特集宮崎

かみざき物語り 第9回 最終回
文・ 植村幸治 / 構成・南雲勝志
もうすぐ橋が架かる上崎地区、架橋を通してまちが動く!?  
 
 

 上崎橋の完成とともにプロジェクトが一段落しました。今回の取り組みを通して本当の頑張りはこれからだということを地域の人達は分かってくれたと思います。一区切りということで先日のプレイベントの報告とプロジェクトを通じて感じたことを少し述べます。

 11月18日(土)を迎えました。宮崎ではその頃ずっと晴れていたのですが、なにやら怪しい雲行きで、天気予報も「曇りのち雨、降水確率60%」。朝起きて祈るような気持ちで外を見ると宮崎市は曇りでした。私は宮崎市から延岡市まで毎日電車で通勤しています。去る9月の台風による竜巻で横転し、一躍有名になったあの「にちりん」号に乗って通勤しています。

  7時に駅を出る頃には車窓に雨が伝いはじめました。 2、3日前の海野さんと田丸さんとの会話で、海野さんが「僕は晴れ男ですけど田丸さんは強烈な雨男ですからね、今回は田丸さんの方が活躍してますから、多分田丸さんの勝ちですよ!」 「それって雨ってことですか?」などの会話が交わされました。本当にそうなってしまいましたが、今日はこれまでの田丸さんの活躍に敬意を表して、雨中の作業を楽しむ覚悟を決めました。
 
 

 延岡駅で全員合流です。役場のバスには九州保健福祉大学からの参加者4名(全員女性)が既に乗っています。そこに、スギダラの強烈メンバーが合流です。上崎までの約30分のあいだはナビゲーター役をつとめる地元の長谷川さんがこれまでの簡単な経緯を説明し、自己紹介を行いました。

 
      


 上崎には10時頃着きました。手摺りの取り付けイベントは13時からですが、それまでにトロッコを組み立てたり、手摺りを並べたり早速準備に取りかかりました。雨も本格的に降りだし寒くなってきましたが、みんな目が燃えています。特に田丸さんの目が燃えていました。海野さんも燃えていたのですが何か変です。トロッコ組み立ての責任者なのに組み立てがなかなか進みません。 何と海野さんは自分が組み立てパーツをつくっておきながら、すっかり組み立てる順番を忘れていました。お陰様でトロッコの組み立てが終わる頃には手摺り取り付けイベントが始まってしまいました。(これも愛敬です))

 
  組み立て方がわからない!?

 

 手摺りの取り付けは雨にも関わらず、地元の人を含め100人近くが参加してくれました。九保大の学生はゼミのために来られなかった先輩達(昨年の参加者)の名前を手摺りに書き込んでいました。小学生や幼稚園生、一般の参加者、地元の人達など思い思いに手摺りの裏にメッセージを書き込んで取り付けていました。約1時間で参加者による橋づくりが終わり、 住民の皆さんが待ち望んだ「上崎橋」がようやく完成しました。。

 
 
 
 
    やはりトロッコは人気でした。子供から大人まで笑顔が絶えませんでした。久々に高千穂鉄道のレール上に動く車両を見て、色々あったけどやって良かったと思いました。夕暮れ時には雨に煙る橋とトロッコが異様な郷愁を醸し出し、風景を見ながら自分の中で勝手に黄昏れてしまいました。

 
 
   
 
    暗くなってからは、公民館敷地内の倉庫に集合して、みんなで打ち上げです。都城の高専コンペ終了後に超特急で駆けつけてくれた南雲さんが合流すると打ち上げの盛り上がりも最高潮に達しました。
※ 「南のスギダラ」でハルスギさんが詳しく報告してくれています。

 
 
 
 
  ■開通式
 開通式当日の11月20日(月)は前日までの雨もすっかり上がり快晴となりました。式典に出席する地元の方々は、正装し完成したばかりの橋を眺めながら来賓の方々と挨拶を交わしていました。中には感極まって涙を流している高齢者の方もいました。
 親子三代による渡り初めや餅まきなど地元の年長者を中心に準備を進めてきた開通式、祝賀会は盛会で大成功でした。

 
 
 
 
 

■上崎プロジェクトを終えて
  プロジェクトの構想から二年余りを経て、無事プロジェクトの一区切りを迎えることが出来ました。
当時の担当だった梶原さんと上崎に出向いて、「橋づくりと一緒に地域が元気になる取り組みをしましょう」と、第1回懇談会を開催した時の地元の方々の目の輝きは今も鮮明に覚えています。何が出来るか、どのようにして進めるかなど考えもせずに、とにかく勢いだけではじめました。その勢いが地元の方々にも伝わったらしく、多くの積極的な意見が出され、こちらが圧倒されてしまいました。
 「キャンプ場をつくりたい」「果物が豊富なのでフルーツランドをつくりたい」などの人を呼び込むための手段が議論されました。しかし、今考えるとこの時しっかりとお互いが意見を交わし、両者(住民側と行政側)の意見の食い違いを徹底的に議論し、共有できる目標を設定していなかったために、コンセンサスを得るのに時間を要したのではないかと思っています。(一部の人には結局最後まで理解して貰えなかったのかもしれません)
住んでいる人が誇りに思える地域になることが大切であり、その為の試行錯誤を繰り返し、そのプロセスを参加者で共有し、少しずつ地域の将来像を描く必要があるということを我々がしっかり伝える必要があったと反省しています。 「施設の整備が進めば何とかなる」という単純な思い込みを払拭しきれなかったのではないかと考えています。宮崎大学の吉武先生が第2回のワークショップの時に言われました。「簡単に地域活性化が図れるなら、日本全国どこでも豊かな地域ばかりですよ」。その通りだと思います。自分自身が分かっていなかったのだと思いました。

 南雲さんの協力を仰ぎ、これまで南雲さんが関わってこられた事例紹介や地域の散策、スギダラメンバーや九州保健福祉大学の学生とのワークショップなどに取り組む中で、「この取り組みはこの地域の為になることだ」と勝手な思い込みもあったような気がします。しかし、橋が出来るまでの限られた時間の中で、今回の取り組みを通して参加者全員が喜びを感じ、地域の将来に役立って欲しいという思いだけは忘れずに取り組んで来たつもりです。地域の方々と激しい議論となり、もの別れしたこともありました。まとまりのある小さな集落を二分してしまったのではないかと後悔したこともありました。完成直前まで一喜一憂しながらイベント当日を迎えたような気がします。
 小さな集落の小さなイベント成功が大きな将来につながると信じて、多くの人から力強い協力を頂き何とか一区切りを迎えることができたことは、地域の人にとっても私自身にとっても大きな自信になり、これからの人生に大きな財産になると思います。だからといってこれで満足して良いとは思いません。次なる新たな楽しみを探しはじめています。

 住民若手代表の甲斐丈義さんが、 「上崎橋の記念日を決めて年に1回は皆さんに来て貰って橋の手入れをしたい」と言っていました。来年もこれまで関わったメンバーが上崎に集合することを楽しみにしています。

 
  完成した上崎橋遠景。毎年1回、手摺りメンテナンスでみんなで会いましょう。

 
 

●<うえむら・こうじ> 宮崎県東臼杵農林振興局


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