必見! これがタニチシステムだ!!(仮)
 

The タニチシステム

文/写真 谷知 大輔

   
 
 
  1. 森林・林業白書への掲載
   
 

皆様、月刊杉131号に登場したタニチシステムを覚えていますか? 詳細はコチラ

タニチシステムにはその後、重大な出来事が起こりました。
月刊杉に登場したのが2019年11月。その後、2020年6月になんと通常国会を経て、森林・林業白書に取り組みが掲載されました。
そのタイトルは「タニチシステム」を活用した地場産業の活性化に向けた取り組み。正直このタイトルで大丈夫か?と思いましたが、主に森林・林業・木材産業に関わる方々から大きな反響をいただきました。

 


  図:令和元年度 森林・林業白書(令和2年6月16日公表)第3章第2節
   
 

白書への掲載にあたり、林野庁の担当者からは様々な質問を受けました。その中に印象に残っている質問があります。
「地域産業の活性化と言うが、図書館など単発の仕事になり、継続性はないのではないか。」という、やや挑戦的なものです。指摘のとおり、高畠町のプロジェクトでは継続して高畠の製材所に仕事を依頼できる内容ではありません。ただし、高畠町の一部の方々は当初、町産材を使って図書館や遊戯場は出来ないと思っていました。
特に使用する木材に対する指定がない建築の場合、一般流通材を用いることが普通です。たとえ公共建築物であっても、建築される地域以外の木材が地域外で加工されて、工事業者に支給されます。高畠町の場合は、結果的に高畠町産材で出来たわけです。こうなると高畠町で建築を計画される、次の公共建築の仕様には一部でも高畠町産材を用いることが入ってきて、地域に仕事が回っていくことに繋がります。このような切っ掛けを作ったことが地域産業の活性化になると私は考えています。

   
 
  2. タニチシステムとは思想そして愛
   
 

度々「タニチシステムを本当の意味でシステム化して、色々な地域でできるようにすると良いですね。」といった話をいただきますが、私がやろうとしている木材流通は、そう簡単に全てを仕組み化出来るものではないと思っています。その理由は以下の4つになります。

1.地域の零細事業者を仕組み化の枠に入れるとアンバランスが生じることが多い。
  もしくは入れない仕組みになっている。

2. 地域によって事情が異なるため、仕組み化できない。

3. ガッツリ人対人で肩組んで取り組む仕事の方が単純に好き。

4. 愛は仕組み化できない。


業界としてはまだまだ若手が少ないこともあり、いまだに通信手段がファクシミリの事業者が存在しています。DX時代にFAXなのです。林業の現場においても、スマート林業という言葉が使われ始めました。確かに作業効率や生産性の向上が図れて良いこともありますが、その波に乗れない業者も少なからずいます。そういう業者は取り残していいのでしょうか。私の考えはノーです。片方がスマートなら、付いていけない業者はスマートじゃないみたいでとても嫌な感じです。多様性は残すべきだと思うので、どこの地域で何をしても同じ結果になるような仕事ではなく、地域の温度を感じられる仕事になるように熱量高めで取り組んでいます。
また、単純に地域で仕事をする場合は、出来る限り対面で話を聞きに行くことを大事にしています。机上でも様々想定はしますが、現場が大事です。色々な人がいて、勿論異なる意見の方とも仕事をすることもあります。相手のことを知るには自己開示が重要あり、開示する自己には1本『タニチシステム』という筋を通しておくことが大事だと考えています。お互い開示ができれば、意見は異なっても、肩を組んで理解し合い、仕事を進めることは出来ます。
地域材調達して、地域で加工し、地域の建築に利用する仕事への愛がないとなかなか実行できません。効率化や生産性、コスト、メンテナンスという理屈ですぐに楽な方に流れてしまいます。粘り強くやり抜くためには、地域や人、仕事への愛がないとできません。
 タニチシステムとして高畠町のプロジェクト以降取り組んだ木材調達案件の一部について以下に示します。
2019年 米沢市すこやかセンタープレイルーム 木材調達担当
2020年 良品計画上海公司 国産材輸出における国内での木材調達監理
2021年 複合施設VISON 木と森の体験施設kiond 木材調達監理
2022年 福島県大笹生道の駅 福島県産材木材調達監理
2022年 山形県高畠町 高畠コワーキングスペース 山形県産材木材調達監理
2022年 JR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィス 鉄道林調達監理

