スギダラツアー2019 in 山形
 

籠利くん きみが山形にいくんやで

文/籠利 貴大

   
 
   
 

「籠利くん きみが山形にいくんやで」
私がテラダデザインに入社して2ヶ月後にテラダデザイン社長平手から言われた言葉です。

私は2018年1月よりテラダデザインに入社し、高畠町立図書館と高畠屋内遊戯場「もっくる」の実施設計から現場監理まで担当させていただきました。
入社当初から、山形に案件があることは知っていました。実施設計をやることも前提としてあったので、今思えば初めから私が高畠に常駐する予定だったのだなと思いました。

先日のオープニングイベントでは、たくさんの方が来場し、嬉しそうな顔を見ていると改めて頑張ってよかったな。高畠に来てよかったな。と涙が溢れ感慨深い思いになりました。
今回、このような場所で文章を書かせてもらえるということで、私が現場に常駐するにあたり起こった問題や苦労を書かせていただきたいと思います。


1. 住む場所

高畠町に常駐することが確定し、まずは部屋を探し始めました。
最終的には町の方に図書館の現場事務所から徒歩10分の良物件を紹介いただき何事もなく済んだのですが、初めは近くにマンスリーもない、、、家具を揃えなくてはいけないのか、、、コストが、、、などいろいろ悩まされました。
結果、家具は最低限揃え、来客用の布団まで用意し(誰も使わなかったので無駄でしたが)思ったより快適な暮らしを始められました。


2. 交通手段高畠では車がないと何もできない。

高畠町の常駐を始めたのが8月の頭からだったのですが、なんだかんだ車をリースすることができたのが、9月の半ば、約1ヶ月間は徒歩で図書館現場とアパートを往復する毎日。
駅へ行くときはタクシー。もう一つの現場の遊戯場に行くときもタクシー。
挙句、タクシーの運転手に自宅と図書館現場と遊戯場現場を覚えられ、『今日はどこ行くの?』と仲良くなれました。あの運転手さんとはリース車が来て以来会ってないですが、元気かな。


3.現場事務所の居場所が会議室

建築の設計図書には、現場が始まった後、監理者がいる場所を書いておくことができます。今回の場合は両施設とも現場事務所内に居場所を作ってくださいと記載していました。
現場事務所ができて初めての定例会議で私の居場所ってありますか?と施工会社に確認すると『ここでいいですか?』とのこと、、、ありがとうございます。。。
よくよく施工会社の方と話をしていると、監理者は普段、現場事務所には多くても週1回くらいしか来ないので作ったことがほぼないとのこと。
毎日来ます!と会議室内に居場所を作っていただきました。

   
 
  現場事務所会議室内の私の居場所
   
 


4、言葉の壁

現場も少しずつ進みはじめ、打ち合わせの量も増えていきます。町の方に決めてもらうこと、現場での不具合の修正、物資の発注などなど多くの打ち合わせをするのですが、ちょくちょく言葉が聞き取れないのです。
ご高齢の方に至っては半分以上なにを言っているかわかりません。笑ってごまかすか、真剣に聞いている振りをすることしかできないのです。
なんとか言いたい内容を聞き出していくのですが、最後までこの表現は難しいなと思ったのが、
「それはわがんねーす」
どういう意味か分かりますか?
例文としては
「この間の図面なんですけど、修正して明日までに送ってもらえませんか?」
「それはわがんねーす」
です。
ん、、、?ですよね。
なんども説明しているのに分からないってどういうこと?と思いましたが、
よくよく聞くと、「それはできない」とか「無理です」という意味だったそうです。
納得。


5、遊戯場現場からのクレーム

中学校の体育館だった既存の改修である遊戯場ですが、私が本拠地にしていたのは図書館現場事務所。移動には車で10分ちょっとかかります。
常駐始めの頃は車がなかったこともあり、週に1回か2回くらいしか行くことがありませんでした。
2つの現場が走り始め図面のチェックが遅れ始めた頃、
「籠利さんは図書館には毎日いるのになんで遊戯場には毎日来ないんですか?毎日来てください。現場は死ぬ気でやってるんですから!」
、、、、、ごもっともです。ごもっとも過ぎて何も言えませんでした。
ごめんなさい。次の日からは、図書館と遊戯場を毎日往復するようになり、現場の雰囲気も良くなっていきました。


6、雨

工事現場では天候にものすごく左右されます。
花形工事の一つであるコンクリート打設。雨が降ってしまうとせっかく綺麗に均した表面に雨があたりザラザラになってしまいます。
図書館現場の打設当日は夕方からの雨予報で時間を繰り上げ朝5時半から打設開始。たくさんの職人さんたちが作業しているのは見ていて圧巻です。
多少の雨には降られましたが無事工事終了しました。

   
 
  コンクリート打設の様子
 
   
 

7、木と鉄とコンクリート

高畠図書館は木造、鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造の混構造です。
適材適所に良いところを活かした構造としているのですが、現場で相当苦労したのがもう一つの花形工事、建て方です。
先に出来上がったコンクリートの壁に木の柱と鉄骨の梁を同時に繋げなくてはいけません。木の柱は長いもので8mくらいあるので大変です。
地上では普段一緒に作業することのない、鉄骨屋さんと大工さんがあーでもないこーでもないと議論を交わしながら進めていきました。

   
 
