連載

 
スギダラな人びと探訪/第16回
文/写真 千代田健一

杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。

 
  「マツダラな人々」  
 (写真/シーン 大野勲男)
 

今回の月刊杉WEB版は北海道特集。北海道にも杉はあるのですが、函館の一部に生息しているだけです。その代わり大量にあるのが松。北海道の松事情は巻頭特集の金川さんの記事「北海道マツダラ宣言」を読んでいただけるとわかると思います。
マツダラ入門に最適な内容です。ボクも初めて知ることばかりでとても勉強になりました。そうです、北海道はマツダラケなんですね。

そんなこともあり、ウチダラ洋行の北海道支社では地場産の松を使った空間創りを試み、9月の中旬に完成させました。その名も「協創広場U-cala」単にウチダラ洋行の製品を展示するショールームではなく、北海道の自治体、学校、優良企業また地域の皆様と新しいビジネス、新しいコミュニティ、新しい文化、といったものを一緒に創っていくために集まる場所、正に広場を作りました。まあ、ウチの社長がそう言う(ゆー)から、名前もU-calaになりました。

このU-calaの空間デザインは若杉+千代田のスギダラ兄弟と北海道支社のデザイナー高柳君とで担当しました。僕らが空間創りするときには当然のように杉が使われるのですが、北海道には杉はないので手に入りやすいカラマツを使ってみました。社長も「強い意志(石)を持って気(木)を使ってやれ!」ってゆーから、遠慮なくやらせていただきました。1階は部分的に天井高が4mある空間があったので、そこにカラマツのリブ材を全面的に張り巡らしました。材料の大きさや配列ピッチは南雲さんの有楽杉のパクリなんですけどね。(笑)そのマツリブと札幌で取れる天然石、札幌軟石が創り出した空間はゆとりある天井高とあいまってなかなか素敵な空間に仕上がっています。

 
  夜は通りから幅10mの巨大スクリーンの映像が見えて、華やかな雰囲気を演出しています。

 

このU-calaは前述したように地域の色んな方々と交流するための空間なので、いろんなイベントも仕掛けてゆくのですが、その最初の大きなイベントとして、札幌デザイナーズウィークへの出展を企画しました。そんなことを企画している時にウチダラ洋行でも仕事をお願いしているデザイナーの川上元美さんがデザイナーズウィークの最終日にモエレ沼公園で講演をされるという情報を聞きつけ、便乗で我々のイベントにも出演をお願いできないか?と打診したところ、快く引き受けてくださいました。さて、何をやるかが問題です。こういうことをやろうと決めた時の若杉兄貴の行動力、瞬発力は尋常ではありません。「北海道という地域とデザイナー、企業との関わりを話してもらおう! それだったら、南雲さんも入れてスギダラの話もやろう! セミナーの後にはパーティもやろう! パーティやるんだたら屋台も作らねば! 食事のメニューはどうする? 支社の人間中心に運営できるようにしよう! 集客はどうする? ポスター作ろう!」・・・といった具合に速攻で具体化してゆきます。こんな話に南雲さんが乗っかってこないはずもなく、それどころか頼んでもいないのに屋台に合わせてベンチまでデザインして送りつけてくれました。材料は当然地場産の松です。その屋台の名は「WATASHI MATSU BAR」。ベンチは「WATASHI MATTA」。
デザインよりも名前の方が先に決まっていたことは言うまでもありません。
U-calaのこととWATASHI MATSU BAR製作奮闘記はスギダラ家奮闘記で若杉さんが語ってくれているのでそちらをご覧ください。

このようにしてイベントのメインメニューは決まりました。テーマは「RElation Design」。川上元美vsスギダラ3兄弟のトークショー、その名も屋台トーク。トークの後には屋台パーティ。それ以外の開催期間中は川上さん、南雲さんの新作展示および地場のデザイナーの作品展示をすることにしました。それに乗ってくれたのが、北海道の地場産業と地場のデザイナーを結び付けたもの作りをやっている照明デザイナーの保里卓哉さんです。
保里さんはDEPTHという照明製品のブランドを立ち上げており、自身でデザインするだけでなく、地元のクリエイターと共同開発しながら製品を生み出していっています。そんなこともあって今回の展示も保里さんと保里さんの仲間たちのデザイン展として企画してくれ、会場に素敵な華を添えてくれました。
DEPTHについては→http://blog.e-depth.com/
保里さんを含め、地元で活躍するクリエイターの方々と具体的な接点を持てたことは今後のU-calaの運営においてもこの繋がり(RElation)は財産となってゆくでしょう。

 
  保里さんプロデュースによる展示空間。テーマは「Winter Lights」。天井から吊るしてある照明器具はtamasさん、mikiさんという地元のデザイナーやイラストレーター、海外のデザイナーブルーノ・ヤハラさんとのコラボレーション作品。バックの映像は映像作家、山田マサルさんの作品。画像ではわかりませんが、サウンドコンテンツ作家の並木岳夫さんの作品が奏でられており、会場はその名の通り素敵な冬のあかりに彩られていました。

 
  小樽ガラスの作家 成中拓さんとのコラボレーション作品。ガラスの模様が創り出す光の波紋が美しい。

 
  今回は保里さんのクリエイター仲間 比嘉秀郎さんの玩具作品。強力なマグネットをムクの木に埋め込んだ玩具やステーショナリーは独特の動きがあって楽しい。

 