この中でも特に、JR東日本東京建設プロジェクトマネジメントオフィス(略称:東京PMO)の新築案件にて、鉄道林を調達した取り組みを紹介します。
鉄道林は暴風雪等から鉄道の安全を守ってきた鉄道沿線に設けられた森林であり、防災設備です。その鉄道林の保守の過程で生じる伐採材を、安全をトッププライオリティーとして業務している東京PMOの什器に活用し、鉄道林に込められた安全に対する強い想いを継承した、木のぬくもりを感じられる空間を実現しました。

   
 
  鉄道林の横を走る東日本旅客鉄道北上線の車両
   
  導入当初は林業としても成立していた鉄道林ですが、昭和40年代以降、木材の輸入自由化を受けて、木材売却益が得にくくなっていきました。また防災の観点から鉄道林は生育本数の密度管理が重要であり、経済林と比較して密度が高く、枝がたくさんある方が良いとされています。そのため、木材は節が多く、不均質であるため、利用しづらいと考えられてきました。当プロジェクトでは、節あり材を含む木材の選別を細かく行い、鉄道林をオフィス什器として利用しています。その調達の過程は記録映像として残し、youtubeにも上げています。
 
  鉄道林の活用が繋ぐ想い(Short Ver.)
   
  仕組み化については否定的なことを述べましたが、上述の通り、少しずつではありますが、実績も増えてきたため、全体ではなく一部を上手く仕組み化することで、より多くの地域でタニチシステムを実施できる可能性はあります。また、様々な地域で取り組めるように仲間を増やす活動も行っています。パワープレイス社内では、若手社員を様々な出張に連れ回しています。木材を利用する企業は対前年比にばかり拘り、決まった牌を奪い合うのではなく、未来の森や社会をどのように創っていくのかを、ユーザーと共に考えていくような時代になっているのではないでしょうか。ユーザーを消費者と呼ぶ時代はもう終わりです。
   
 
  宮崎ツアーで内田洋行の若手社員と宮崎県の皆様とPWPいつものメンバーで
   
 
  3. 流行りで終わらせてはいけないこと
   
 

今はSDGsや脱炭素社会という言葉に伴い木材や地域産材活用が流行りです。
 敢えて、流行りという言葉を使いましたが、SDGs17の目標になんとかこじつけて訴求できないか、といったことを考えた経験がある方もいるかと思います。こうした流行りのおかげで、建築プロジェクトなど行為の結果だけの評価ではなく、森林そのものや木材、そしてその流通プロセスまで評価されることが多くなりました。これはタニチシステムとしては、とても良い傾向です。
一方で、SDGsや脱炭素社会という言葉が独り歩きして、胸元にSDGsのバッジをつけるだけであったり、表向きだけそういう言葉を使った営業手法や自治体のプロポーザルの仕様なども多く見受けられるようになりました。表面上の取組にならないようにするためには、何が必要なのでしょうか。更にSDGsが目指す、『誰一人取り残さない』を実現するためには何ができるのでしょうか。私は大きく2つに取り組んでいます。

