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川本園とは | ||||||||||||||||
川本園は福祉施設として知的障害者に仕事、働く場を提供し、主として小物や家具などの木工製品を埼玉県のスギやヒノキを使って作っています。 だから木工というのはあくまでも利用者さんを処遇する”手段”だと考えていまして。木工で仕事がなくなって彼らを処遇できなくなるなら、木ではなく鉄でもパンでも違う仕事を探さなくちゃ、と。それが福祉施設としての本来の仕事なので。そこを抑えておかないと、方向性がおかしくなっちゃうと思っています。 |
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プロジェクトの経緯 | ||||||||||||||||
今回の取り組みは林野庁の補助事業(注:令和3年度林野庁補助事業「林福連携で行う優れた地域材製品開発」)として始まったわけですが、最初は日本セルプセンターから声がかかったんです。セルプセンターの木工部会から話がきたんですけど「面倒だ」って言って断っていました。 川本園と、もう一つウッドワーク川本という施設がありまして、当時、新商品を作りたいと商品開発委員会を立ち上げていたのですが、日常の仕事があるとなかなか難しい。どうしようかなと思っていたところだったので、渡りに船でした。 こうして始まった3カ年計画のプロジェクトで、地域材製品の新たなデザイン創出と障害者の働く場の形成を目指し、「魅力ある地域材製品の開発に努める」ことになりました。ターゲットを明確化し、地域材の良さを活かした魅力あるある製品のデザイン案を作成し、その一部試作をすることになったのです。 |
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(ウッドデザイン賞2023受賞記念セミナー資料より) | ||||||||||||||||
それまで我々の商品作りというのは、ほぼ思いつきだったんです。市場ニーズなども関係なく「できるもの」しか作ってこなかった。一番簡単な方法で作れて、好きなものを作ってきていました。ですから今回のプロジェクトでいちばん驚いたことは、ひとつのものを作るのに、あれだけの打合せや詰めをしないとできないということでした。 うちの職員にとってはとてもいい勉強になりましたね。最初はできない理由を一生懸命考えていましたけど、1年、2年やっているうちに変わってきました。ですから職員の意識改革がいちばんの成果だったと思います。 どういうことかと言いますと。川本園は福祉施設なので、設備がないと仕事ができません。利用者さんは木工職人ではないので、手作りで物を作ることが目的ではないのです。それを補完してくれるのが設備ですね、普通の企業でも工場はほとんど機械化されているのと同じです。 「手作りで、丁寧に、時間をかけて作りました」というものづくりではなく、「早く、規格されたものをいっぱい作る」ようにしたい。逆の発想に聞こえるかもしれませんが、利用者さんたちが仕事としてできるように、なるべく触らなくてもいいように、利用者さんが機械を使いこなせるようにしないといけないんです。障害を軽減するためにうちが提供しているのが「夢中になれる仕事」。そのためには補完してくれる設備や支援者(職員)が必要という考えです。 つまり、どうやったらたくさん作れるか?と考えないといけない。今回のプロジェクトはそれが最も大きな意義でした。あの加工をどうやったら利用者さんができるかと職員が一生懸命考えるようになった。その意識の変革ができたのが一番大きかったですね。どうやったらできるか、とできるようにする方法を考える方が楽しいですよね。
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他にも、プロと一緒に活動するという成果もありました。福祉施設の職員だけではできることしかできなかったですが、できないことをどうやってやるかということを考えてくれるのがプロの人たちでしたね。 あの形になるまでに何度もやり直しをしました。その中で一番苦労したのは、間に入ってくれた(NPO法人木育・木づかいネットの)多田さんだったんじゃないでしょうか。しかもコロナの時期でしたから打合せはほぼリモートだったので、なかなか本音のところが言いづらいところもあったんです。プロジェクトメンバー間の調整を一手に引き受けてくれました。 |
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ウッドデザイン賞農林水産大臣賞 受賞 | ||||||||||||||||
ウッドデザイン賞を受賞したと聞いた時、実は「それ何?」「ウッドデザイン賞ってすごいの?」という感じでした。その後、すぐに県から連絡があって、それで「大したもんなのかな」と思いました。ただ、今回のプロジェクトの評価は職員の励みになりますね。 実は「賞をもらったことで、利用者さんの工賃はどのくらい上がるんですか?」という質問がどこからか来ましたが、「すぐには上がらない」と答えました。すでに埼玉県平均の三倍近く払っているので、それ以上そんなには払えないわけです。 もっと福祉であることを表に出してもいいという意見もありますが、それはしたくないんです。利用者さんの作業の幅、できる量が増えることで、工賃が増える。それが成果だと思います。 地域材を使っていると、応援団がいっぱいできるんです。うちも地域材を使っているから浅田先生とのコネクションができましたし、森林組合も社会福祉協議会も応援してくれます。地域材を使ったものづくりは意義があることだと思いますよね。 |
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今後について | ||||||||||||||||
いい木を使っていいものを作りたい。そうしないと次の受注につながっていきません。実は、福祉施設で作ってほしいという生産依頼の中には、「そうすれば安くできるのでは」と思われていることがあります。でも、うちは安くはやりません、それなりのお金はもらいます。でないと福祉を食いつぶすことになるからです。 これ以上、施設は大きくする気はありませんが、頑張って継続していかないといけないと考えています。そのためには設備は更新していかないといけない。ただ持続することは大変なことです。材料の値段も上がってきていますし、世の中も変わっていますので。また、今回のように専門家との商品開発というような活動は続けていきたいですね、外部の人たちと一緒に活動することは大きな刺激になります。 |
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●<たなか・はつお> 社会福祉法人 幸仁会 理事長 | ||||||||||||||||
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