さて、本番のイベントはどうだったかと言うと・・・
いつも以上に盛り上がったのは言うまでもありません。何たって、今回はスギダラ3兄弟だけでなく、プロダクトデザイン界の巨匠、川上元美さんが一緒なんですから! 一流の川上さんと三流のスギダラ3兄弟の競演。三流は3人集まっても九流。その流れの速さで立ち向かうしかありません。
まずは川上さんのこれまでの仕事の紹介から始まりました。その圧倒的な量、そのクオリティの高さをまの当たりにして参加者の方々だけでなく、南雲さんまでもが圧倒されていました。その長年に渡る数々の仕事はデザインは団体戦であることを明確に示していました。企業であれば色んな思惑、制約のある中で様々な立場の人々との格闘があったり、土木や建築という異なるフィールドのデザイナーや技術者とのコラボレーションがあったり。その果てに今までになかった新しい価値や成果が得られるのだと言うことを教えてくれます。そして、そういった場にいることができるのは、川上さん自身が持っている飽くなき好奇心であることがわかります。それはデザインという世界だけに向けられたものではなく、もっと広い何か、社会とか人に対する好奇心なのではないかと千代田は感じました。
川上さんの話の中で、若杉兄貴が知られざる川上元美さんの姿、スギダラ3兄弟と悪ふざけしたり、太鼓叩いたり、小唄唄ったりしている画像を披露して場内は大いに沸きました。セミナーのような形式で自分自身でそういった紹介する人はなかなかいないでしょうからね。今までに川上さんの講演を聞いたことのある人にとってもとても興味深かったのではないかと思います。そういったバックグラウンドに潜んでいるものから、デザインも生まれていることを感じ取っていただけたと思います。

 
  川上さんの知られざる一面を暴露?する若杉兄貴。後ろの画像に見えるでしょうか?小唄を唄う川上さんが・・・

 

次はわれ等が南雲さんとスギダラ兄弟の出番です。
屋台トークの前日に南雲さんから自分が登場するときの演出指示がありました。「私待つBARだから、あみんの「私待つわ」を流したいんだよねー。」
いつもそうですが、デザインだけでなく、受け狙いも手を抜きません、この人は!当日、練習したのは、トーク中に「私待つわ」を流すタイミングだけです。(爆)
この辺のチームプレイはスギダラ3兄弟はかなり熟練してきました。若杉兄貴が「ところで南雲さん、今回のこの屋台の名前は何と言うんですか?」と白々しく切り出せば、南雲さんが「今回は杉ではなく、松を使ってるんですよ。だから、私は松です。という名前で私松BAR・・・」そこで絶妙のタイミングで音楽を流す千代田。場内、苦笑いと爆笑が入り乱れましたが、参加者の皆さんをグッと引き寄せられたのは間違いありません。
自分たちが話しててもスギダラの話はいいなーと思います。毎回毎回、お伝えする内容も増えていってますし、楽しさも倍増。企業や自治体、業種、個人、団体といったものを越えて集まった人々がとてもまっとうに生き生きと活動し、連携を深めようとする様をお伝えするのはとても誇らしいです。
聞いてくれてる人々もスギダラの活動からいろんな可能性を感じ取ってくれてるのではないかと思います。ボク等がこれからのデザインにおいて大きな可能性を感じているように・・・
実は川上さんもスギダラの活動の全貌を聞いたのは初めてとのことで、すごく感心してくれました。自分もスギダラ、マツダラやりたいと申されておりまして、「もう待て(松)ない」「杉去らないで、とど松って!」なんて洒落まで出てくる始末。完全にスギダラ化しちゃってます。それが今回の巻頭特集「私たちの考えるこれからの札幌デザイン」で札幌市立工等専門学校の冨田さんが書いてくれた「雪ずりの屋台」計画に繋がっていくわけです。

 
  スギダラ手ぬぐいを頭に巻いて、会員証もきっちり身に付けてトークに臨むボクはスギダラの鏡と言えます・・・よね?。

 

屋台トークは大盛況で終えることができました。当初40名定員を予定していましたが、70名近い人が集ってくれて会場は熱気、いや元気に満ち溢れているような気がしました。
トークの後は屋台パーティです。北海道支社のスタッフとボク等のデザインチームの助っ人スタッフによる手作り料理のおもてなしは、来場者にとても講評でした。デザイナーズウィークの実行委員を務めている方からは、「こういったパーティではケータリングで取った変わり映えしないものが多いけど、ここのは地元で取れる素材をうまく活かして気が利いている。セミナーのやり方も含め、いろんなことを勉強させてもらいました。」とありがたいお言葉をいただきました。自分達も地場のおいしいものを食べたいからやってることなんですが、自分達でやると愛情が入るんですね。それがきっともてなされた方にも伝わるんだと思います。
北海道支社のメンバーにしてみれば、初めての場所で初めてのビッグイベント。慣れないことに戸惑いもあったでしょうが、みんなで力を合わせて成功させることができて、達成感もひとしおだったと思います。特に北海道支社長の後藤さんはあまりにうまく行き過ぎて笑みが止まらなかったようです。今後この札幌という地域でいろんなことを仕掛けてゆく上で大きな財産になったと思います。
正にRelation Designを実践できた出来事だったと思います。今後の札幌の動きが楽しみになってきました。

 
  このパーティの後、即入会してくれた札幌市立高専の永山さん(左)と今回の巻頭特集を書いてくれた冨田さん。雪ずりの屋台計画をこの二人が中心になって進めてくれています。

 

その日はイベントの後、朝方近くまで川上さんにもつきあってもらい、スギダラ、マツダラ談義に花を咲かせました。またまた、よき仲間が増えてきました。スギダラはスギダケに非ず。マツダラ、ヒノダラと違う広がり方もして行きそうで、ちょっと怖い感じもしますが・・・(ち)

 
  川上さんとの熱演は深夜まで続くのであった・・・

   
   
 
 

●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長

 


 


   
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