産材に触れるキッカケを作ってください。」とおっしゃいました。

 
 
   
 

■什器
注釈)「什器」とはここでは店舗で商品を陳列するための棚及び箱などを差します。
無垢板をいかに製品にするか、というのはだれもが抱える命題ではないでしょうか。徳島県山城町に(株)山城もくもくを訪ね、一つの解答を得ました。3層に集成する板材を作っている工場です。ここは伐採から加工まで一貫して行い、森林の循環を一端担っています。且つ、製品として安定した供給が可能。現在主に建材として出荷されるらしいですが、可能性を探りたい製品だと思いました。什器になっているのを見ましたが、野菜や果物がごろごろ入っている姿がとっても良かったです。

 
   
 

今回、四国の杉の一端を見てきて、更に強く、何ができるのか、を考えさせられました。ただいまの所感ですが、私にできることというのはきっとまず、「キッカケ」作り。需要を高めるお手伝いをする、ということ。ちょっと消極的にも取れますが、供給のフローを整えるのまでは、今の段階ではないし、その道のプロにお任せします。ではその「キッカケ」とは何か。それは今後皆様のお力をお借りしながら、商品という形で提案していきたいと思います。どうぞヨロスギお願いします。

   
 
●<ながもと・まどか>
株式会社良品計画企画デザイン室所属。香川県出身。杉とうどんがスギです、もちろん。
   
   
 
   
   
 

長本さん、ご多忙にも関わらず、わかりやすく丁寧にレポート書いていただきましてありがとうございました。最近、スギダラツアーやってないので、新鮮でした。土佐派の建築様式のように地域独自のスタイルってあるんですね。全国の建築文化と杉の関わりを探ってゆくと面白そうです。それにしてもやはり杉に関わる人々はアツイんですね。何でだろう? その影響を受けてか、元々そうなのかわかりませんが、この四国巡業で長本さんもアツイ想いを抱いたのですね。引き続き、スギダラ商品化計画、ヨロスギお願いいたします。全国のショップにスギダラ製品が並ぶ日も近いかな・・・

余談ですが、長本さん、自分のプロフィールのところ、最初は「香川県出身。杉とうどんが好きです、もちろん。」と書いて送ってくれたのですが、すぐに追伸が来て、好きをスギにしてくれと・・・小さなことでも手を抜かない。既に完全にスギダラ化されていますね。(ち)
   
   
   
 
●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 


   
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