祝!『森tebaco』ウッドデザイン賞 農林水産大臣賞受賞!
 

農林水産大臣賞受賞に思うこと

文/浅田 茂裕

   
 
 
   
 

この度のウッドデザイン賞農林水産大臣賞の受賞にあたり、プロジェクトに参加した皆様、そして様々な形で支援して下さいました皆様に、まずは心より御礼申し上げます。また福祉の分野に対して光を当てていただいた、ウッドデザイン協会ならびにウッドデザイン賞審査委員の皆様にも感謝の意を表します。
私たちが進めてきた林福連携の取り組みは、令和3年度から林野庁補助事業として始まったものです。このプロジェクトには、社会福祉法人幸仁会川本園(田中初男理事長、以下川本園と呼ぶ)そして私どもNPO法人木育・木づかいネットとともに、多くの皆さんに支えられ、進めてきました。デザインを担当していただいた内田洋行、パワープレイスはもちろん、グラムデザイン、酒井産業、地域の社会福祉協議会など様々な方にチームに参加していただき、デザインの具体化、普及、広報、販路形成などについてご意見をいただきました。中心となった川本園とともに、そこで働く障害者(利用者)の皆さんが生き生きと活躍できる場を創る、そして地域の木材を利用した愛着が持てる製品を創る。それを目指した3年間でした。と書ければよかったのですが、最初からそうだったわけではあありません。むしろ振り返れば、自分自身の理解、発想の乏しさ、拙さを思わずにはいられません。
川本園の田中理事長と話をしていて、よく「木材は面白い」というお話を耳にします。打ち合わせはもちろん、食事の席でも何度となくそういう話をうかがうのですが、そのココロは、木材でものを作っていると応援団が集まってきてくれる、ということのようです。それは幸仁会が川本園、そしてウッドワーク川本の2拠点で30年以上にわたって事業を継続する中で、資金や材料の調達、技術開発などに多くの支援があったことは想像に難くありません。もちろん田中理事長は木材のやわらかさ、あたたかさを愛しておられますし、川本園が福祉作業としての木材加工の良さを誰よりも知っておられます。そういう意味を含めて、私は田中理事長が「木材は面白い」と話されるのが大好きで、なんとなく顔が綻んでくるのを感じます。ただその一方で、田中理事長はこうもお話しされます。「私たちにとってみると、別に木材である必要なんてないんですよ」と。いろいろな意味があると思いますが、福祉に携わる田中理事長の矜持だと思います。
川本園は、就労継続支援B型事業所で、知的障害をお持ちの障害者の就労支援事業を行っておられます。現在川本園には知的障害を持つ40名の利用者が木工作業に取り組んでおられますが、障害の程度も様々で、職員の皆さんが個々の状況に応じた支援を行い、1つ1つの製品を生産されています。とても丁寧な作業で、一般の木工所と遜色ない品質の木製品が、障害者の皆さんの手で生み出されています。しかし、川本園で働く障害者の皆さんが受け取る1ヶ月の工賃は27,000円程度に過ぎません。一般のB型作業所の平均工賃が16000円程度(令和3年度厚労省調査)であることを考えれば、川本園は多くの経営努力によって、高い水準の工賃を支払っておられるといえます。しかし、田中理事長はじめ川本園の皆さんはさらによい待遇を実現するために、多くの努力を重ねておられます。福祉を志し、ノーマライゼーションの実現という目標達成に向けては、新たな業種、職種への転換を厭わない、そういう覚悟が「木材加工でなくともよい」という言葉には宿っているように思います。
プロジェクトを進めていきながら、私自身は田中理事長はじめ、職員の皆さんから多くのことを学びました。例えば障害者のこと。補助事業の報告書に、「障害者」と書くのが憚られると思った私は「障碍者」「障がい者」と書いて、これを川本園にお見せしました。すると全て「障害者」に修正されて戻ってきました。理由はとくにお聞きしていませんが、障害者は障害者であって、恥じるものではないとでも言われたような気がして、川本園が目指すノーマライゼーション社会がどこにあるか、深く考えさせられました。田中理事長からは、「御涙頂戴」の仕事はしたくないと言われたことも思い出します。障害者が作っている製品だから、障害者だからで評価してほしくない、製品を見て買って欲しいという強い思いでした。デザインはもちろん、広報ではその点を確認しながら進めました。
プロジェクトが3年目を過ぎた今、私たちは川本園との取り組みの1つの到達点として、企業との製品開発の機会を得ようとしています。これまで川本園が経験したことのない新たな挑戦に、私たちも一緒に伴走することができることを、とても嬉しく思っています。障害者の社会参加、就労支援を目指す川本園と木材利用、森づくりを応援したいという私、そして木育・木づかいネットが、ようやく林×福連携のスタートを切れたような、そんな実感が湧いています。それは今回受賞したことよりも遙かに嬉しいことで、これからの自分を励ましている大きな材料になっています。障害者のいきいきと働く場を創る。一朝一夕にできることではありませんが、このチームならなんとかできる。そしてその成果を、川本園から全国の木工作業所へと広げていけると確信しています。
最後に、私と川本園の出会いについてお話しします。私が初めて川本園を知ったのは、埼玉大学着任1年目の夏頃のことだったと思いますから、もう30年近く前のことになります。九州から講師として着任し、「装置がない」、「予算がない」と愚痴だけが出る状況の中で、恩師である九州大学の故・又木義博先生の「地域に出ていったらどうか」という助言から、飛び込むように埼玉県庁や関係機関、森林組合、林業家、木材関連企業などを1つずつ訪ねて歩きました。川本園を訪問したのもそのうちの1つでした。当時は理事長が創業オーナーの野村吉茂氏(故人)でしたが、私の名刺を見るなり、「同じ茂の字がついてるねえ。なんだか親しみわいちゃうよ」と人懐っこい笑顔でお話しくださいました。当時の川本園は竹製品から木製品への転換が図られ、新たな機械、装置の導入整備が進んでいた頃でした。その施設を野村理事長自身が、身を乗り出すように、丁寧に説明して下さった姿は今も鮮やかに思い出すことができます。帰り際には、「何かそのうち一緒にやりましょうよ。」と若さしかなかった私に笑顔で声をかけていただきました。実際に私が少しずつ仕事をご一緒できるようになったのは、その後20年以上経ってからのことで、木工に舵を切った野村さんの思いやご苦労については、ようやく今、少しずつ理解ができるようになってきたように思います。今もう一度野村さんとお話しできたら、どんな声をかけてくださっただろうか。もっと早く気づけば、もっと違う仕事ができたのかもしれません。
このように、林×福連携の取り組みは、私にとっては常に学びの場、成長の機会であり、思い返せばよくこのような賞をいただけるまでになったものだと思います。もちろんいまだに迷走していることもありますが、この仕事に対する純粋さだけは高めることができたと思いますし、プロジェクトチームは真っ直ぐにゴールを目指して走り始めています。今後さらに多くの成果が得られるように、その成果を全国各地の福祉作業所にその成果を広げられるように、そして障害者の皆さんが誇りを持って働く場を創るという目標を、木材製品の加工という作業によって達成できるように、今後も取り組んでいきたいと思います。引き続き皆様のご支援をお願いします。
この度は本当にありがとうございました。

   
   
   
   
   
  ●<あさだ・しげひろ> 埼玉大学教育学部教授、 NPO法人木育・木づかいネット理事長
   
 
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