  木の柱をクレーンで吊っている様子。上にいるのは多分、大工さん。
   
 
  木の柱が並び始める。手前からは登り梁も掛かり始めています。
   
   
 

8、既存の建物がぐだぐだ

遊戯場の工事は解体が進み、目玉である遊具「モッキンガム」の施工が始まりました。そこで問題になったのが、既存の体育館の不具合です。
壁のコングリートはぐずぐず、床は体育館として使っていたにも関わらず斜めに施工されているのです。
リノベーションの大変さを思い知らされ、まずは水平を確保するところからスタート。水平でない床に水平になるように床を貼るのはすごく大変で、土台一つ一つを調整していかなくてはいけなくなります。
それでも現場の方々は根気強く作業していただいたおかげで、綺麗な水平の床が完成しました。

   
 
  モッキンガムの土台。既存体育館の床をくり抜いて設置しています。
   
 
  体育館の床の上に新規の床を貼っている様子。
   
   
 

9、VS設備

どの現場でもあることだとは思いますが、設備と建築との戦いがあります。
壁を作るにも天井を作るにも、電気の配線や、空調のダクト、換気扇など仕上げを行う前に設備が入ります。設計の段階からどこに何を入れるかは検討しているのですが、いざ現場で作ろうと思うと入らないことがよくあります。
それにより位置の変更、機器の変更があり、思っていたものと違うものが作られ始めます。それを制御するのが監理の仕事(見せどころ?)なのですが、なかなか思うようには行かず、意図しないで出来たところも少なからずあります。
正直、私以外の人はわからないと思いますが、何か見つけてもそっとしておいてください。(※機能上は全く問題ありません!念の為!)

   
 
  壁、天井の工事中写真(図書館、事務室)
   
 
  天井の空調ダクト配管の様子(遊戯場、休憩コーナー)
   
   
 

10、冬。雪。

山形県高畠町は豪雪地域です。設計している時も、屋根の上に2mの積雪を考慮して設計しています。
工事をしていた2018-2019の冬は例年に比べて雪が少なかったようで、工事にもあまり影響がなかったです。助かりました。
雪が降る地域の方は当たり前かもしれませんが、朝起きてまずすることは雪かきなのです。
車がよく通る道は除雪され通行に支障がないようになっているのですが、そこまで行く道が積もっていて家から出られません。
そんな朝が数日続くと、寒いし眠いし面倒臭いし、布団から出たくないと何度も心が折れかけました。
大雪が降っても何事もなく仕事している職人さんはすごいです。

   
 
  大雪の時の現場風景。これでも現場は進みます。
   
   
 

11、いよいよ完成

雪はまだまだ降り続けますが、現場は終盤に差し掛かります。
仕上げ、トイレ機器の設置、サイン取り付けなど、最終的に見えてくる場所の施工です。施工には十分に配慮して、傷つけたり、壊したりしないよう養生しながら作業が進められます。完成が見えてくると、気になるところも見えてきます。細かいところに修正を加えながら、綺麗にかっこよく、安全に使いやすく、気を遣っていきました。

   
 
  遊戯場ほぼ完成の様子。いたるところに養生がされています。
   
 
  図書館ほぼ完成の様子。こちらも養生だらけで守られています。
   
   
 

12、完成

3月15日遊戯場、図書館共に完成。
現場では、いろいろな検査が行われ手直しをして最後に町の完成検査が行われます緊張しました何を言われるのかドキドキしながら、建物を一通り見て、図面を提出し、確認し、無事合格。
安堵。
工期もギリギリで終わりも最後まで見えなかったので、なんとか滑り込んだ!という感じでした。

オープンまで、図書館は外構工事が残っていたし、遊戯場も出入り口の改修が残っていたので、完成したものの、まだまだ気は抜けないなと感じながらも、とても嬉しかったのを覚えています。

常駐は4月までの予定でしたので、ここで山形での生活は終了です。
現場事務所の整理をして、アパートの片付けをし、車も返却して、何もなくなった時に寂しい思いになりました。8ヶ月間という長いようで、短い期間でしたが私にとっては第二の故郷のような場所になっていたようです。

   
 
  図書館完成
   
 
  遊戯場完成
   
   
 

13、常駐する意味

今回、高畠に常駐して監理をさせていただくまで現場では、意匠設計者がデザインを変更すると怒られたり、嫌われたりするものだと思っていました。しかし、現場に常駐することで、毎日顔を合わせるようになり、出来たことはものすごく多かったです。
メールや電話では伝わらない思いはまだまだたくさんありますね。

図書館、遊戯場共に人と人の繋がりがコンセプトの一つにありますが、現場でも同様に人と人との繋がりがあったからこそ、町の人に愛されるような空間が作れたのではとないか思います。
今後も、人と人との繋がりを大切にし、より良い空間を作れるよう精進していきたいと思います。

最後に、新参者の私を高畠に送り出してくれた若杉さん。お世話になった高畠町の皆様。たくさんのわがままを聞いてくださった施工業者の皆様や職人の皆様。不慣れな状況でご迷惑をお掛けし、それでも助けていただいた設計チームの皆様。結婚して1ヶ月で高畠に行くことになってしまったにも関わらず文句も言わずに支えてくれた妻。
本当にありがとうございました。

   
   
   
   
 

●<かごり・たかひろ> テラダデザイン一級建築士事務所

   
 
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