  1. 森林・林業、木材産業の(地域)現場に行って話を聞いてみる。
  2. 未来への投資を怠らない。若手には大いに色んな現場に行かせる。

まず@について、社会の概況については、白書やインターネットから情報を収集できますが、どこも似たようなまとめが多い傾向があります。私たちは概況には表れない声にこそ耳を傾けるべきだと考えます。それぞれの地域に応じて声は異なります。そのため、誰一人取り残さない社会の実現は、一つの大きな受け皿に皆を入れるのではなく、様々な特色を持つ共同体が複数存在し、自分に合う受け皿が社会に存在することが必要なのだと考えます。これから必要なことは、地域の声なき声に寄り添い、企業として市民として共感できる地域と共に未来を考えていくこそが、社会全体として誰も取り残さない社会を実現することに繋がります。
現在、木材調達業務以外にも武蔵野美術大学の学生と宮崎県に行き、森林・林業、木材産業の現場を見学し、そこで暮らし、働く人から話を聞く、産学連携プロジェクトに参画する機会をいただいています。学生はこれまで教わるという受動から、能動的に学ばないといけない現場に放り込まれて、地域に存在する価値や社会の本質をビジュアライズしていきます。
この取組の中で学生が一番心動かされるのが、造林現場です。伐採した後に、苗を植える人がいる。そしてその苗が育ち、利用できるようになるまでには、植えた人はこの世の中に存在しない場合がほとんどで、木を植える人は自分が死んだあとの未来を想って木を植えている。私たちが使う木製品は40年以上前に木を植えた人がいて、私たちの手元に届いており、手に届くまでたくさんの時間と人が関わっていることに心がざわつきます。企業活動に木材利用が落とし込まれると、どうしても納期とコストと品質の管理の話になってきて、とても大事な話が抜け落ちてしまいます。

SDGsは2030年までに達成すべき目標ですが、林業はずっと昔から50年先、100年先を見据えて木を植え、山を創ってきています。そこには、たくさんの人が関わり、人の営みが積み重なって、今の文化や暮らし、景観が形成されています。豊かな未来のための無数の共同体を作るために、人に対する金銭的、時間的投資が必要です。
   
 
  4. ど真ん中のはみ出し者
   
 

 いよいよタニチシステムが何なのかわからなくなってきたと思いまが、ここで私がタニチシステムを実行する上で大事にしている考え方の武士の7徳について紹介します。7つの徳と私の解釈は以下の通りです。

義:
正しい行いのことです。自分が正しいと考える筋が1本通ってないと、ブレブレになって、人の言うことばかり聞いてしまうことになり、反対の意見が出ると動けなくなってしまいます。

勇:
動じない心を持つことです。大体、新しいことに取り組むと失敗したり、予期せぬ出来事に巻き込まれたりします。ある意味あっけらかんとしながら、やるべきことをしっかり見据え、対応していきます。

礼:
敬意を持って接することです。これは当たり前ですが、親しき仲にも、といったことを意識しています。

誠:
正直であることです。仕事は一人ではできません。トラブルに巻き込まれたときなど、すぐさま相談できる関係は礼があってこその関係構築だと考えます。
仁:相手の気持ちを慮ることです。お互いの信頼関係を生むには、礼と仁があるからこそです。自分が困ったときに正直(誠)であれば、支え合いながらプロジェクトを進められると考えています。

名誉:
プライドです。逃げたくなっても、支え合える仲間がいれば大変な仕事であっても、自分のプライドで仕事に向き合うことができます。

忠義:
クライアントそして仕事仲間への忠義を尽くす。

というようにしています。
急に武士道の話で混乱させてしまっていると思いますが、これが基本姿勢になって先に述べた取り組み進めています。タニチシステムは谷知の思想なのです。
私は今、世の中は本質のドーナツ化現象が起こっていると考えています。本当は真ん中にある大事な事柄に誰もが気づいているのですが、「そこを考えても変わらない」、「既得権益があり変えられない」、「上司に言っても理解してもらえない。」など出来ない、変わらない理由を並べて大切なことを議論したり、そこに触れたりすることを避け、大事な真ん中の部分が空洞になっています。先に述べた学生たちも最初は大人側が期待する答えを置きに来ようとすることがほとんどで、肚をなかなか割りません。果たしてそんな世の中でいいのでしょうか。

私は木材の流通や調達という手段をもって、そのドーナツ化の、ど真ん中にはみ出し、一番隊隊長としてこれからもタニチシステムで斬り込んで参ります。何卒、援軍よろしくお願いします。
   
   
   
   
   
  ●<たにち・だいすけ> パワープレイス/ウッドデザイナー
   
 
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