連載

 
『東京の杉を考える』/第9話

文/ 萩原 百合・撮影/岩谷みちほ

あの9坪ハウスの住人がスギダラ東京支部長に。東京から発する杉ものがたり。
 
 
 
会員No.00012なのに、私はこれまでスギダラらしい活動を何ひとつしてこなかった。そして、そのことがずっと気になっていた。
家で過ごすことが多い私に、一体何ができる? 考えスギなのか、なかなかいいアイデアが浮かばない。
いつだったか、スギ王さまが私にこう言った。「やたらスギを使えばいいってもんじゃないんだよ」。そのひとことが、いまなお胸に強く残っている。
無理なく、いいかたちにできることって何だろう。ああ、むずかしスギる。

しかしここへきて、ようやくチャンスが巡ってきた。住み始めて7年になる我が家の縁側が昨年あたりから急に傷み始め、つくり直す必要がでてきたのだ。これだ、私にできることは。さっそくスギダラ本部宣伝広報部長の杉千代さんに連絡し、スギ材を提供してくれそうな業者をおしえてもらった。

照会があったのは、おもに西川材を扱っている埼玉県飯能市のフォレスト西川さん。すでに月刊杉でもレポート済みの協同組合だ。
実は、飯能と聞いて最初はピンとこなかった。「あれ。東京のお山じゃないんだ」「東京と縁のあるスギを使いたいのに」。そう思った。しかしよく調べてみると、飯能のスギは江戸の頃からおもに東京で使われてきたことがわかった。離れているようで、実は深いつながりがあったのだ。

自宅でイベントを開く予定があったので、それに間に合うように縁側をつくることにした。実際に縁側に腰かけたり歩いたりしてもらえば、より多くの人にスギの魅力を伝えることができる。縁側のデザインは、もちろん家の設計者である小泉誠さんにお願いした。
*縁側製作の詳細については、こちらでレポートしています。ご覧ください。
        ↓
http://www.sumaito.com/know/column2/tsukurutsukau/index.html

日を改めて、フォレスト西川さんを訪ねた。どんなお山で育ったスギなのか、この目で確かめたかったのだ。
山に入ってまず驚いたのは、歩きやすいように道が上の方までちゃんと通じていることだった。木々もきれいに植わっている。山全体が整っているという印象だ。荒んだ山を勝手に想像していた私には意外な風景だった。

フォレスト西川さんでは、希望者にはいつでも山を見学させてくれるという。業者だけでなく、たとえば家を建てようと考えている一般の人でもOK。「これからは使う人が何を望んでいるのか、どう使いたいのか、提供する側も知る必要がある」と営業課長の浅見さんは熱く語る。
「木のこと、山のことを何も知らない人も、実際に山に入ると木の魅力に気づいてくれる。使ってもらうより、まず知ってもらうことが大事なんです」。

たしかに山に一歩踏み込んだ途端、いつも吸っている空気と明らかに違う。感覚的なことだけど、木々に囲まれた中に身を置くと、それだけで気持ちがいい。気分がすっきり、しゃっきりする。
遠くからは見えなかったことも、間近で見ると一目瞭然だ。同じスギでも樹皮の表面が荒いものもあれば、逆に目が詰まったものもある。ひょろひょろと頼りなさそうなヤツもいれば、樹齢百年を越すほど丸々太ったヤツもいる。ムササビが巣をつくってしまったスギは、そのままムササビのものとなって放っておかれている。同じ年に植えても、決して同じように育たないスギ。ひとつひとつ生育に違いがあること、個体差があるということが、山を通してはっきり伝わってくる。

楽しみながら木のことを知ってもらおうと、山菜採りやリースづくりなどと絡めた催しを企画したこともあると浅見さんは話す。そんなふうにスギをはじめとした木の魅力を伝えながら、同時に研究したり、新商品の開発を行なうなど、フォレスト西川さんはかなり前向き、積極的に活動しているようだった。

山を後にして事務所を訪ねると、そこはスギを存分に使ったモデルハウスになっており、まさにスギダラワールド炸裂という感じだった。建材として使われることが多いスギも、ここでは椅子やテーブルにかたちを変えている。「スギは柔らかいから、長時間座っても疲れにくいんですよ」。
小物から家具まで、試作品と思しきものが所狭しと並んでいるなかに、脚を折り畳める小さなちゃぶ台がひとつ立てかけてあった。「いま、これを300ほどつくってほしいって依頼されてるんです」。

協力関係を結んでいる家具工房とともに、次々と生み出されていくスギ製品。訪ねる前は、活気がない産地だったらどうしようと内心ドキドキだったが、フォレスト西川さんはホントに元気だった。頼もしい。何でもできそうだと思えてきて、ついスギ屋台プロジェクトの話を持ちかけてみたのだった。
「おもしろい企画ですね。是非うちも屋台つくりたいです。
…でも、何を売ったらいいだろう?」
「あのー、さっきお山を下りてくる時、あちこち看板が出てたアレ。いけるんじゃないですか?」
「なるほどアレね。いいかもね」。浅見さんに笑顔が戻った。
「いい匂いが人を誘いますよ。繁盛間違いなしです!」

スギ屋台プロジェクトに、飯能のフォレスト西川さんが参加表明です(たぶん)。おいちい甘栗屋台が出ますよー(たぶん)。

縁側がとりもつ縁──。スギダラな人々とスギスギつながっていく喜びを感じる一日だった。

 
 
巨大な「L」がふたつ向かいあうように配置された 新しい縁側。待望の炉もつくった。
 
 
 

自宅でイベントを開いた時の様子。
道路すれすれまで伸びたステージのような縁側に、多くの訪問者が見入っていた。

 
 
 

樹齢百年近い大きな木をあちこちで見かける。そういった価値ある木は貯えとしていくつか残すようにしているのだそう。
木を育てることは、「いま」だけでなく、世代を越えた長いスパンで考えることなんだなあ。

 
 
 

製材、加工された西川材。
一般の住宅の建材としてはもちろん寺社仏閣などにも使われているとのこと。

 
 

<はぎわら・ゆり> 9坪ハウス/スミレアオイハウス住人。


   
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